259 / 464
第251話 黄金仮面(前編)
しおりを挟む
警報音で目が覚めた。
く、こんな時に…。
ベッドから身を起こし、僕は額の汗をぬぐった。
すこぶる体調が悪かった。
きのう、会社の送別会で、ハメを外し過ぎたのだ。
というか、僕自身はそんな気はさらさらなかったのに、上司に無理やり酒を飲まされたのである。
胃に刺すような痛みがあり、全身、気味の悪い汗でびっしょりだった。
壁にかかった日めくりカレンダーは、日曜日になっている。
二日酔いでも明日はゆっくり休めるからまあ、いいか。
昨夜、そう思いながらカレンダーをめくり、ベッドに入ったのを思い出す。
だがー。
さっそく、その淡い期待は破られた。
サイドテーブルのスマホを拾い上げると、画面が点滅していた。
アプリを立ち上げるまでもなく、勝手に動画が始まった。
ーJR真砂駅西口に隣接したショッピングセンターに、怪人が出現しました。黄金仮面の出動を要請しますー
音声入りテロップがそう告げる。
1階と2階をつなぐ長いエスカレーター。
その登り切ったところに、ヒト型の異形が仁王立ちになっている。
頭にかぶっているのは、オニヤンマの仮面だろうか。
遠目にも、大きな複眼がふたつと獰猛な牙が見て取れる。
女性タイプらしく、肌にフィットしたボデイスーツに包まれた身体は、モデル顔負けの曲線美を誇っている。
が、そのセクシーな外観を台なしにしているのが、ボデイスーツの腹部に開いた”窓”だった。
そこだけ透明になっていて、体内の様子が見えているのである。
つまり、蠢動する大腸と小腸が丸見えなのだ。
これぞまさに、彼女が日本征服を狙う腸詰帝国の手先である何よりの証拠だった。
トンボ女の武器は、両手に持った鞭のようだ。
2メートルはありそうなしなやかな鞭を振り回しながら、今しも客たちに襲いかかろうとしている。
「くそ、腸詰帝国め。休日も休ませてくれないのか」
悪態をつきながら、ベランダに出る。
本当は、用便を済ませたり、シャワーを浴びたりしたかった。
だが、動画を見る限り、事態は待ったなしだ。
仕方ない。
洗濯竿に吊り下げてあった仮面を手に取った。
思わず、ほおっと太いため息が出た。
仮面はいつ見ても美しい。
僕の仮面は腸詰帝国の雑魚どものものとは、根本的に違う。
太陽の光をエネルギーとして使う、神々しい黄金仮面なのだ。
「行くぞ。変身!」
顔に装着するなり、変化が始まった。
仮面から光の粒子がヴェールとなって広がり、僕の全裸の身体を包み込んだのだ。
粒子はすぐにボデイスーツへと実体化して、隙間なく肌にぴたりと貼りついた。
下が裸体だけに股間のふくらみは隠せない。
でも実はこのもっこりと乳首のポッチがSNSでバズり中であることを、僕は知っている。
ただひとつ、気に入らないのは、腹部に開いた透明窓だった。
あのトンボ女と同様に、20センチ四方の正方形の透明な”窓”から、内臓が見えているのだ。
なぜかといえば、僕こと黄金仮面も、もともとは腸詰帝国の改造人間だったからである。
僕らはそもそも、腸詰帝国のマッドサイエンティストの手により、人類征服のために生み出された超人だ。
けれど色々あって僕だけ良心に目覚め、帝国の秘密基地を脱出し、彼らに対抗して人類側についたというわけだ。
変身が完了すると、少し気分がましになった。
いつもと比べて力が出ない気がするけど、そんなことを言っている場合ではなかった。
「黄金仮面出動、とうっ!」
僕はベランダの壁によじ登ると超常体力にものを言わせ、はるか下方の往来めがけて一気にジャンプした。
く、こんな時に…。
ベッドから身を起こし、僕は額の汗をぬぐった。
すこぶる体調が悪かった。
きのう、会社の送別会で、ハメを外し過ぎたのだ。
というか、僕自身はそんな気はさらさらなかったのに、上司に無理やり酒を飲まされたのである。
胃に刺すような痛みがあり、全身、気味の悪い汗でびっしょりだった。
壁にかかった日めくりカレンダーは、日曜日になっている。
二日酔いでも明日はゆっくり休めるからまあ、いいか。
昨夜、そう思いながらカレンダーをめくり、ベッドに入ったのを思い出す。
だがー。
さっそく、その淡い期待は破られた。
サイドテーブルのスマホを拾い上げると、画面が点滅していた。
アプリを立ち上げるまでもなく、勝手に動画が始まった。
ーJR真砂駅西口に隣接したショッピングセンターに、怪人が出現しました。黄金仮面の出動を要請しますー
音声入りテロップがそう告げる。
1階と2階をつなぐ長いエスカレーター。
その登り切ったところに、ヒト型の異形が仁王立ちになっている。
頭にかぶっているのは、オニヤンマの仮面だろうか。
遠目にも、大きな複眼がふたつと獰猛な牙が見て取れる。
女性タイプらしく、肌にフィットしたボデイスーツに包まれた身体は、モデル顔負けの曲線美を誇っている。
が、そのセクシーな外観を台なしにしているのが、ボデイスーツの腹部に開いた”窓”だった。
そこだけ透明になっていて、体内の様子が見えているのである。
つまり、蠢動する大腸と小腸が丸見えなのだ。
これぞまさに、彼女が日本征服を狙う腸詰帝国の手先である何よりの証拠だった。
トンボ女の武器は、両手に持った鞭のようだ。
2メートルはありそうなしなやかな鞭を振り回しながら、今しも客たちに襲いかかろうとしている。
「くそ、腸詰帝国め。休日も休ませてくれないのか」
悪態をつきながら、ベランダに出る。
本当は、用便を済ませたり、シャワーを浴びたりしたかった。
だが、動画を見る限り、事態は待ったなしだ。
仕方ない。
洗濯竿に吊り下げてあった仮面を手に取った。
思わず、ほおっと太いため息が出た。
仮面はいつ見ても美しい。
僕の仮面は腸詰帝国の雑魚どものものとは、根本的に違う。
太陽の光をエネルギーとして使う、神々しい黄金仮面なのだ。
「行くぞ。変身!」
顔に装着するなり、変化が始まった。
仮面から光の粒子がヴェールとなって広がり、僕の全裸の身体を包み込んだのだ。
粒子はすぐにボデイスーツへと実体化して、隙間なく肌にぴたりと貼りついた。
下が裸体だけに股間のふくらみは隠せない。
でも実はこのもっこりと乳首のポッチがSNSでバズり中であることを、僕は知っている。
ただひとつ、気に入らないのは、腹部に開いた透明窓だった。
あのトンボ女と同様に、20センチ四方の正方形の透明な”窓”から、内臓が見えているのだ。
なぜかといえば、僕こと黄金仮面も、もともとは腸詰帝国の改造人間だったからである。
僕らはそもそも、腸詰帝国のマッドサイエンティストの手により、人類征服のために生み出された超人だ。
けれど色々あって僕だけ良心に目覚め、帝国の秘密基地を脱出し、彼らに対抗して人類側についたというわけだ。
変身が完了すると、少し気分がましになった。
いつもと比べて力が出ない気がするけど、そんなことを言っている場合ではなかった。
「黄金仮面出動、とうっ!」
僕はベランダの壁によじ登ると超常体力にものを言わせ、はるか下方の往来めがけて一気にジャンプした。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる