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ACT11 捕虜

#12 リコ②

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『そ、そんな! ああ! リコ!
 イオが悲痛な叫びをあげた。
「あうっ」
 リコの全身がおこりにかかったように痙攣する。
 そのまま、背中からマットの上に投げ出された。
 ずぼっ!
 バウンドするリコの躰から、怪物が尾を引き抜いた。
 身体の内側で何かが無理やり引き剥がされるような激烈な痛みに、リコはもう一度、大きくのけぞった。
 跳ね上がったサソリ状の尾に、肉色の臓器が絡みついている。
 鳩尾に開いた裂傷から大量の血が吹き上がり、リコの顔に驟雨のように降りかかる。
 怪物が、高らかに哄笑した。
 壊れた人形のように首がスルスルと伸び、丸い頭が天井近くでフラフラ揺れている。
「珍子、おまえ、な、なんてことを…」
 ビュンビュン丸がうめいた。
 マットの上に横たわったリコのほうを、信じられないといった表情で凝視している。
「あああっ! リコさまあ!」
 血相を変えてリングによじのぼろうとするアリアを、ハルが後ろから抱き留めた。
「よせ。近寄るな。ここはリコを信じるんだ」
 そうこうしている間にも、腹の傷口からは、ずるずると大腸が引きずり出されていく。
 結節部の多い大腸に続いて現れた白っぽい管は、おそらく小腸に違いない。
 くう…このままでは。
 リングに仰向けに倒れ、己の内蔵が吹き上げる血しぶきを浴びながら、かすむ意識の中でリコは思った。
 このままでは、いずれ内臓を全部引きずり出されてしまうだろう。
 そんなことになったら、いくらMILKYでも、いずれ死んでしまうに違いない…。
 ブシュッ!
 ひと際激しく血潮が飛び散り、ボタボタと鈍い音を立ててマットを朱に染めていく。
 引き千切られたリコの腸が、宙で鞭のようにしなり、バラバラに飛び散った。
 怪物の尾は再び垂直にそびえ立ち、リコの真上で狙いを定めようとうごめいている。
 丸く膨らんだイチヂクのような形をした先端から、鉤型に曲がった血まみれの鋭い針が飛び出ている。
 あれがリコの腹に穴を穿ち、臓器をひっかけて外にひきずり出したのだ。
 その位置からして、次のターゲットは心臓のようだった。
 そうわかってはいるものの、
 くそ。
 身体が動かない。
 下半身から、急速に力が抜けていく。
 純白だったはずのMILKYのチェストアーマーは、今や鮮血で真紅に染まってしまっている。
 スカートは腰の上までめくれあがり、これまた血まみれの下半身がむき出しになっている。
 これまでか…。
 リコの首が、がくんと落ちた。
 左の頬が、冷たいマットの表面に触れた。
「リコさまあ! 死んじゃいやあああああっ!」
 魂を引き裂かれるようなアリアの悲鳴も、もはや幻聴ぐらいにしか思えない。
 リコ! リコ…。
 頭の中のイオの叫びが、遠ざかる。
 ごぼっ。
 わずかに開いたMILKYの口から、血の塊がこぼれ出た。  

 
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