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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#32 対決!

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「あのさ、玉ちゃん」
 玉子をかばうように両手を広げた姿勢で、ヒバナはささやいた。
「あの腕輪、あんなふうにいじられたら、わたしたち、ちょっとヤバくない?」
 いつかのことを思い出したのである。
 以前、安奈が腕輪を持ち出したときのことだ。
 安奈があの"大いなる腕輪"をいじりまわしたせいで、ヒバナたち4人は自分の意志に関係なく、変身したり変身を解かれたり、と散々な目に遭わされた。
 それを今シンにやられたら、大変なことになる、と思ったのだ。
「大丈夫だろ。今回はあたいら、あの腕輪で変身させられたわけじゃないから、あれをいじったところで、何の影響も出ないはずだよ」
 したり顔で玉子がいう。
 外見とは裏腹に、玉子はヒバナの何十倍何百倍も人生経験が豊かである。
 その分、言葉に重みがあった。
 そう聞いて、ヒバナは安心した。
 確かに今目の前でシンは腕輪のリングを回している。
 だが、ヒバナも玉子も体に異常はないようなのだ。
 そうとわかれば、気が楽だった。
 あとは戦うだけでいいのだ。
「おまえら、俺の話、聞いてないな」
 シンが呆れたようにいった。
「おまえらが残してきたこれを、霊界ネットワークから取ってきたのは、この俺なんだぞ」
 もちろんヒバナも覚えている。
 あれは最初にレオンと会った頃のことだ。
 ヒバナたちを追って、あの御霊のひしめく異次元の霊廟に、シンは大型バイクで突っ込んできたのである。
「でも、あんたが死んで、その後麗奈に渡り、その麗奈も死んで最終的にはわたしたちのものになったんだから、そんなのおかしいじゃない」
 ヒバナは抗議した。
 話し合いでけりがつくとはもとより思っていないが、意見だけはちゃんと述べておきたかったのだ。
「俺も麗奈も生き返っちまったんだから、しょうがねえだろ。所有権は主張させてもらうぜ」
 そういうなり、シンの体の輪郭がぼやけ始めた。
 膨張していく。
 革のジャケットが弾け飛んだ。
 裸の上半身が、ぬめりを帯びた皮膚に覆われていく。
「うわ。キモ」
 玉子がうめいた。
 ヒバナは思い出した。
 シンには変身能力があるのだ。
 以前もそうだった。
 シンの操る生体兵器を倒した後、ヒバナはシンの本体と戦ったのだ。
 黄色の体に黒の斑点のある気味の悪い生き物。
 南米産のサンショウウオ、メキシコサラマンダーに酷似した化け物だった。
 前回と違うのは、今度は上体が縦に裂け、頭がふたつ形成された点である。
「2対1じゃ分が悪いからな」
 天井近くまで膨れ上がり、2つの巨大な頭部を揺らしながら、シンがいった。
「玉ちゃん、行くよ」
 ヒバナが地を蹴った。
 同時にシンの一方の首がゴムのように伸び、空中でヒバナの腰に巻きついた。
 床にたたきつけられた。
「うっ」
 万力のような力で締め上げてくる。
 肋骨が軋む音が聞こえてくる。
「畜生!」
 ヌンチャクを振り回しながら玉子が突進した。
 その足元を、残ったもう一方の首がすくった。
 鞠のように転がる玉子。 
 その下半身を、シンの耳まで避けた口がくわえ、半ばまで飲み込んだ。
「玉ちゃん!」
 ヒバナは両腕に力をこめた。
 上腕部のひれカッターが強度を増す。
 それを確かめて、力まかせに腕を引き抜いた。
「うぐ」
 真っ赤な血がしぶき、シンの首が離れていく。
 その隙を逃さず、右腕に神剣フツノミタマを実体化させる。
 再び襲ってきた首をかいくぐると、シンの胴体に剣を突き立てた。
 神代の時代、レオンの前身であるタケミカヅチが中津国平定に使用した剣である。
 切れ味は申し分なかった。
「くそ!」
 シンの巨体が揺らぎ、首が大きく旋回した。
 ヒバナを銜え込もうと、背後から猛然と迫ってきた。
 剣を体内に収納するなり、ヒバナは空いた両手でその顎をつかんだ。
 上顎と下顎に手をかけ、
「うおォォォォ!」
 咆哮とともに引き裂きにかかる。
 華奢な体からは想像もできない馬鹿力だった。
 血の泡を吹きながら、最大級のアリゲーターほどもある化け物の口がこじ開けられていく。
「天空魔法、地獄の業火!」
 もう一方の首に半ば食べられかけていた玉子が叫んだのは、そのときだった。
 狭い通路に、ふいに炎が渦巻いた。
「ぐわあ!」
 玉子をくわえていたシンの頭部が燃え上がる。
 玉子が転がり出た。
 ヌンチャクを振り回しながら、シンの胴体に駆け寄っていく。
 2本の棒でしたたかに腕を殴りつけた。
 腕輪が飛んだ。
 玉子がそれを空中でキャッチする。
「ヒバナ、今だ!」
「OK!」
 ヒバナは半ば引き裂いた化け物の顎を離すと、壁に向かって両手をのばした。
 お椀の形に合わせた両の掌の中に、火球を現出させる。
 腕を、砲丸投げのように、大きく後ろに引いた。
「そうれ!」
 反動をつけて腕を振り、プラズマ火球を放つ。
 強化ガラスが砕け散った。
 ごうっと音を立てて、海水が通路になだれ込んでくる。
 玉子が駆け寄ってきた。
 そのむくむくした体を抱きかかえると、ヒバナは奔流に逆らって、壁に空いた穴へと飛び込んだ。
 海中に出る。
 四肢に生えているひれが、役に立った。
 ロケットのように、海面めがけて浮上していく。
 魚群のただなかを突き抜けた。
 次の瞬間、海面に飛び出していた。
「背中につかまって!」
 玉子の位置を直してやると、両腕で水をかきながら、翼を広げた。
「飛ぶよ!」
 掛け声とともに、トビウオよろしく海面を滑走した。
「ヒャッホウ!」
 玉子が無邪気に叫ぶ。
「サイコーだな! こりゃまるで、ジェットスキーじゃんか!」
「でしょ?」
 得意げにヒバナはいった。
「わたしだって、やればできる子なんだから」
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