球体関節少女マナ

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
27 / 33

#26 救出

しおりを挟む
 左腕を肩に嵌めると、マナは具合を確かめるように五本の指を順繰りに動かした。

 ついでに右腕、左脚、そして右脚と、プールに入る前の準備体操のように全身を点検する。

 小さな白いブラとパンティ身につけただけのマナは、ひどく官能的だった。

 少女から大人への端境期を如実に象ったその肢体は、ある意味成人女性のセミヌードより生々しい。

 納得いくまで手足を動かすと、最後にマナは畳の上の黒い球を指でつまみ上げた。

 呪いの人形の残した、例の闇属性の宝玉である。

 右手の甲の赤い宝玉をはずし、肩の収納場所に戻すと、新たに手に入れた黒い宝玉を手の甲の穴にセットする。

 球が嵌まったとたん、痛みを感じたように眉根を寄せた。

「これが、闇の力・・・。かなり強烈ね」

 一瞬、マナの右腕が漆黒の闇に呑み込まれたように見えなくなった。

 そして、しばらくして再び現れた時には、肩から指の先まで皮膚がチョコレート色に変色していた。

「だ、大丈夫なのか?」

 心配になってたずねると、

「平気。これでやっとリカと互角に戦える」

 右腕を水平に伸ばし、マナが言った。

 リカというのは、いつかショッピングモールで目撃した、あの巨大な顔のことだろう。

 マナの言うところの”よどみ”を統べる上位存在。

 生き人形たちの神とでもいうべき”何か”である。

「それより、彼女を助けなきゃ」

 マナが奥の間との境の襖に視線を投げた。

 そうだ。

 僕は跳ね起きた。
 
 大事なことを忘れていた。

「福島、無事か?」

 マナの横を駆け抜けて、襖を開放した。
 
 狭い、横長の物置のような空間が、目の前に現れた。

 その片隅で身を縮めているのは、白いブラウスに長いスカートを穿いた涼子だった。

「榊原君?」

 両腕で膝を抱いたまま、涼子が顔を上げた。

 泣きはらしたように、眼が赤い。

「もう大丈夫だ。呪いの人形は、マナが倒してくれた」

 傍らに膝をつくと、僕はできるだけ優しい声でそう語りかけた。

「怖かった」

 泣き出しそうに顔を歪めたかと思うと、涼子がわっと抱きついてきた。

「ありがとうね・・・助けに来てくれて・・・。私、もう死ぬかと思った」

 僕の首に両腕を回し、肩に顔を埋めてすすり泣く。

 心臓がバクバク音を立てて、口から飛び出しそうだった。

 あの憧れの涼子が、今、僕の腕の中にいるのだ。

 落ちつけというのが無理な話である。

 そんな僕らを無視して、マナは部屋の中を熱心に見回している。

 何かまだ気になることでもあるのか、妙に鋭い目つきをしていた。

「とにかく、警察を呼ぼう。家の中は、死体だらけだ。どう説明したらいいかはわからないけど、このままにしてはおけないよ」

 僕の言葉に、涼子がうなずいた。

「じゃ、こっちに。ここから厨房を通って、従業員用の食堂に出られるから」

 涼子が立って行って、右手の襖を開いた。

「榊君、喉が渇いたでしょう? 先に行って、食堂で何か飲み物を用意しておくわ」

 涼子が出ていくと、マナがふいに僕のほうを振り返った。

「ねえ、何か匂わない? なんだかすごく臭いんだけど」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

絶対絶命女子!

戸影絵麻
ホラー
 それは、ほんのささいな出来事から始まった。  建設現場から発掘された謎の遺跡。増え始めた光る眼の蛞蝓。  そして、のどかな田園都市を、生ける屍たちが侵食する…。  これは、ゾンビたちに立ち向かった、4人の勇気ある乙女たちの物語である。

Dark Night Princess

べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ 突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか 現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語 ホラー大賞エントリー作品です

逢魔刻の旅人

ありす
ホラー
逢魔刻 闇の住人はいつでも私たちのそばに必ず潜んでいる 誰しもが"やつら"と同じ空間を旅する 旅人になりうるのだ

救出

ハコニワ
ホラー
※この作品はフィクションです。 深夜の学校にいた僕らに巨大地震が襲った。男女は無事脱出することができるか。

ルナフォビア 2【追いすがる月】

spell breaker!
ホラー
ヒッチハイクで拾った女が車に乗り込んでくるなり、そう叫んだ。 なにがなんだか、わけがわからない! ほんとうにあの夜空の満月が空から落ちてきて、運動会の大玉転がしより大きめのサイズに縮まり、ゴロゴロ転がりながら追いすがってくるのだ。 とんでもないことに巻き込まれたものだ。 室井 志倶麻(むろい しぐま)は頼まれるがまま、車を走らせ、月を撒こうとした。だが月は恐るべき猛追を見せ、なかなかふりきることができない。 必死の逃亡を計りつつも、志倶麻は女――ミハルに問いただすのだった。 いったい、月は君をどうしようというのか? 月に捕まれば殺されるのか? ミハルはこう答えるのだった。 「月は私を変えようとしてるの! 私が変わればあなたを襲ってしまう!」 こんなことに巻き込まれるなら、いっそミハルを拾うべきではなかったと後悔する志倶麻だった……。 ※本作は『小説家になろう』様でも公開しております。

雷命の造娘

凰太郎
ホラー
闇暦二八年──。 〈娘〉は、独りだった……。 〈娘〉は、虚だった……。 そして、闇暦二九年──。 残酷なる〈命〉が、運命を刻み始める! 人間の業に汚れた罪深き己が宿命を! 人類が支配権を失い、魔界より顕現した〈怪物〉達が覇権を狙った戦乱を繰り広げる闇の新世紀〈闇暦〉──。 豪雷が産み落とした命は、はたして何を心に刻み生きるのか? 闇暦戦史、第二弾開幕!

グリーン・リバー・アイズ

深山瀬怜
ホラー
オカルト雑誌のライターである緑川律樹は、その裏で怪異絡みの事件を解決する依頼を受けている。緑川は自分の能力を活かして真相を突き止めようとする。果たしてこれは「説明できる怪異」なのか、それとも。

闇に蠢く

野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
 関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。  響紀は女の手にかかり、命を落とす。  さらに奈央も狙われて…… イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様 ※無断転載等不可

処理中です...