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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!
#20 来襲
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変身後のヒバナは、今までとはかなり様子が違っていた。
確かに、体は大きくなっている。
3mに届こうかというほどに背が伸び、手足の筋肉もそれに見合うだけ進化を遂げている。
だが、外見は変身前とほとんど変わっていないのだった。
以前、貢が目撃したヒバナは、全身を鱗で覆われ、四肢に生えた鋭角のひれと背中の翼、それに長い尾という具合に、およそ人間離れした姿をしていた。
それが今は、体のサイズがふた回りほど大きくなったほかは、ほとんど変化していない。
すべすべの肌。
子猫のような顔。
茶色がかった髪が、ゆるやかなカーブを描いて肩の辺りにまで垂れている。
ただ、心なしか目つきが鋭くなったように見える。
「なんか・・・」
貢は茫然とつぶやいた。
「ヒバナ、あんまり変わってないんだけど・・・」
「そんなことないよ」
ヒバナが右腕を一振りした。
手に、剣が現れる。
もう一回、振った。
手首から肘の辺りにかけて、今度は逆三角形の鋭利なひれが出現した。
「こんなふうに」
両手を大きく広げた。
ばさっと背中で音がして、皮膜でできた翼が広がった。
「出し入れ可能になったってこと」
「観測者が変わったからか」
貢は感心した。
「でも、こっちのほうがセンス、いいな。エロかっこいい」
「なによ。それ」
NASA特製の"戦闘服"・・・袖なしセーラー服型の白い上着とマイクロショートパンツは、肉体の巨大化に会わせて伸張していた。
体が大きくなった分、形のよい胸とすらりと伸びた脚が強調されて、刺激的なことこの上ない。
「いいよ、その脇乳」
貢がひとしきり鑑賞にふけっていると、
「おまえさんは、やはり・・・」
隣で老人がつぶやいた。
老婆がそうだったように、いきなりヒバナに向かって平伏した。
「善次さん、別に拝まなくてもいいですよ。ヒバナは、ああなっても頭の中は前と全然変わってないですから」
呆れて貢はいった。
「相変らずオツムが弱いままってこと?」
ヒバナが頭上から睨むマネをする。
「じゃなくて、気さくでかわいい女の子のままってことだよ」
あわてて言葉を補った。
このヒバナに逆らうのは得策ではない。
それこそスーパーマンに喧嘩を売るようなものだ。
「後はわたしにまかせて、ふたりとも母屋に戻っててくださいな」
そっけない口調で、ヒバナがいった。
「特に糸魚川さんは、もう用済みです。居ると邪魔になるだけ」
「ってヒバナ、それはないよ。何もそんなにはっきりいわなくても・・・。だいたい、3人交代で見張るって、さっき決めたじゃないか」
貢は心底情けない声で抗弁した。
ヒバナのいうとおりであることは、自分がいちばん承知している。
しかし、だからといって・・・。
「鬼の腕を見て、気が変わったんです。あれの本体がやってきたら、人間はひとたまりもない。腕だけであの大きさなら、身長は5、6mはありそう。ま、来るとしても、首ナシの状態なんでしょうけど」
「わしは残る」
頑なに、老人がいった。
「元々、ここを守るのはわしの役目だ。他人にまかせて自分だけ逃げるなどということは、断じてできはしない」
「でも、善次さん、武器も何もなしで、守るも守らないもないですよ」
「武器なら、ある」
老人は立っていくと、上手のほうに姿を消し、やがて先が二つに分かれた長い槍のようなものを持って戻ってきた。
「それ、なんですか? あ、ひょっとして、刺又?」
貢の問いに、老人がうなずいた。
「まあ、確かに鬼も泥棒でしょうけど・・・」
ここは苦笑いするしかない。
「あのさ、ヒバナ。さっきもいったけど、俺には事のあらましを記録するって使命があるんだよ」
貢はD物質観測機を床に置いて、セットにかかった。
「なるべく、邪魔にならないように、目立たないとこにいるからさ」
「んもう、しょうがないなあ」
ヒバナがくびれた腰に両の拳を当て、胸をそらして頬をふくらませた。
「じゃ、ふたりとも、どこかに隠れててください」
「こっちに祭事用の備品室がある。そこに身を隠そう」
老人がいい、貢の肩に手を置いた。
上手の板戸を開け、中に入る。
老人が明かりをつけた。
黴臭い部屋だった。
子どもが担ぐ小型の神輿や注連縄、幟旗などが雑然と押し込まれている。
「来るとしたら、酒呑童子の本体じゃなくて、ツクヨミかその手先ですね。いくら鬼の大ボスでも、首がつながるまでは動けないでしょうから」
「それはそうだな」
老人がうなずいた。
「それにしても、ツクヨミも元はといえば、神々の眷属、なのに、なぜそこまでわれら人間と敵対するのか」
「あいつには、人間に敵対しているつもりなんてないと思いますよ。あいつから見れば、俺たちなんて虫けら同然ですから。ただ、地上をきれいに更地にしたいだけなんです。そして、おそらく、最終目標は姉を倒すこと」
「ツクヨミの姉、というと、まさか・・・」
「ええ、そのまさか、です。あいつはたぶん、姉の天照大神を殺そうとしている」
貢がそこまでいったときだった。
ふいに、手元のタブレット端末の画面に赤い点が点った。
「う、き、来た。マジで」
思わずうめいた。
そのうめき声をかき消すように、突然外で、どーんという大きな音が響いた。
