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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#4 幻視される魔女②

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 翌日は職員会議の日とかで学校が昼に終わり、玉子はその足で水族館に直行した。
 南三河ビーチランドは、テーマパークを名乗るのもおこがましいほど、さびれたレジャー施設である。
 ただ、併設の水族館は、小さいながら工夫を凝らした展示で、全国的に有名だった。
 目玉は深海生物の飼育である。
 ダイオウグソクムシからリュウグウノツカイまで、生きた深海生物を間近に見られるため、日本中から愛好家たちが集まってくる。
 玉子は大昔、まだ豊玉姫だった頃、一時"乙姫"役を務めたこともあり、ウミガメを見るのが好きだった。
 が、きょうはウミガメより桜子を捕まえるのが先決だ。
 きのうのイカが気になってならないのである。
 イルカショーの会場にいくと、ちょうど桜子がショーを終えて出てくるところだった。
 体にぴったりした紺のウェットスーツを身につけている。
 この格好だとさすがに年頃のオンナという感じがして、寸胴で三頭身の玉子は桜子が羨ましくなった。
「あー、玉ちゃん、きのうぶり!」
 桜子が大きく手を振って、変な挨拶を送ってきた。
「ちょうどよかったよ。玉ちゃんに見てもらいたいもんがあるんだ」
 桜子は玉子を子ども扱いしない。
 そこが他の何よりも桜子の美点であり、玉子が彼女を気に入っているところでもあった。
 エスカレーターで最上階に登ると、研究棟に出た。
 元はかなり広い部屋なのだろうが、所狭しと水槽が並べてあるため、小柄な玉子でも通路を通るのに、ひと苦労するほどだった。
 その奥の机に、桜子は玉子を導いた。
「きのうのダイオウホオズキイカは、現在防腐処理中で、ちょっと見せてあげられないんだけど」
 椅子に玉子を坐らせると、大きなガラスの容器を持ってきて机の上に置く。
「その代わりにこれ。あのイカの切断面にくっついてたの。何だと思う?」
 それは、象牙でできた牙のようなものだった。
 長さ50センチは優にある。
 反り返り、細くなった先端が鋭く尖っている。
「動物の歯みたいだな」
 玉子がいうと、桜子がわが意を得たりとばかりにうなずいた。
「そう。たぶん、あのイカをかじったやつの歯じゃないかと思うんだけど」
「サメかな」
 適当にいうと、今度は桜子がかぶりを振った。
「ううん。ここ見て。先っぽに穴が空いてるでしょ。あ、触らないでね。危ないから」
「危ない?」
「この穴、どうも毒腺みたいなのよ」
「ドクセン?」
「マムシの牙と同じ。獲物を噛むと、ここから毒液が出るようになってるの」
「ってことは・・・」
「そう。おそらく、これは爬虫類のもの。しかも、この歯の大きさからすると、本体は、体長60mはあるんじゃないかって、みんないってるの」
「はあ?」
 玉子は呆れた。
 体長60mの爬虫類って。
「それマジ、怪獣じゃねえかよ」

 ナギが吐いている。
 フェリーを降りてすぐの、港の売店の前だった。
 その兄を、ナミは冷ややかな目で眺めていた。
 置いてくればよかった、と思う。
 これがかつての自分の夫であり、現在の双子の兄であると思うと、腹が立って仕方がない。
 高校を早引きしてここ御門島に向かったはいいが、ナギが途中のフェリーで酔ってしまったのだった。
 良く晴れた、気持ちのいい午後である。
 11月に入ったというのに、昼間はまだ、夏のように暑い。
「ちょっとナギ、いい加減にしてよね」
 ナミが冷たい口調でいうと、
「ご、ごめん」
 ハンカチで口を拭いながら、ナギが戻ってきた。
「どうも、僕、船に弱くてさ」
 あんた、いったい何にだったら強いのよ。
 そんな悪態が口から出かかったときだった。
「乾(いぬい)ナミさまと、ナギさまですね」
 ふいに背後から声をかけられた。
 ロータリーにデラックスなハイヤーが止まり、後部座席のドアが開いている。
 その横に、背広姿の若者が立っていた。
「僕らのこと?」
 ナギが首をかしげた。
「お迎えみたいね」
 ナミがいった。
「あんた、誰?」
 鋭い口調で、訊く。
「"天国への階段"の、水島といいます」
「水島?」
 どこかで見た顔だ、とナミは思った。
「ようこそ、御門島へ」
 若者が深々とお辞儀をした。
「麗奈様がお待ちです。さ、こちらへどうぞ」
「ありゃ」
 ナギがナミを振り返って、情けなさそうな表情でいった。
「どうする? なんか、思いっきりばれてるみたいだよ」

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