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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!

プロローグ ~混沌~

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 深くもぐった水中から、水面に浮かび上がるときのような感覚だった。
 光に向かって手を伸ばし、懸命に足をばたつかせていたら、突然空中に飛び出したかのような・・・。
 乾(いぬい)ナミはぶるっと身を震わせた。
 そこは教室だった。
 ホワイトボードを背に、女性教師が立っている。
 パリっとしたスーツを着こなした、見たことのない先生だ。
 どうやら英語の授業の真っ最中らしい。
 ナミはふと、自分が、見覚えのない制服を着ていることに気づいた。
 薄茶色のセーラー服である。
 あれ? うちの制服って、紺のブレザーだったんじゃ・・・?
 違和感を感じた。
 が、周りの女生徒も、やはり皆同じセーラー服姿だ。
 男子生徒も、薄茶の上着を着ている。
 ここは、どこ?
 あたしのいた、曙高校じゃない・・・。
 教科書を盾にして教師の視線を避けながら、ナミは周りを見回した。
 斜め前に、見覚えのある男子生徒が坐っている。
 限りなく金髪に近い生まれつきの茶髪。
 双子の兄、乾ナギだった。
 定規で背中をつついた。
 びくっと一瞬硬直すると、
「いてえなあ」
 ナギが振り向いた。
「ちょっとナギ」
 ナミは、性別以外は自分そっくりの兄をじっと見つめた。
「なんであんた、生きてるのよ?」

 終鈴が鳴り終わるのも待たず、生徒たちが口々にしゃべりながら教室を出て行く。
 帰宅する者、部活に急ぐ者、目的はさまざまである。
 教室に残ったのは、ナギとナミの2人だけだった。
「言われて見れば僕、確かに死んでたような気がする」
 机に腰かけ、折りたたんだ長い脚を両手で抱くようにしながら、ナギがつぶやいた。
「だよね。だいたい、ここどこなの? あたしたちって、曙高校の2年生だったはずじゃない?」
 ナミが、フレームの細い銀縁の眼鏡を親指と人差し指で軽く持ち上げ、
 いぶかしげにあたりを観察する。
「さあ。なんか気づいたら授業中だったもんな」
 ナギが頭を掻いたとき、ふいに少年の声がした。
「ここは私立華南学園さ」
 いつのまにか、教室の後ろに見たことのない男子生徒が立っていた。
 白髪に真っ白な肌。
 双眸だけが血のように赤い。
「おはよう、元死天王のおふたりさん。まさかこんなかたちで君たちに会うことになるとはね」
 外人のように両手を広げ、うっすらと笑う。
「あんた、誰?」
 ナミの声が尖る。
「ぼくはツクヨミ。世界がさ、リセットされちゃったんだよ」
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