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第7部 ヒバナ、ハーレムクィーン!
#1 戦闘少女は、キャンパスクィーンの夢を見るか?
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見れば見るほど不思議な印象の少女だった。
特別に目立つ顔立ちをしているわけではない。
が、何かにびっくりしているように見開いた目と、
こじんまりした鼻と唇が、絶妙なバランスを保っている。
ほとんどすっぴんなのに、肌はほどよいピンク色できめが細かくつやつやして いる。
子どものようなあどけなさと奇妙な色気が同居した表情が、これまたかなり魅 惑的である。
額に青い小さな宝石をくっつけているのは、最近の流行なのだろうか。
「あ、わたし、岬ヒバナっていいます。あの、人を探してるんですけど」
少女が勢い込んでいった。
「すごく綺麗な女子高生と、野球帽かぶった中学生の女の子、ここへ来ませんで したか?」
「すごく綺麗な、女子高生、ですか?」
俺は少女に見とれながら、阿呆のように繰り返した。
「それと、野球帽の女子中学生?」
心当たりはなかった。
というより、忙しすぎて、客の顔など見ている余裕がなかった、
というのが正直なところだった。
「あー、困ったなあ、またわたし迷子になっちゃったよ」
ヒバナと名乗った少女が、天を仰いでぼやいた。
顕わになった白い喉元が、また魅力的だった。
「ちょっといいかね、君」
白衣姿の丸山先輩がカウンターから出てきて、俺とヒバナの間に割り込んだ。
先輩は、しゃべりさえしなければ、学内一といっていいほどのイケメンであ る。
日本人離れした薄く高い鼻、銀縁眼鏡越しの鋭い眼光、背も俺より5センチは 高いし、脚も長い。
しかも、自称IQ300いう図抜けた頭脳の持ち主だ。
普通だったら恋のライバルとしてこれほどやっかいな相手もいないのだが、そ の心配ははっきりいって無用だった。
丸山先輩はオンナに興味がないのだ。
もちろん、男にもない。
先輩の興味の対象は、『宇宙』、そして『超常現象』のみ。
今時珍しい科学オタクなのである。
先輩と会話して、10分我慢できた女子を俺はいまだかつて知らなかった。
「私は丸山時郎。この超常研の部長だ。ヒバナさんとやら、君にたってのお願い が・・・」
先輩がもったいをつけてそこまでいったとき、突然戸が開いて怒涛のごとく汗 臭い集団が ”店”の中になだれこんできた。
「おー、丸山、レイコ20杯たのむわ!」
野球部の荒くれ男たちだった。
レイコって死語だろ?
うんざりして想わず顔をしかめたときである。
「20杯・・・」
力なくうめいて、へなへなとメイド姿のお通夜が床にはいつくばった。
「おい、つや、大丈夫か」
あわてて抱き起こすと、完全に白目をむいて口から泡を吹いていた。
対人恐怖症と疲労が限界に達したらしい。
「まずいな」
先輩が俺を見た。
限りなく頼りにならないとはいえ、お通夜はこの『るる家』唯一のウェイトレ スである。
お通夜亡き後、給仕できるのは俺一人ということになる。
冗談じゃない。
俺はそんなことのために、この世に生を受けたわけじゃない。
「先輩、逃げましょう」
そうささやいたときである。
「わたし、手伝いましょうか?」
ふいにヒバナがいった。
「わたし、本職ウェイトレスなんです」
ヒバナの働きぶりはすごかった。
狭い店内をトレイを両手に蝶のように舞い、てきぱきと注文を片づけていっ た。
しかも、かっこうがまたサービス満点なのだ。