「そっちかよ!」
貢は叫んだ。
叫ばずにはいられなかった。
敵は本殿の外だ。
このままでは、美月たちが危ない。
確かに、体は大きくなっている。
3mに届こうかというほどに背が伸び、手足の筋肉もそれに見合うだけ進化を遂げている。
だが、外見は変身前とほとんど変わっていないのだった。
以前、貢が目撃したヒバナは、全身を鱗で覆われ、四肢に生えた鋭角のひれと背中の翼、それに長い尾という具合に、およそ人間離れした姿をしていた。
それが今は、体のサイズがふた回りほど大きくなったほかは、ほとんど変化していない。
すべすべの肌。
子猫のような顔。
茶色がかった髪が、ゆるやかなカーブを描いて肩の辺りにまで垂れている。
ただ、心なしか目つきが鋭くなったように見える。
「なんか・・・」
貢は茫然とつぶやいた。
「ヒバナ、あんまり変わってないんだけど・・・」
「そんなことないよ」
ヒバナが右腕を一振りした。
手に、剣が現れる。
もう一回、振った。
手首から肘の辺りにかけて、今度は逆三角形の鋭利なひれが出現した。
「こんなふうに」
両手を大きく広げた。
ばさっと背中で音がして、皮膜でできた翼が広がった。
「出し入れ可能になったってこと」
「観測者が変わったからか」
貢は感心した。
「でも、こっちのほうがセンス、いいな。エロかっこいい」
「なによ。それ」
NASA特製の"戦闘服"・・・袖なしセーラー服型の白い上着とマイクロショートパンツは、肉体の巨大化に会わせて伸張していた。
体が大きくなった分、形のよい胸とすらりと伸びた脚が強調されて、刺激的なことこの上ない。
「いいよ、その脇乳」
貢がひとしきり鑑賞にふけっていると、
「おまえさんは、やはり・・・」
隣で老人がつぶやいた。
老婆がそうだったように、いきなりヒバナに向かって平伏した。
「善次さん、別に拝まなくてもいいですよ。ヒバナは、ああなっても頭の中は前と全然変わってないですから」
呆れて貢はいった。
「相変らずオツムが弱いままってこと?」
ヒバナが頭上から睨むマネをする。
「じゃなくて、気さくでかわいい女の子のままってことだよ」
あわてて言葉を補った。
このヒバナに逆らうのは得策ではない。
それこそスーパーマンに喧嘩を売るようなものだ。
「後はわたしにまかせて、ふたりとも母屋に戻っててくださいな」
そっけない口調で、ヒバナがいった。
「特に糸魚川さんは、もう用済みです。居ると邪魔になるだけ」
「ってヒバナ、それはないよ。何もそんなにはっきりいわなくても・・・。だいたい、3人交代で見張るって、さっき決めたじゃないか」
貢は心底情けない声で抗弁した。
ヒバナのいうとおりであることは、自分がいちばん承知している。
しかし、だからといって・・・。
「鬼の腕を見て、気が変わったんです。あれの本体がやってきたら、人間はひとたまりもない。腕だけであの大きさなら、身長は5、6mはありそう。ま、来るとしても、首ナシの状態なんでしょうけど」
「わしは残る」
頑なに、老人がいった。
「元々、ここを守るのはわしの役目だ。他人にまかせて自分だけ逃げるなどということは、断じてできはしない」
「でも、善次さん、武器も何もなしで、守るも守らないもないですよ」
「武器なら、ある」
老人は立っていくと、上手のほうに姿を消し、やがて先が二つに分かれた長い槍のようなものを持って戻ってきた。
「それ、なんですか? あ、ひょっとして、刺又?」
貢の問いに、老人がうなずいた。
「まあ、確かに鬼も泥棒でしょうけど・・・」
ここは苦笑いするしかない。
「あのさ、ヒバナ。さっきもいったけど、俺には事のあらましを記録するって使命があるんだよ」
貢はD物質観測機を床に置いて、セットにかかった。
「なるべく、邪魔にならないように、目立たないとこにいるからさ」
「んもう、しょうがないなあ」
ヒバナがくびれた腰に両の拳を当て、胸をそらして頬をふくらませた。
「じゃ、ふたりとも、どこかに隠れててください」
「こっちに祭事用の備品室がある。そこに身を隠そう」
老人がいい、貢の肩に手を置いた。
上手の板戸を開け、中に入る。
老人が明かりをつけた。
黴臭い部屋だった。
子どもが担ぐ小型の神輿や注連縄、幟旗などが雑然と押し込まれている。
「来るとしたら、酒呑童子の本体じゃなくて、ツクヨミかその手先ですね。いくら鬼の大ボスでも、首がつながるまでは動けないでしょうから」
「それはそうだな」
老人がうなずいた。
「それにしても、ツクヨミも元はといえば、神々の眷属、なのに、なぜそこまでわれら人間と敵対するのか」
「あいつには、人間に敵対しているつもりなんてないと思いますよ。あいつから見れば、俺たちなんて虫けら同然ですから。ただ、地上をきれいに更地にしたいだけなんです。そして、おそらく、最終目標は姉を倒すこと」
「ツクヨミの姉、というと、まさか・・・」
「ええ、そのまさか、です。あいつはたぶん、姉の天照大神を殺そうとしている」
貢がそこまでいったときだった。
ふいに、手元のタブレット端末の画面に赤い点が点った。
「う、き、来た。マジで」
思わずうめいた。
そのうめき声をかき消すように、突然外で、どーんという大きな音が響いた。
「そっちかよ!」
貢は叫んだ。
叫ばずにはいられなかった。
敵は本殿の外だ。
このままでは、美月たちが危ない。
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