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#12 涼子の懸念
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「人形?」
涼子がただでさえ大きな眼を見開いて、得体の知れぬものでも前にしたかのように瞳に怯えの色を浮かべた。
「この子が、人形だっていうの?」
10分後、僕らは喪服姿のまま、ファミレスの片隅で向かい合っていた。
僕が葬儀の前にマナを置いてきた、あの店である。
「うーん、そう言われてみれば、首のつけ根とか手首の関節とか、どことなくそれっぽいな」
対面に座ったマナを無遠慮に眺めながら、善次が相槌をうつ。
「でも、普通にすらすらしゃべってたし、ちゃんと自分で歩いてたじゃない。そんな、信じられないわ」
「人形がしゃべったり歩いたりしちゃいけないの?」
疑い深げな涼子の台詞を、マナがバッサリ断ち切った。
いるはずのない妹を演出するにもいかず、僕はつい、昨日からの一連の出来事をふたりに打ち明けたのだった。
もちろん、善次と涼子を信用できる仲間だと判断してのことである。
正体をばらされても、マナは別段怒ったふうもなかった。
飲めもしないジュースのストローを口にくわえ、無表情にふたりを観察しているだけである。
「別にそうは言わないけど…。でも、現代の科学技術では、あなたみたいに人間そっくりなロボット、まだ作れないんじゃないかと思って・・・」
「だよな。AIなんて元を正せば高性能な計算機みたいなものだっていうし、マナちゃんみたいなのはちょっと無理なんじゃね?」
「私はロボットでもないし、ここに人工知能も内臓していない。ちゃんと生きてるし、自分の頭でものを考えることだってできる」
指先で額をつついて、マナが言う。
「とにかく、正体不明なんだよ。なんか、宝石みたいな”核”で動いてるみたいなんだけど、今そこを追求してみても、あまり意味はない気がするんだ。マナはマナ、とりあえずそれでいいんじゃないか?」
「充もたまにはいいこと言うね」
マナがちらっと横目で僕を見た。
「私のことより、当面の問題は、あなたたちに降りかかろうとしている呪いをどう防ぐかってこと」
「呪いって、あの葬儀の最中に出たアレか?」
嫌な記憶を思い出したのだろう。
善次の表情に怯えの色が走った。
「確かに、とっても気持ち悪かった・・・。狂ったような眼をしてた・・・」
涼子が寒気を覚えたように、両腕で肩を抱く。
「マナちゃんはその・・・呪いとかに詳しいっていうのかい?」
おずおずと善次が口をはさむと、
「人形のくせに、って言いたいんでしょうけど」
マナの切れ長の眼が、人の好さそうな善次の顔をぎろりとにらんだ。
「私はもともと、そういう世界に生きてきたから」
そういう世界って、どういう世界だ?
突っ込んで訊いてみたかったけど、ここは我慢することにした。
でないといっこうに話が進まない。
「だから、話してほしい。篠田真由美に何があったのかを」
会話の主導権を握ったマナが言う。
こういう時、超自然的存在は強い。
呪いなどというものが実在するなら、明らかに僕ら人間より、マナのほうが親和性が高い気がするのだ。
しぶしぶといった感じで、涼子が重い口を開いた。
「真由美自身には、呪われる要素なんて、何もないと思う。死んだのも、心臓発作だって聞いてるし」
そう言いながらも、涼子の言葉はどこか歯切れが悪かった。
「彼女自身は、ってどういうこと? なにか気になることがありそうね」
それはマナにも伝わったようで、すぐに鋭い切り返しがやってきた。
「真由美の死には無関係だと思うよ。ただ、ひとつ気になることがあって・・・」
「気になること?」
善次が涼子のほうへ身を乗り出した。
「きのうのお通夜の席にも、さっきのお葬式にも、拓也君、いなかったでしょ? 覚えてないかな? 高校2年生になる、真由美の弟だよ」
「ああ、あの、じいちゃんだかばあちゃんだかの家に預けられてるっていう・・・」
善次がうなずいた。
