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ACT4 同棲
#8 アリア⑥
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「アリア、毎日お掃除します。おうちの模様替えも、頑張ります。だからリコさまは、アリアのこと、メイドか召使いくらいに思ってくだされば、いいんですよ」
「よせ。そんな必要はない。まあ、おまえ、確かにメイド喫茶から抜け出してきたみたいな恰好してるけど…。ここに住むのなら、自由に好きなように暮らせばいいさ。けど、おまえ、本当に、なんにも覚えていないのか?」
「はい。自分に関することは、一切…。ほかのことは、だいたい大丈夫みたいなんですけど。この通り、ちゃんと言葉もしゃべれますし、世間の常識や、最近の流行も知ってます」
これは嘘ではない。
アリアの記憶の欠落部分は、自分に関係する事柄に限られている。
今朝、あの公園で我に返るまで、どこで何をしていたのか、自分はどういう存在なのか。
そのあたりのことが、まったく思い出せないのだ。
「ふうん。変な記憶喪失もあったもんだな。じゃ、ひょっとして、どうして自分が狙われてるのかも、知らないってわけなのか?」
ベッドの上に胡坐をかき、首かしげるリコ。
ガウンの裾からむっちりした太腿の内側が見えてしまい、アリアはわけもなくどぎまぎする。
「えーっと、狙われてるって、どういうことですかあ? アリアはなんにも悪いこと、してないですよぉ?」
「はあ? まさか忘れたわけではあるまい。今朝の怪獣と、あのへんちくりんな怪人軍団だよ。あいつら、明らかにおまえを狙ってたじゃないか」
「えーっ、そうだったんですかあ? アリア、ぜんぜん知りませんでしたぁ」
アリアは丸い目を更に大きく見開いた。
これも嘘ではない。
怪獣が襲ってきたのは偶然だと思っていたし、怪人の襲撃に関しても、自分はただリコたちのそばにいたから巻き込まれただけだと、今の今まで固くそう思い込んでいたのだ。
「怪獣はともかくとして、あのわいせつ物陳列罪みたいな怪人の狙いは、間違いなくおまえだったぞ。その小娘を渡せって、何度も怒鳴ってただろう」
そうか。
言われて初めて、アリアは思った。
小娘って、私のことだったんだ。
リコさまの雄姿にメロメロになっていて、そんなことにまで気が回らなかったよ。
でも、と首をかしげざるをえない。
どうしてなんだろう?
私は、あんなきもい怪獣も、あんなおかしな怪人も知らないのに。
それとも、失われた過去に、何か関係があるとでもいうのだろうか?
「わかんないです。心当たりなんて、何も」
よほどアリアの様子がしょんぼりして見えたのだろう。
語調を和らげて、リコが言った。
「そうか、わかった。もういい。何か思い出したら、うちかハルに教えてくれ。とにかく、ここにいれば安全だ。もともと怪獣退治はうちの副業みたいなもんだし、何かあったらまた助けてやるから」
「わあっ! さっすがリコさま! アリア、感激ですぅ! もう、一生、リコさまについていきますぅ!」
感極まって、ぴょん、と飛び跳ねると、
「大げさなやつだな」
うんざりしたように、リコが形のいい眉を吊り上げた。
「じゃ、あとは好きにしろ。うちはシャワーを浴びてくる。外出する気力はないし、夕飯はピザでも取るとするか。あ、風呂も自由に使っていいから」
大儀そうにベッドから脚を下ろすリコ。
変身というのは、よほど疲れるものらしい。
「あの、お風呂ですけど、アリアもご一緒させていただいていいですか?」
ここで会話を打ち切られるのがどうにも心残りで、思い切ってそう切り出してみた。
「はあ? なんで?」
リコが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
「アリアはリコさまのメイドですから、お背中流したり、お身体を綺麗にして差し上げたいんです」
「いや、そういうの、ひとりでできるから」
衣装ダンスから適当に下着を取り出すと、リコは振り向きもせず、部屋を出て行ってしまった。
「んもう」
アリアの頬が、怒りで赤く染まる。
「ハルとはディープキスまでしたくせに! 倉庫の中で、あんなに甘い声、出してたくせに!」
許さない。
めらめらと嫉妬の炎が燃え上がる。
今に見てなさい。
リコの消えた戸口をにらんで、アリアは決心した。
絶対、絶対、リコさまを、アリアの言いなりにしてやるんだからあ!
「よせ。そんな必要はない。まあ、おまえ、確かにメイド喫茶から抜け出してきたみたいな恰好してるけど…。ここに住むのなら、自由に好きなように暮らせばいいさ。けど、おまえ、本当に、なんにも覚えていないのか?」
「はい。自分に関することは、一切…。ほかのことは、だいたい大丈夫みたいなんですけど。この通り、ちゃんと言葉もしゃべれますし、世間の常識や、最近の流行も知ってます」
これは嘘ではない。
アリアの記憶の欠落部分は、自分に関係する事柄に限られている。
今朝、あの公園で我に返るまで、どこで何をしていたのか、自分はどういう存在なのか。
そのあたりのことが、まったく思い出せないのだ。
「ふうん。変な記憶喪失もあったもんだな。じゃ、ひょっとして、どうして自分が狙われてるのかも、知らないってわけなのか?」
ベッドの上に胡坐をかき、首かしげるリコ。
ガウンの裾からむっちりした太腿の内側が見えてしまい、アリアはわけもなくどぎまぎする。
「えーっと、狙われてるって、どういうことですかあ? アリアはなんにも悪いこと、してないですよぉ?」
「はあ? まさか忘れたわけではあるまい。今朝の怪獣と、あのへんちくりんな怪人軍団だよ。あいつら、明らかにおまえを狙ってたじゃないか」
「えーっ、そうだったんですかあ? アリア、ぜんぜん知りませんでしたぁ」
アリアは丸い目を更に大きく見開いた。
これも嘘ではない。
怪獣が襲ってきたのは偶然だと思っていたし、怪人の襲撃に関しても、自分はただリコたちのそばにいたから巻き込まれただけだと、今の今まで固くそう思い込んでいたのだ。
「怪獣はともかくとして、あのわいせつ物陳列罪みたいな怪人の狙いは、間違いなくおまえだったぞ。その小娘を渡せって、何度も怒鳴ってただろう」
そうか。
言われて初めて、アリアは思った。
小娘って、私のことだったんだ。
リコさまの雄姿にメロメロになっていて、そんなことにまで気が回らなかったよ。
でも、と首をかしげざるをえない。
どうしてなんだろう?
私は、あんなきもい怪獣も、あんなおかしな怪人も知らないのに。
それとも、失われた過去に、何か関係があるとでもいうのだろうか?
「わかんないです。心当たりなんて、何も」
よほどアリアの様子がしょんぼりして見えたのだろう。
語調を和らげて、リコが言った。
「そうか、わかった。もういい。何か思い出したら、うちかハルに教えてくれ。とにかく、ここにいれば安全だ。もともと怪獣退治はうちの副業みたいなもんだし、何かあったらまた助けてやるから」
「わあっ! さっすがリコさま! アリア、感激ですぅ! もう、一生、リコさまについていきますぅ!」
感極まって、ぴょん、と飛び跳ねると、
「大げさなやつだな」
うんざりしたように、リコが形のいい眉を吊り上げた。
「じゃ、あとは好きにしろ。うちはシャワーを浴びてくる。外出する気力はないし、夕飯はピザでも取るとするか。あ、風呂も自由に使っていいから」
大儀そうにベッドから脚を下ろすリコ。
変身というのは、よほど疲れるものらしい。
「あの、お風呂ですけど、アリアもご一緒させていただいていいですか?」
ここで会話を打ち切られるのがどうにも心残りで、思い切ってそう切り出してみた。
「はあ? なんで?」
リコが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
「アリアはリコさまのメイドですから、お背中流したり、お身体を綺麗にして差し上げたいんです」
「いや、そういうの、ひとりでできるから」
衣装ダンスから適当に下着を取り出すと、リコは振り向きもせず、部屋を出て行ってしまった。
「んもう」
アリアの頬が、怒りで赤く染まる。
「ハルとはディープキスまでしたくせに! 倉庫の中で、あんなに甘い声、出してたくせに!」
許さない。
めらめらと嫉妬の炎が燃え上がる。
今に見てなさい。
リコの消えた戸口をにらんで、アリアは決心した。
絶対、絶対、リコさまを、アリアの言いなりにしてやるんだからあ!
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