背中がざっくり開いた上着に、お尻が見えそうなショートパンツ姿なのであ る。
俺は、生まれてから一度も、こんなプリプリした見事な尻を見たことがなかっ た。
小ぶりなのに、中身がぎっしり詰まった桃のよう、とでも言おうか。
ヒバナがかがんだり爪先立ちしたりするたびにその魅惑的なヒップが動き、俺 の目は釘付けになった。
「真面目に働け。貢、おまえ、いつからストーカーになった?」
カウンターの内側で茫然とヒバナに見とれている俺に、先輩がいった。
「い、いや、その、あんまり尻が、いえ、なんでもないっす」
現代社会の恐ろしいところは、情報伝達の速さだ。
LINEがあれば、瞬時に何でも伝わってしまう。
ヒバナ登場の情報は瞬く間にキャンパス内を席巻し、主に運動部からなる大量 の男どもを『るる家』に引き寄せることになった。
もともとこの模擬店は『超常現象研究会』の部員募集のためのものだったのだ が、そんな地味な活動にはまるで縁のない筋肉バカばっかりが店を占拠してし まったのだから、事態は深刻だった。
ひたすら先輩がサンドイッチを作り、俺がコーヒーを淹れ、ヒバナが運ぶ。
馬車馬のようにキリキリ働いていると、閉店予定の4時を待たずしてすべての食材が底をついた。
「よし、終了だ」
先輩がカウンターを飛び越え、なおも入ってこようとするラグビー部の連中を 押し返し、表に『CLOSE』の看板を下げて戸を閉めた。
3人でテーブルを囲んで座り、そろってため息をつく。
そこにお通夜が起きてきて、4人になった。
「ありがとう。恩に着る。給料、払うよ」
先輩がヒバナに頭を下げた。
「いえ、そんな。わたしが勝手にお手伝いしただけですから」
ヒバナが微笑んだ。
「で、さっきの続きなんだが」
先輩が咳払いひとつして、いいかけたときだった。
がらりと戸の開く音がして、
「あ、ヒバナ、こんなとこにいた」
だしぬけに子どもの声がした。
振り返った俺は、あんぐりと口をあけた。
突拍子もない組み合わせの一団が、戸口に立っていた。
ヒバナと同じデザインの白い上着を着た、超マイクロミニのすごい美少女。
びっくりするほど、脚が長く、そして胸が大きい。
額に、ヒバナと同じ青い宝石をつけている。
その足元に、ムク犬の着ぐるみを着た小学生が、ちょこんと座っている。
岸田劉生の『麗子像』に瓜二つのおかっぱ頭が、笑いを誘う。
なぜかこの子も、額に宝石をはめ込んでいる。
その隣に立つ、目つきの鋭い、野球帽をあみだにかぶった中学生くらいの女の 子。
迷彩柄のトレーナーを着て、大きなショルダーバッグを肩から提げている。
この少女だけは、額に宝石がない。
「あ、みんな」
ヒバナの顔に、大輪の花が咲いたような明るい笑みが浮かぶ。
「ヒバナ、何してたの? なんかすごい有名人になってるよ。動画投稿サイトに 上がってる」
野球帽の少女がクールな口調でいった。
「戦闘少女がそんなに目立っていいのかよ。どうなっても知らねえぞ」
えらそうにたしなめたのは、ムク犬である。
「お互い、こんなかっこうで来ちゃったの、ちょっとまずかったかもね」
すごい美少女が、短すぎるスカートの裾を引っ張りながら、はにかんだように 笑う。
「いえ、そんなことないですよ」
ふいにお通夜が口を出したので、俺と丸山先輩は思わず顔を見合わせた。
お通夜の声を聞くのは、実に3日ぶりくらいだった。
超内向的なこのオンナは、話しかけてもろくに返事をしないのが常なのである。
「ヒバナさん、とてもかっこいいです。もちろん、みなさんも。あの、そこでお 願いがあるんです。フィナーレに、カラオケクィーンを決める大会が、あるんですけど、あの、あたしと一緒に、出場してもらえませんか?
