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第298話 死神のいる街(中編)

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 和風の異世界とでもいうべきマヨイガで育った零は常人とかなり違う体質をしている。
 例えば食事がそうで、一応少量なら普通の食材も食べるけど、10日に一度くらいの割合で人の生き血を欲する。
 そうするとしばらくは何も食さなくてもよくなるというのだからコスパのいい身体といえばそうかもしれない。
 そんな吸血鬼めいたところがあるかと思えば、かたや月齢に体調を左右されるという狼人間的な部分もある。
 満月に近づけば近づくほど感覚が研ぎ澄まされ、超常的な運動神経を発揮するようになるかと思えば、新月の前後数日間はベッドに入ったきり動かない。
 そんな厄介な同居人の黒野零ではあるけれど、警察では如何ともし難い”外道”関連の事件は彼女の独壇場だ。
 そういうわけで、休日の朝っぱらから協力の見返りとして零に献血することになった私だがー。
 断れないのにはもう一つ理由があって、実はここだけの話なのだけれど、吸血されるってのは一種の快楽なのだ。
 血を吸われている間、はしたないことに、私は性的快感を覚えて、あわよくば逝ってしまいそうになるのである。
 まあ、それはそれとして。
 コトが終わり、しばらく忘我の境地をさまよった後、私が再び覚醒したのはすでにお昼過ぎだった。
「いつまで寝てんの! 今度はこっちのいうことを聞いてもらう番だよ」
 セミダブルのベッドの隣で寝ている零を揺り起こし、居間まで引っ張っていく。
「まず、このメールに出てくるひき逃げの現場がどこか、特定しなきゃ。ほかの事件はともかく、これは投稿者がつい最近目撃した事件みたいだし」
 タブレットにメールの文章を出して、もう一度零に見せながら、私は言った。
「HP上に返信をアップして、この人から返事が来るのを待ったらどうかと思うんだけど」
「無駄だろうね」
 零はそっけない。
 テーブルに頬杖をつき、興味なさそうに窓の外を眺めている。
 月齢が下り坂なので、最近機嫌が悪いのだ。
「え? どうして?」
「投稿者は、死神を見たと思ってるわけでしょ。そんな目立つことしたら、逆に死神に目をつけられるじゃない」
「うーん、そうかなあ」
 投稿者については、K・Mというイニシャルしかわからない。
 でも、確かに、交通事故現場の近所に住んでいるとか、そんなところから身元が特定されることがあるのかも。
 ましてや相手は死神なのだ。零は違うとか言ってたけど…。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「事故の起こりそうな所を回ったとしても、実際に交通事故に遭遇できる可能性は限りなく低いよね。かといって、うちらで死神を探し出そうにも、投稿者のように簡単に見つけられるとは限らない。だったら、方法は一つでしょ」
「方法? あるの? そんなものが」
 私は驚いて零の雪女みたいに白い顔を思わず見つめ返した。
「簡単だよ。その死神とやらを、おびき出せばいい」
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