「その拓也が、どうしたってんだい?」
善次の問いに、吐息と一緒に、涼子が答えた。
「少し前から、行方不明なんだって」
涼子がただでさえ大きな眼を見開いて、得体の知れぬものでも前にしたかのように瞳に怯えの色を浮かべた。
「この子が、人形だっていうの?」
10分後、僕らは喪服姿のまま、ファミレスの片隅で向かい合っていた。
僕が葬儀の前にマナを置いてきた、あの店である。
「うーん、そう言われてみれば、首のつけ根とか手首の関節とか、どことなくそれっぽいな」
対面に座ったマナを無遠慮に眺めながら、善次が相槌をうつ。
「でも、普通にすらすらしゃべってたし、ちゃんと自分で歩いてたじゃない。そんな、信じられないわ」
「人形がしゃべったり歩いたりしちゃいけないの?」
疑い深げな涼子の台詞を、マナがバッサリ断ち切った。
いるはずのない妹を演出するにもいかず、僕はつい、昨日からの一連の出来事をふたりに打ち明けたのだった。
もちろん、善次と涼子を信用できる仲間だと判断してのことである。
正体をばらされても、マナは別段怒ったふうもなかった。
飲めもしないジュースのストローを口にくわえ、無表情にふたりを観察しているだけである。
「別にそうは言わないけど…。でも、現代の科学技術では、あなたみたいに人間そっくりなロボット、まだ作れないんじゃないかと思って・・・」
「だよな。AIなんて元を正せば高性能な計算機みたいなものだっていうし、マナちゃんみたいなのはちょっと無理なんじゃね?」
「私はロボットでもないし、ここに人工知能も内臓していない。ちゃんと生きてるし、自分の頭でものを考えることだってできる」
指先で額をつついて、マナが言う。
「とにかく、正体不明なんだよ。なんか、宝石みたいな”核”で動いてるみたいなんだけど、今そこを追求してみても、あまり意味はない気がするんだ。マナはマナ、とりあえずそれでいいんじゃないか?」
「充もたまにはいいこと言うね」
マナがちらっと横目で僕を見た。
「私のことより、当面の問題は、あなたたちに降りかかろうとしている呪いをどう防ぐかってこと」
「呪いって、あの葬儀の最中に出たアレか?」
嫌な記憶を思い出したのだろう。
善次の表情に怯えの色が走った。
「確かに、とっても気持ち悪かった・・・。狂ったような眼をしてた・・・」
涼子が寒気を覚えたように、両腕で肩を抱く。
「マナちゃんはその・・・呪いとかに詳しいっていうのかい?」
おずおずと善次が口をはさむと、
「人形のくせに、って言いたいんでしょうけど」
マナの切れ長の眼が、人の好さそうな善次の顔をぎろりとにらんだ。
「私はもともと、そういう世界に生きてきたから」
そういう世界って、どういう世界だ?
突っ込んで訊いてみたかったけど、ここは我慢することにした。
でないといっこうに話が進まない。
「だから、話してほしい。篠田真由美に何があったのかを」
会話の主導権を握ったマナが言う。
こういう時、超自然的存在は強い。
呪いなどというものが実在するなら、明らかに僕ら人間より、マナのほうが親和性が高い気がするのだ。
しぶしぶといった感じで、涼子が重い口を開いた。
「真由美自身には、呪われる要素なんて、何もないと思う。死んだのも、心臓発作だって聞いてるし」
そう言いながらも、涼子の言葉はどこか歯切れが悪かった。
「彼女自身は、ってどういうこと? なにか気になることがありそうね」
それはマナにも伝わったようで、すぐに鋭い切り返しがやってきた。
「真由美の死には無関係だと思うよ。ただ、ひとつ気になることがあって・・・」
「気になること?」
善次が涼子のほうへ身を乗り出した。
「きのうのお通夜の席にも、さっきのお葬式にも、拓也君、いなかったでしょ? 覚えてないかな? 高校2年生になる、真由美の弟だよ」
「ああ、あの、じいちゃんだかばあちゃんだかの家に預けられてるっていう・・・」
善次がうなずいた。
「その拓也が、どうしたってんだい?」
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