あばたとえくぼの異界怪奇事件帳

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　ターゲットの家は青鬼山の反対側の麓に広がる住宅街の一画だった。
　父親が建築家というだけあって洒落たつくりの建物である。
「警戒厳重そうだね」
　あたしは夜空を背景に佇む二階建ての邸宅を見上げた。
　鉄の門扉はぴたりと鎖され、外部からの来訪者を完全に拒否する雰囲気だ。
「奥に離れがあるはず。おそらく犯人と新たな被害者はそこにいる」
　向こうが透けて見える躰をゆらゆらさせながら久保が言う。
　変身して分子の結合が緩くなったせいか、声がバイブレーションがかかったように震えている。
　久保があの若造刑事のスマホからゲットした情報によると、昨夜以来行方不明の女子高生がひとり。
　沢木優香18歳、市内の某私立女子校の3年生だ。
　青鬼山の山道の入口で自転車とリュックが発見されたこと以外、今のところ手掛かりはないという。
　つまり、バラバラ殺人の犯人に拉致されたという証拠は出ていないが、その可能性も捨てきれないというわけだ。
「じゃ、いつもの手順で」
　久保が言い、門扉の前に立つ。
　と思ったら、ふいにぐにゃりと曲がって見えなくなった。
　消えたのではない。
　水虎の特性を生かして、水たまりに変身したのである。
　ずるっと水たまりが動いて門扉の下をくぐると、後に久保が脱ぎ捨てた紺のスク水だけが残された。