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第257話 共通点
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「俺、すごいことに気づいちまった」
友人の宮下が言い出したのは、昼休みのことだった。
宮下は陰気な性格で、口を利くものは幼馴染の僕くらいしかいない。
「なんだよ、すごいことって」
昼食代わりのアンパンをかじりながら、気のない口調で僕は訊いた。
そういう僕も人のことを言えた立場ではなく、クラスでの位置はスクールカーストの底辺に近い。
「皆川とか山上とか北野とかさ、頭がよくって運動神経もいいやつって、みんな同じイヤホンしてるんだぜ」
「そうなの?」
ちょっと興味がわいた。
「間違いないって。さすがに学校にいる時はしてないけど、登下校の時とかさ、今度気をつけて見てみろよ」
「そうだな」
その日の授業後、僕は宮下と一緒に校門で張り込んだ。
帰宅部の僕らと違って、皆川も山上も北野もみんな運動部に入っている。
だからイヤホンのことを確かめるには、これが一番早いのだ。
夕方5時を過ぎると、中からにぎやかな声が聴こえてきて、わらわらとジャージ姿の連中が現れた。
学校の敷地を一歩出た途端、イヤホンを装着するやつはかなり多い。
全員が出尽くすのを待って、宮下が言った。
「だろ?」
「ほんとだ」
僕はうなずいた。
宮下の言う通りだった。
例の三人は、みんな同じイヤホンをつけていたのだ。
僕が驚いたのは、やつの次の一言だった。
「実は俺も、持ってるんだぜ」
にやりと笑うなり、宮下はポケットから何かを取り出し、僕の目の前でこぶしを開いて見せたのである。
手のひらに載っているのは、瑪瑙で作ったブローチのような物体が二つ。
形は勾玉に似ていて、流線形の本体から短い尻尾が突き出ている。
「こいつが天才の秘密だと思うんだ。このイヤホンをつければ、誰でもあいつらみたいに文武両道の天才になれる」
「マジか。どこでこんなものを」
「学校の裏の里山。この前の日曜日、カブトムシ採りに行ったら、偶然見つけたんだ」
宮下の趣味は昆虫採集で、採った獲物をメルカリとかヤフオクで売っているのだ。
「なんでそんなとこにイヤホンがあるんだよ」
「知らねえよ。木のうろに隠してあったんだよ。きっとあいつらも、あの里山で見つけたのさ」
キツネにつままれたような話だった。
「あり得ない」
疑わしげに首を振ると、
「まあ、見てなって。これで俺も、きょうから嫌われ者のチー牛は卒業だ」
またにやりと笑って、宮下が”イヤホン”を両耳に近づけた。
その途端、
「うわっ」
思わず僕は目を剝いた。
ぐにゃり。
突然”イヤホン”が伸びたかと思うと、何か口吻みたいなものを伸ばして、自分から宮下の耳の穴に飛び込んでいったのだ。
「うぐぐぐぐぐ」
目を白黒させ、口から泡を吹く宮下。
痙攣がどんどん激しくなり、眼球がゆっくり裏返っていく。
そういうことか。
やっと腑に落ちた。
あれはイヤホンなんかじゃない。
確かに皆川たちがつけてたのに似てるけどー。
あれは生き物だ。
それもおそらく、里山に住むチスイビルの一種に違いない。
「きゅ、救急車…」
その声を最後に、哀れな宮下は、蛭に脳を食われたのか、真っ赤な血の泡を吹いてこと切れた。
友人の宮下が言い出したのは、昼休みのことだった。
宮下は陰気な性格で、口を利くものは幼馴染の僕くらいしかいない。
「なんだよ、すごいことって」
昼食代わりのアンパンをかじりながら、気のない口調で僕は訊いた。
そういう僕も人のことを言えた立場ではなく、クラスでの位置はスクールカーストの底辺に近い。
「皆川とか山上とか北野とかさ、頭がよくって運動神経もいいやつって、みんな同じイヤホンしてるんだぜ」
「そうなの?」
ちょっと興味がわいた。
「間違いないって。さすがに学校にいる時はしてないけど、登下校の時とかさ、今度気をつけて見てみろよ」
「そうだな」
その日の授業後、僕は宮下と一緒に校門で張り込んだ。
帰宅部の僕らと違って、皆川も山上も北野もみんな運動部に入っている。
だからイヤホンのことを確かめるには、これが一番早いのだ。
夕方5時を過ぎると、中からにぎやかな声が聴こえてきて、わらわらとジャージ姿の連中が現れた。
学校の敷地を一歩出た途端、イヤホンを装着するやつはかなり多い。
全員が出尽くすのを待って、宮下が言った。
「だろ?」
「ほんとだ」
僕はうなずいた。
宮下の言う通りだった。
例の三人は、みんな同じイヤホンをつけていたのだ。
僕が驚いたのは、やつの次の一言だった。
「実は俺も、持ってるんだぜ」
にやりと笑うなり、宮下はポケットから何かを取り出し、僕の目の前でこぶしを開いて見せたのである。
手のひらに載っているのは、瑪瑙で作ったブローチのような物体が二つ。
形は勾玉に似ていて、流線形の本体から短い尻尾が突き出ている。
「こいつが天才の秘密だと思うんだ。このイヤホンをつければ、誰でもあいつらみたいに文武両道の天才になれる」
「マジか。どこでこんなものを」
「学校の裏の里山。この前の日曜日、カブトムシ採りに行ったら、偶然見つけたんだ」
宮下の趣味は昆虫採集で、採った獲物をメルカリとかヤフオクで売っているのだ。
「なんでそんなとこにイヤホンがあるんだよ」
「知らねえよ。木のうろに隠してあったんだよ。きっとあいつらも、あの里山で見つけたのさ」
キツネにつままれたような話だった。
「あり得ない」
疑わしげに首を振ると、
「まあ、見てなって。これで俺も、きょうから嫌われ者のチー牛は卒業だ」
またにやりと笑って、宮下が”イヤホン”を両耳に近づけた。
その途端、
「うわっ」
思わず僕は目を剝いた。
ぐにゃり。
突然”イヤホン”が伸びたかと思うと、何か口吻みたいなものを伸ばして、自分から宮下の耳の穴に飛び込んでいったのだ。
「うぐぐぐぐぐ」
目を白黒させ、口から泡を吹く宮下。
痙攣がどんどん激しくなり、眼球がゆっくり裏返っていく。
そういうことか。
やっと腑に落ちた。
あれはイヤホンなんかじゃない。
確かに皆川たちがつけてたのに似てるけどー。
あれは生き物だ。
それもおそらく、里山に住むチスイビルの一種に違いない。
「きゅ、救急車…」
その声を最後に、哀れな宮下は、蛭に脳を食われたのか、真っ赤な血の泡を吹いてこと切れた。
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