344 / 431
第320話 真夏の災厄(後編)
しおりを挟む
「君、誰?」
「誰でもいいでしょ」
返事はそっけなかった。
取り付く島もない、とはこのことだ。
俺は少女が右目に眼帯をしていることに気づいた。
今まで前髪に隠れていたのだ。
肩までの髪縁どられた、アーモンド形の顔。
黒い眼帯のせいでひどくシャープに見える。
「いったい何が起こってるんだ?」
校庭のほうから聴こえてくる喧騒に耳をそばだて、俺はたずねた。
「君が誰であるにせよ、知ってるなら教えてくれよ」
「あなたも見たでしょ」
少女が無事なほうの目で俺を見つめてきた。
感情のない、深い湖のような瞳に、俺の怯えた顔が映っている。
「あのミミズみたいなやつのことか? みんなの、耳や、鼻の穴から生えてきていた…」
「おそらく、寄生生物だと思う。一部の人にネットで騒がれてたけど、数日前、裏の里山に光る物体が落下した。ちょうど、この街の水源である、貯水池のあたり。あとは、言わなくてもわかるよね?」
「宇宙生物…? マジかよ…」
半そでシャツから出た上腕部にぞくっと鳥肌が立った。
隕石に付着していた地球外の生命体が、街の飲み水に混入し、町民の体内に寄生したというのか?
俺は急いでカバンからスマホを出し、SNSに目を通した。
少女の言う通りだった。
謎の物体の落下の記事は4日ほど前から始まっている。
そして、最近は、こんな内容のポストが増えてきていた。
ー家族や友人が、別人みたいに思えるときがあるんだけどー
ーそうそう、あたしも! なんか、彼、性格が変わっちゃったっていうかー
ーうちのパパもそうだよ。なんだか、こう、ロボットみたいに無機質って感じでー
「ヤバいな」
無意識のうちにつぶやいていた。
パラサイト生物による侵略は、着々と進行しているようだ。
これじゃまるで、昔見たSF映画そのものじゃないか。
「隠れるの隠れないの、どっち?」
茫然とスマホの画面を見つめる俺に、少女が言った。
「あなたが捕まりたいならそうしてればいい。あのミミズに身体を乗っ取られて、やつらの仲間になりたいならね」
「い、いや、それは…」
もしそうなったら、どうなるのだろう?
寄生生物たちのネットワークに組み込まれて、集合的無意識の一部として吸収されてしまうのだろうか。
そこには孤独も意見の相違も何もない、そんな穏やかな精神の海に…。
俺は焼却炉の中を覗き込んだ。
鋼鉄の窯の内部は、業務用の燃えるゴミの袋でいっぱいだ。
「やっぱ、入るよ。俺、人間でいるの、やめたくないから」
「そうだね。じゃ、お先にどうぞ」
「わかった」
匂いを我慢して、ゴミ袋の間に潜り込む。
聴こえてくる喧騒はかなり大きくなっている。
やつらが近づいている証拠だった。
「見つかるとまずいから、いっぺん閉めるよ」
「うん」
少女がフタを閉め、中が真っ暗になった。
と、ほとんど同時に、ざわめきが周りを取り囲むのがわかった。
「この辺で、男子生徒を見なかったか?」
先生の声。
少女に訊いている。
なんで彼女は無事なのだ?
疑問に思った瞬間、少女が答えた。
「不適合者なら、この中に捕らえてありますよ。あとは、点火すればおしまいです」
「そうか。よくやった」
不適合者?
な、なんだそれ?
ま、待てよ!
ゴミ袋に埋もれてもがいた時だった。
カチッと音がして、突然、周囲が紅蓮の炎に包まれた。
「誰でもいいでしょ」
返事はそっけなかった。
取り付く島もない、とはこのことだ。
俺は少女が右目に眼帯をしていることに気づいた。
今まで前髪に隠れていたのだ。
肩までの髪縁どられた、アーモンド形の顔。
黒い眼帯のせいでひどくシャープに見える。
「いったい何が起こってるんだ?」
校庭のほうから聴こえてくる喧騒に耳をそばだて、俺はたずねた。
「君が誰であるにせよ、知ってるなら教えてくれよ」
「あなたも見たでしょ」
少女が無事なほうの目で俺を見つめてきた。
感情のない、深い湖のような瞳に、俺の怯えた顔が映っている。
「あのミミズみたいなやつのことか? みんなの、耳や、鼻の穴から生えてきていた…」
「おそらく、寄生生物だと思う。一部の人にネットで騒がれてたけど、数日前、裏の里山に光る物体が落下した。ちょうど、この街の水源である、貯水池のあたり。あとは、言わなくてもわかるよね?」
「宇宙生物…? マジかよ…」
半そでシャツから出た上腕部にぞくっと鳥肌が立った。
隕石に付着していた地球外の生命体が、街の飲み水に混入し、町民の体内に寄生したというのか?
俺は急いでカバンからスマホを出し、SNSに目を通した。
少女の言う通りだった。
謎の物体の落下の記事は4日ほど前から始まっている。
そして、最近は、こんな内容のポストが増えてきていた。
ー家族や友人が、別人みたいに思えるときがあるんだけどー
ーそうそう、あたしも! なんか、彼、性格が変わっちゃったっていうかー
ーうちのパパもそうだよ。なんだか、こう、ロボットみたいに無機質って感じでー
「ヤバいな」
無意識のうちにつぶやいていた。
パラサイト生物による侵略は、着々と進行しているようだ。
これじゃまるで、昔見たSF映画そのものじゃないか。
「隠れるの隠れないの、どっち?」
茫然とスマホの画面を見つめる俺に、少女が言った。
「あなたが捕まりたいならそうしてればいい。あのミミズに身体を乗っ取られて、やつらの仲間になりたいならね」
「い、いや、それは…」
もしそうなったら、どうなるのだろう?
寄生生物たちのネットワークに組み込まれて、集合的無意識の一部として吸収されてしまうのだろうか。
そこには孤独も意見の相違も何もない、そんな穏やかな精神の海に…。
俺は焼却炉の中を覗き込んだ。
鋼鉄の窯の内部は、業務用の燃えるゴミの袋でいっぱいだ。
「やっぱ、入るよ。俺、人間でいるの、やめたくないから」
「そうだね。じゃ、お先にどうぞ」
「わかった」
匂いを我慢して、ゴミ袋の間に潜り込む。
聴こえてくる喧騒はかなり大きくなっている。
やつらが近づいている証拠だった。
「見つかるとまずいから、いっぺん閉めるよ」
「うん」
少女がフタを閉め、中が真っ暗になった。
と、ほとんど同時に、ざわめきが周りを取り囲むのがわかった。
「この辺で、男子生徒を見なかったか?」
先生の声。
少女に訊いている。
なんで彼女は無事なのだ?
疑問に思った瞬間、少女が答えた。
「不適合者なら、この中に捕らえてありますよ。あとは、点火すればおしまいです」
「そうか。よくやった」
不適合者?
な、なんだそれ?
ま、待てよ!
ゴミ袋に埋もれてもがいた時だった。
カチッと音がして、突然、周囲が紅蓮の炎に包まれた。
2
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる