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第251話 黄金仮面(前編)

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 警報音で目が覚めた。
 く、こんな時に…。
 ベッドから身を起こし、僕は額の汗をぬぐった。
 すこぶる体調が悪かった。
 きのう、会社の送別会で、ハメを外し過ぎたのだ。
 というか、僕自身はそんな気はさらさらなかったのに、上司に無理やり酒を飲まされたのである。
 胃に刺すような痛みがあり、全身、気味の悪い汗でびっしょりだった。
 壁にかかった日めくりカレンダーは、日曜日になっている。
 二日酔いでも明日はゆっくり休めるからまあ、いいか。
 昨夜、そう思いながらカレンダーをめくり、ベッドに入ったのを思い出す。
 だがー。
 さっそく、その淡い期待は破られた。
 サイドテーブルのスマホを拾い上げると、画面が点滅していた。
 アプリを立ち上げるまでもなく、勝手に動画が始まった。
 ーJR真砂駅西口に隣接したショッピングセンターに、怪人が出現しました。黄金仮面の出動を要請しますー
 音声入りテロップがそう告げる。
 1階と2階をつなぐ長いエスカレーター。
 その登り切ったところに、ヒト型の異形が仁王立ちになっている。
 頭にかぶっているのは、オニヤンマの仮面だろうか。
 遠目にも、大きな複眼がふたつと獰猛な牙が見て取れる。
 女性タイプらしく、肌にフィットしたボデイスーツに包まれた身体は、モデル顔負けの曲線美を誇っている。
 が、そのセクシーな外観を台なしにしているのが、ボデイスーツの腹部に開いた”窓”だった。
 そこだけ透明になっていて、体内の様子が見えているのである。
 つまり、蠢動する大腸と小腸が丸見えなのだ。
 これぞまさに、彼女が日本征服を狙う腸詰帝国の手先である何よりの証拠だった。
 トンボ女の武器は、両手に持った鞭のようだ。
 2メートルはありそうなしなやかな鞭を振り回しながら、今しも客たちに襲いかかろうとしている。
「くそ、腸詰帝国め。休日も休ませてくれないのか」
 悪態をつきながら、ベランダに出る。
 本当は、用便を済ませたり、シャワーを浴びたりしたかった。
 だが、動画を見る限り、事態は待ったなしだ。
 仕方ない。
 洗濯竿に吊り下げてあった仮面を手に取った。
 思わず、ほおっと太いため息が出た。
 仮面はいつ見ても美しい。
 僕の仮面は腸詰帝国の雑魚どものものとは、根本的に違う。
 太陽の光をエネルギーとして使う、神々しい黄金仮面なのだ。
「行くぞ。変身!」
 顔に装着するなり、変化が始まった。
 仮面から光の粒子がヴェールとなって広がり、僕の全裸の身体を包み込んだのだ。
 粒子はすぐにボデイスーツへと実体化して、隙間なく肌にぴたりと貼りついた。
 下が裸体だけに股間のふくらみは隠せない。
 でも実はこのもっこりと乳首のポッチがSNSでバズり中であることを、僕は知っている。
 ただひとつ、気に入らないのは、腹部に開いた透明窓だった。
 あのトンボ女と同様に、20センチ四方の正方形の透明な”窓”から、内臓が見えているのだ。
 なぜかといえば、僕こと黄金仮面も、もともとは腸詰帝国の改造人間だったからである。
 僕らはそもそも、腸詰帝国のマッドサイエンティストの手により、人類征服のために生み出された超人だ。
 けれど色々あって僕だけ良心に目覚め、帝国の秘密基地を脱出し、彼らに対抗して人類側についたというわけだ。
 変身が完了すると、少し気分がましになった。
 いつもと比べて力が出ない気がするけど、そんなことを言っている場合ではなかった。
「黄金仮面出動、とうっ!」
 僕はベランダの壁によじ登ると超常体力にものを言わせ、はるか下方の往来めがけて一気にジャンプした。
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