上 下
387 / 434

#363話 施餓鬼会㉘

しおりを挟む
 穴は、思ったより奥行きが深いらしかった。
 駆けつけた警官は一度中に潜ったものの、
「戦時中の遺構か何かですかね。隧道がずっと奥にまで続いてて、先が迷路状に入り組んでいるみたいです。我々だけではちょっと…。上司に報告して、本格的な準備と人員をそろえてから、また来ることにします」
 そう、言葉を濁して帰って行った。
 菜緒と別れ、実家に戻って待ったが、その日は結局家族は誰も帰ってこなかった。
 再度警察に連絡すると、本格的に例の穴を調べることになったが、日時はまだ未定とのことだった。
 まんじりともせず、夜が明けた。
 勇樹がいなくなったせいか、怪異は起こらなかった。
 ひとりだけの朝食を食べていると、開け放した窓から女性の声が聴こえてきた。
 どうやら、近所の小学校に設置されているスピーカーから発せられているらしいその放送は、正午から公民館で村民集会を行うので、近隣の住民は全員参加してほしいという内容だった。
 村人たちの間にも、ようやく異変が察知され出したということだろうか。
 公民館は確か、小学校の敷地内にあったはずだ。
 正午になるのを待って、取るものとりあえず出かけてみると、体育館のようなホールに並べられたパイプ椅子はすでに半分ほど埋まっていた。
 下駄箱の前でスリッパに履き替えている時、声をかけられた。
 振り向くと、私服を着た住職だった。
「すみません、警察から連絡が来て、今日の施餓鬼会法要ですが、中止になっちゃいました」
「そうですか…。まあ、そうですよね」
「夕方以降は、外出禁止令の発動も検討してるってことです。警察も、何かヤバいことが起こっていると、気づいているんでしょうか」
「実は…」
 私は、家族がいなくなったきのうの一件を話した。
「うは、それは大変だ」
 聞き終えると住職は蒼ざめた顔でホールの中を見回した。
「他にも行方不明になった人がいるのかもしれません。村人の数がいつもよりかなり少ない気がします」
 見ると、なるほど、パイプ椅子は半分まで埋まった後、人が増えた様子はない。
「それで、例のあれですが、どうしましょうか?」
 声を潜めるようにして、住職が言う。
「法要も中止になったことですし、村人たちの間に危機感が生まれたなら、もうあえて決行しなくてもよい気もしますが…」
「いや」
 少し考えた後、私は首を左右に振った。
「警察には内緒で、やっちゃいましょう。どうも餓鬼たちには隠れ家があるようです。なんとしてでも、そこからおびき出さなければ…」
 母や妹、そして亜季。
 三人の身が心配だった。
 早くしないと食われてしまう。
 あの牛や鶏、そして野良猫たちのように…。
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...