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ACT6 帝国の魔手
#14 リコ⑧
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飛行モードに変身すると、羽ばたかなくても空を飛べる。
原理は不明だが、背中の翼には重力を調節する機能があるらしい。
だからリコは労せず5階の通廊まで飛び上がった。
ここにあるのは屋上駐車場への出入口だけだから、人の気配はない。
手すりから身を乗り出し、下を覗いてみた。
裸眼でもリコは視力がいい。
2.0は軽く超えるだろう。
それが、変身すると10倍になり、暗闇でも見えるし、対象物の拡大も思うがままだ。
「あいつ、生きてたのか」
思わず歯噛みしたのはほかでもない。
踊る群衆の輪の中、ステージの中央に、見覚えのある異形を発見したからだ。
女性器の頭部を持つ怪人、デウス・エクス・ヴァギナである。
ヴァギナは無事な左腕でアリアを抱え、セーラー服にタータンチェックのミニスカアイドルたちに囲まれて、ジュリアナ時代のボディコンOLみたいに腰をくねらせて踊り狂っている。
『改造されていますね。高をくくると痛い目に遭いますよ』
イオに指摘されるまでもなかった。
リコが剣で切り落とした右腕の代わりに、肩から奇妙なものが生えている。
銀色の光沢を放つ、金属の触手である。
どうやら、自由自在に曲がる、電気スタンドの首の部分みたいなつくりになっているらしい。
「くそ。アリアが邪魔で狙撃ができない」
恨めしげにレイガンの銃口を見つめながら、リコは言った。
「もっと高度を下げて近づいて、隙を狙うしかないな」
バイザーには、あらゆる技に対応する照準器が備わっている。
だから少しでも隙があれば狙撃も可能なのだが、いかんせん、ヴァギナはアリアを抱いたまま、くねくねと躍っている。
下手をすると、フォトンの粒子がアリアも焼き尽くしてしまいかねないのだ。
ステージの後ろには、いつのまにか大きな横幕が張られ、
『OManKo48 デビューコンサート』
そんな文字が、きらきらとミラーボールの光を跳ね返している。
ハルの勘通りだった。
OMKとは、まさしくアレの略称だったのだ。
「どこからどこまで猥褻なやつだ」
吐き捨てるように言って、手すりを飛び越えた。
翼を広げ、グライダーよろしく、滑空を開始する。
らせんを描いて3階まで舞い降り、ステージの真上でホバリングの体勢に入った時だった。
「おのれ! 待っていたぞ!」
いち早く頭上のリコに気づいて、怪人が大声を張り上げた。
しゅっと空気を切り、シルバーの触手が伸びてくる。
「うわっ」
リコの誤算は、目測より、触手の伸びのほうが早いことだった。
たちまち足首をつかまれ、すごい勢いで引きずり降ろされた。
マイクロミニがひるがえり、腰まで切れ上がったハイレグレオタードの下半身が丸出しになる。
イオの言う通り、ヴァギナは改造されてパワーアップしているようだった。
ものすごい怪力から逃れることもできず、右肩からリコは床に叩きつけられた。
「ううっ」
プロテクターが激突で軋んだ。
「リコさまあ!」
アリアの叫び声。
上体を起こすと、ヴァギナの胸でアリアが手足をバタバタさせながらこっちを見つめている。
両手に銃を構えてみたが、やはりアリアが盾になっていて、怪人を一撃で倒すのは無理なようだ。
足でも狙って隙をつくるか。
リコがそう決断した時だった。
「われらの野望を邪魔するものには、肉の鉄槌を! 出でよ! 改造獣、だいだらビッチ!」
だしぬけにヴァギナが絶叫した。
はあ?
緊迫した場面である。
なのにリコは、ついキョトンとした顔でステージ上の怪人を見上げてしまった。
おい、今、なんて言った?
だいだら、ビッチ?
なんだそりゃ?
と、正直、呆れてしまったのである。
原理は不明だが、背中の翼には重力を調節する機能があるらしい。
だからリコは労せず5階の通廊まで飛び上がった。
ここにあるのは屋上駐車場への出入口だけだから、人の気配はない。
手すりから身を乗り出し、下を覗いてみた。
裸眼でもリコは視力がいい。
2.0は軽く超えるだろう。
それが、変身すると10倍になり、暗闇でも見えるし、対象物の拡大も思うがままだ。
「あいつ、生きてたのか」
思わず歯噛みしたのはほかでもない。
踊る群衆の輪の中、ステージの中央に、見覚えのある異形を発見したからだ。
女性器の頭部を持つ怪人、デウス・エクス・ヴァギナである。
ヴァギナは無事な左腕でアリアを抱え、セーラー服にタータンチェックのミニスカアイドルたちに囲まれて、ジュリアナ時代のボディコンOLみたいに腰をくねらせて踊り狂っている。
『改造されていますね。高をくくると痛い目に遭いますよ』
イオに指摘されるまでもなかった。
リコが剣で切り落とした右腕の代わりに、肩から奇妙なものが生えている。
銀色の光沢を放つ、金属の触手である。
どうやら、自由自在に曲がる、電気スタンドの首の部分みたいなつくりになっているらしい。
「くそ。アリアが邪魔で狙撃ができない」
恨めしげにレイガンの銃口を見つめながら、リコは言った。
「もっと高度を下げて近づいて、隙を狙うしかないな」
バイザーには、あらゆる技に対応する照準器が備わっている。
だから少しでも隙があれば狙撃も可能なのだが、いかんせん、ヴァギナはアリアを抱いたまま、くねくねと躍っている。
下手をすると、フォトンの粒子がアリアも焼き尽くしてしまいかねないのだ。
ステージの後ろには、いつのまにか大きな横幕が張られ、
『OManKo48 デビューコンサート』
そんな文字が、きらきらとミラーボールの光を跳ね返している。
ハルの勘通りだった。
OMKとは、まさしくアレの略称だったのだ。
「どこからどこまで猥褻なやつだ」
吐き捨てるように言って、手すりを飛び越えた。
翼を広げ、グライダーよろしく、滑空を開始する。
らせんを描いて3階まで舞い降り、ステージの真上でホバリングの体勢に入った時だった。
「おのれ! 待っていたぞ!」
いち早く頭上のリコに気づいて、怪人が大声を張り上げた。
しゅっと空気を切り、シルバーの触手が伸びてくる。
「うわっ」
リコの誤算は、目測より、触手の伸びのほうが早いことだった。
たちまち足首をつかまれ、すごい勢いで引きずり降ろされた。
マイクロミニがひるがえり、腰まで切れ上がったハイレグレオタードの下半身が丸出しになる。
イオの言う通り、ヴァギナは改造されてパワーアップしているようだった。
ものすごい怪力から逃れることもできず、右肩からリコは床に叩きつけられた。
「ううっ」
プロテクターが激突で軋んだ。
「リコさまあ!」
アリアの叫び声。
上体を起こすと、ヴァギナの胸でアリアが手足をバタバタさせながらこっちを見つめている。
両手に銃を構えてみたが、やはりアリアが盾になっていて、怪人を一撃で倒すのは無理なようだ。
足でも狙って隙をつくるか。
リコがそう決断した時だった。
「われらの野望を邪魔するものには、肉の鉄槌を! 出でよ! 改造獣、だいだらビッチ!」
だしぬけにヴァギナが絶叫した。
はあ?
緊迫した場面である。
なのにリコは、ついキョトンとした顔でステージ上の怪人を見上げてしまった。
おい、今、なんて言った?
だいだら、ビッチ?
なんだそりゃ?
と、正直、呆れてしまったのである。
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