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第220話 水子(中編)
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ひと目見るなり、吐きそうになった。
何これ? 芋虫? ガチキモいんですけど。
血だまりの中、半透明のゼリーみたいなものでできた大きな芋虫が、苦しそうに蠢いている。
節のあるでかいコンドームみたいな胴体は表面が透けているせいで内側の内臓や血管が見えてむちゃエグい。
手も足もないそいつは、それに加えて最悪なことに、顔だけは人間の赤ん坊の顔をしていた。
皺だらけの猿みたいな赤い顔。
梅干しのようにくちゃくちゃの顔にはナイフで切れ目を入れたような目があり、鼻の孔がふたつと、丸い口が開いている。
不気味なのは、生まれたての赤ん坊のくせに、口の中に細かい歯がぎっしり生えていることだった。
それこそまるでシュレッダーみたいに獰猛な口は、人間のものというより何か肉食の魚のそれのよう。
見た瞬間閃いたのは、昔学校で習った国造りの神話の冒頭部だ。
イザナギとイザナミから生まれた神様の最初の一人は骨のないぐにゃぐにゃしたやつで、キモいから笹船に乗せて流してしまったとかいうあれ。
聞いた時は神様ってずいぶんひどいことをすると思ったけど、今あたしは同じことをしようとしているのだ。
悩む必要もなかった。
五体満足な子供ですら育てるのは無理なのに、こんな化け物などもってのほかだ。
まだおなかはしくしく痛んだけど、そんなことにかまっている暇はなかった。
大急ぎで股間の血を拭い、ナプキンを当てると、下着とスカートを上げるのももどかしくレバーを回す。
轟音とともに水流が便器に溢れ、血潮を洗い流していく。
あたしの産んだ化け物は水流に抵抗するようイボみたいな四つの突起で便器のへりに貼りついている。
「くそくそくそっ!」
あたしは完全に頭に血が上り、個室の隅に置いてあった掃除用のモップで化け物をつつきまくった。
ふにゃあふにゃあふにゃあ!
弱々しい泣き声を上げ、異形の赤ん坊が目を開く。
血走った細い目には昼間のネコみたいな縦長の瞳孔があり、憎々しげにあたしを睨みつけている。
「早く死ねよ! キモイんだよ!」
ずらりと先の尖った歯の並ぶ丸い口にモップの柄を突っ込み、もう一回レバーを引いて水を流す。
力任せに喉の奥を突くとやっとのことで抵抗が弱まり、人間の赤ん坊の顔をした半透明の芋虫は、だらりと全身を弛緩させ、便器の穴に体半分流れ込んだ。
そこで詰まったので仕方なく何度もつついて押し込み、完全に見えなくなるまで更に二、三回水を流した。
そうしてすべての作業を終えた時、あたしは汗だくでもう倒れる寸前だった。
ー後編に続くー
何これ? 芋虫? ガチキモいんですけど。
血だまりの中、半透明のゼリーみたいなものでできた大きな芋虫が、苦しそうに蠢いている。
節のあるでかいコンドームみたいな胴体は表面が透けているせいで内側の内臓や血管が見えてむちゃエグい。
手も足もないそいつは、それに加えて最悪なことに、顔だけは人間の赤ん坊の顔をしていた。
皺だらけの猿みたいな赤い顔。
梅干しのようにくちゃくちゃの顔にはナイフで切れ目を入れたような目があり、鼻の孔がふたつと、丸い口が開いている。
不気味なのは、生まれたての赤ん坊のくせに、口の中に細かい歯がぎっしり生えていることだった。
それこそまるでシュレッダーみたいに獰猛な口は、人間のものというより何か肉食の魚のそれのよう。
見た瞬間閃いたのは、昔学校で習った国造りの神話の冒頭部だ。
イザナギとイザナミから生まれた神様の最初の一人は骨のないぐにゃぐにゃしたやつで、キモいから笹船に乗せて流してしまったとかいうあれ。
聞いた時は神様ってずいぶんひどいことをすると思ったけど、今あたしは同じことをしようとしているのだ。
悩む必要もなかった。
五体満足な子供ですら育てるのは無理なのに、こんな化け物などもってのほかだ。
まだおなかはしくしく痛んだけど、そんなことにかまっている暇はなかった。
大急ぎで股間の血を拭い、ナプキンを当てると、下着とスカートを上げるのももどかしくレバーを回す。
轟音とともに水流が便器に溢れ、血潮を洗い流していく。
あたしの産んだ化け物は水流に抵抗するようイボみたいな四つの突起で便器のへりに貼りついている。
「くそくそくそっ!」
あたしは完全に頭に血が上り、個室の隅に置いてあった掃除用のモップで化け物をつつきまくった。
ふにゃあふにゃあふにゃあ!
弱々しい泣き声を上げ、異形の赤ん坊が目を開く。
血走った細い目には昼間のネコみたいな縦長の瞳孔があり、憎々しげにあたしを睨みつけている。
「早く死ねよ! キモイんだよ!」
ずらりと先の尖った歯の並ぶ丸い口にモップの柄を突っ込み、もう一回レバーを引いて水を流す。
力任せに喉の奥を突くとやっとのことで抵抗が弱まり、人間の赤ん坊の顔をした半透明の芋虫は、だらりと全身を弛緩させ、便器の穴に体半分流れ込んだ。
そこで詰まったので仕方なく何度もつついて押し込み、完全に見えなくなるまで更に二、三回水を流した。
そうしてすべての作業を終えた時、あたしは汗だくでもう倒れる寸前だった。
ー後編に続くー
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