あたし、前からいっぺん、出てみたかったんです。ひとりでは無理だけど、
ヒバナさんや、みなさんとなら・・・」
通夜はいつになく真剣だった。
潤んだ目で、ヒバナのほうを見つめている。
ヒバナのスーパーなウェイトレスぶりに、ひどく心を動かされたらしかった。
文章にしたら5行にもわたる長い台詞を口にするのは、お通夜にとってはおそらく生まれて初めてのことではないか、と俺は思った。
「お通夜、なんでそういう展開になる?」
先輩が端正な顔をしかめていった。
無理もない。
先輩としては、竜脈探知機を破壊するほどの波動を持ったヒバナのことを、
一刻も早く調べてみたくて仕方がないのだ。
「立ち働くヒバナさんの姿を見てたら、わたしも何かやらなきゃ、
と思えてきて、それで・・・」
「青春の血が騒いだってわけか?」
「出てあげなよ」
野球帽の少女が、ヒバナと隣の美少女を交互に見やって、いった。
「ヒバナと緋美子先輩なら。間違いなく優勝だよ」
「えー、わたし、歌、あんまり知らないよ」
ヒバナが胸の前で否定の形に掌をひらひらさせる。
「うちのお店、懐メロしか流れてないから、わたしのレパートリー、1980年代止 まりなんだ」
「なら、3人だし、キャンディーズですかね」
お通夜が瞳を輝かせ、うれしそうにいう。
「この時代にキャンディーズだと? ありえん」
苦々しげにつぶやいたのは、もちろん先輩である。
その先輩に向かって、ふいに美少女が声をかけた。
「あの、話変わりますけど、このお店の名前って、HP.ラヴクラフトですよね。 るる家、ルルイエ、クトゥルー神話。ですよね?」
「うむ」
珍しく、先輩が顔を赤らめた。
ほお。
俺は感心した。
やるな、この娘、と思った。
この大学に学生が何万人居るか知らないが、このからくりに気づいたのは、
この少女がおそらく初めてだろう。
「よし、お通夜、俺が許す。ヒバナさんたちと一緒に、
カラオケ大会とやらに、行って来い」
先輩がいった。
「はい」
お通夜がぴょんと背筋を伸ばし、敬礼する。
「よっしゃー! そうこなくっちゃ!」
ムク犬の着ぐるみを着た小学生が、興奮気味に叫んだ。
「え? 玉子も出るつもりなの?」
目を丸くするボーイッシュな少女をジロリとひとにらみすると、
「主役はどうみてもあたいだろ?」
ムク犬が、そういばった口調でいった。
特別に目立つ顔立ちをしているわけではない。
が、何かにびっくりしているように見開いた目と、
こじんまりした鼻と唇が、絶妙なバランスを保っている。
ほとんどすっぴんなのに、肌はほどよいピンク色できめが細かくつやつやして いる。
子どものようなあどけなさと奇妙な色気が同居した表情が、これまたかなり魅 惑的である。
額に青い小さな宝石をくっつけているのは、最近の流行なのだろうか。
「あ、わたし、岬ヒバナっていいます。あの、人を探してるんですけど」
少女が勢い込んでいった。
「すごく綺麗な女子高生と、野球帽かぶった中学生の女の子、ここへ来ませんで したか?」
「すごく綺麗な、女子高生、ですか?」
俺は少女に見とれながら、阿呆のように繰り返した。
「それと、野球帽の女子中学生?」
心当たりはなかった。
というより、忙しすぎて、客の顔など見ている余裕がなかった、
というのが正直なところだった。
「あー、困ったなあ、またわたし迷子になっちゃったよ」
ヒバナと名乗った少女が、天を仰いでぼやいた。
顕わになった白い喉元が、また魅力的だった。
「ちょっといいかね、君」
白衣姿の丸山先輩がカウンターから出てきて、俺とヒバナの間に割り込んだ。
先輩は、しゃべりさえしなければ、学内一といっていいほどのイケメンであ る。
日本人離れした薄く高い鼻、銀縁眼鏡越しの鋭い眼光、背も俺より5センチは 高いし、脚も長い。
しかも、自称IQ300いう図抜けた頭脳の持ち主だ。
普通だったら恋のライバルとしてこれほどやっかいな相手もいないのだが、そ の心配ははっきりいって無用だった。
丸山先輩はオンナに興味がないのだ。
もちろん、男にもない。
先輩の興味の対象は、『宇宙』、そして『超常現象』のみ。
今時珍しい科学オタクなのである。
先輩と会話して、10分我慢できた女子を俺はいまだかつて知らなかった。
「私は丸山時郎。この超常研の部長だ。ヒバナさんとやら、君にたってのお願い が・・・」
先輩がもったいをつけてそこまでいったとき、突然戸が開いて怒涛のごとく汗 臭い集団が ”店”の中になだれこんできた。
「おー、丸山、レイコ20杯たのむわ!」
野球部の荒くれ男たちだった。
レイコって死語だろ?
うんざりして想わず顔をしかめたときである。
「20杯・・・」
力なくうめいて、へなへなとメイド姿のお通夜が床にはいつくばった。
「おい、つや、大丈夫か」
あわてて抱き起こすと、完全に白目をむいて口から泡を吹いていた。
対人恐怖症と疲労が限界に達したらしい。
「まずいな」
先輩が俺を見た。
限りなく頼りにならないとはいえ、お通夜はこの『るる家』唯一のウェイトレ スである。
お通夜亡き後、給仕できるのは俺一人ということになる。
冗談じゃない。
俺はそんなことのために、この世に生を受けたわけじゃない。
「先輩、逃げましょう」
そうささやいたときである。
「わたし、手伝いましょうか?」
ふいにヒバナがいった。
「わたし、本職ウェイトレスなんです」
ヒバナの働きぶりはすごかった。
狭い店内をトレイを両手に蝶のように舞い、てきぱきと注文を片づけていっ た。
しかも、かっこうがまたサービス満点なのだ。
背中がざっくり開いた上着に、お尻が見えそうなショートパンツ姿なのであ る。
俺は、生まれてから一度も、こんなプリプリした見事な尻を見たことがなかっ た。
小ぶりなのに、中身がぎっしり詰まった桃のよう、とでも言おうか。
ヒバナがかがんだり爪先立ちしたりするたびにその魅惑的なヒップが動き、俺 の目は釘付けになった。
「真面目に働け。貢、おまえ、いつからストーカーになった?」
カウンターの内側で茫然とヒバナに見とれている俺に、先輩がいった。
「い、いや、その、あんまり尻が、いえ、なんでもないっす」
現代社会の恐ろしいところは、情報伝達の速さだ。
LINEがあれば、瞬時に何でも伝わってしまう。
ヒバナ登場の情報は瞬く間にキャンパス内を席巻し、主に運動部からなる大量 の男どもを『るる家』に引き寄せることになった。
もともとこの模擬店は『超常現象研究会』の部員募集のためのものだったのだ が、そんな地味な活動にはまるで縁のない筋肉バカばっかりが店を占拠してし まったのだから、事態は深刻だった。
ひたすら先輩がサンドイッチを作り、俺がコーヒーを淹れ、ヒバナが運ぶ。
馬車馬のようにキリキリ働いていると、閉店予定の4時を待たずしてすべての食材が底をついた。
「よし、終了だ」
先輩がカウンターを飛び越え、なおも入ってこようとするラグビー部の連中を 押し返し、表に『CLOSE』の看板を下げて戸を閉めた。
3人でテーブルを囲んで座り、そろってため息をつく。
そこにお通夜が起きてきて、4人になった。
「ありがとう。恩に着る。給料、払うよ」
先輩がヒバナに頭を下げた。
「いえ、そんな。わたしが勝手にお手伝いしただけですから」
ヒバナが微笑んだ。
「で、さっきの続きなんだが」
先輩が咳払いひとつして、いいかけたときだった。
がらりと戸の開く音がして、
「あ、ヒバナ、こんなとこにいた」
だしぬけに子どもの声がした。
振り返った俺は、あんぐりと口をあけた。
突拍子もない組み合わせの一団が、戸口に立っていた。
ヒバナと同じデザインの白い上着を着た、超マイクロミニのすごい美少女。
びっくりするほど、脚が長く、そして胸が大きい。
額に、ヒバナと同じ青い宝石をつけている。
その足元に、ムク犬の着ぐるみを着た小学生が、ちょこんと座っている。
岸田劉生の『麗子像』に瓜二つのおかっぱ頭が、笑いを誘う。
なぜかこの子も、額に宝石をはめ込んでいる。
その隣に立つ、目つきの鋭い、野球帽をあみだにかぶった中学生くらいの女の 子。
迷彩柄のトレーナーを着て、大きなショルダーバッグを肩から提げている。
この少女だけは、額に宝石がない。
「あ、みんな」
ヒバナの顔に、大輪の花が咲いたような明るい笑みが浮かぶ。
「ヒバナ、何してたの? なんかすごい有名人になってるよ。動画投稿サイトに 上がってる」
野球帽の少女がクールな口調でいった。
「戦闘少女がそんなに目立っていいのかよ。どうなっても知らねえぞ」
えらそうにたしなめたのは、ムク犬である。
「お互い、こんなかっこうで来ちゃったの、ちょっとまずかったかもね」
すごい美少女が、短すぎるスカートの裾を引っ張りながら、はにかんだように 笑う。
「いえ、そんなことないですよ」
ふいにお通夜が口を出したので、俺と丸山先輩は思わず顔を見合わせた。
お通夜の声を聞くのは、実に3日ぶりくらいだった。
超内向的なこのオンナは、話しかけてもろくに返事をしないのが常なのである。
「ヒバナさん、とてもかっこいいです。もちろん、みなさんも。あの、そこでお 願いがあるんです。フィナーレに、カラオケクィーンを決める大会が、あるんですけど、あの、あたしと一緒に、出場してもらえませんか?
あたし、前からいっぺん、出てみたかったんです。ひとりでは無理だけど、
ヒバナさんや、みなさんとなら・・・」
通夜はいつになく真剣だった。
潤んだ目で、ヒバナのほうを見つめている。
ヒバナのスーパーなウェイトレスぶりに、ひどく心を動かされたらしかった。
文章にしたら5行にもわたる長い台詞を口にするのは、お通夜にとってはおそらく生まれて初めてのことではないか、と俺は思った。
「お通夜、なんでそういう展開になる?」
先輩が端正な顔をしかめていった。
無理もない。
先輩としては、竜脈探知機を破壊するほどの波動を持ったヒバナのことを、
一刻も早く調べてみたくて仕方がないのだ。
「立ち働くヒバナさんの姿を見てたら、わたしも何かやらなきゃ、
と思えてきて、それで・・・」
「青春の血が騒いだってわけか?」
「出てあげなよ」
野球帽の少女が、ヒバナと隣の美少女を交互に見やって、いった。
「ヒバナと緋美子先輩なら。間違いなく優勝だよ」
「えー、わたし、歌、あんまり知らないよ」
ヒバナが胸の前で否定の形に掌をひらひらさせる。
「うちのお店、懐メロしか流れてないから、わたしのレパートリー、1980年代止 まりなんだ」
「なら、3人だし、キャンディーズですかね」
お通夜が瞳を輝かせ、うれしそうにいう。
「この時代にキャンディーズだと? ありえん」
苦々しげにつぶやいたのは、もちろん先輩である。
その先輩に向かって、ふいに美少女が声をかけた。
「あの、話変わりますけど、このお店の名前って、HP.ラヴクラフトですよね。 るる家、ルルイエ、クトゥルー神話。ですよね?」
「うむ」
珍しく、先輩が顔を赤らめた。
ほお。
俺は感心した。
やるな、この娘、と思った。
この大学に学生が何万人居るか知らないが、このからくりに気づいたのは、
この少女がおそらく初めてだろう。
「よし、お通夜、俺が許す。ヒバナさんたちと一緒に、
カラオケ大会とやらに、行って来い」
先輩がいった。
「はい」
お通夜がぴょんと背筋を伸ばし、敬礼する。
「よっしゃー! そうこなくっちゃ!」
ムク犬の着ぐるみを着た小学生が、興奮気味に叫んだ。
「え? 玉子も出るつもりなの?」
目を丸くするボーイッシュな少女をジロリとひとにらみすると、
「主役はどうみてもあたいだろ?」
ムク犬が、そういばった口調でいった。
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