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第207話 BQ

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「いい身体になってきたじゃないか。これで俺たちの仲間入りだな」
 伸也が言った。
 伸也は高校の頃からの同級生。
 ずっと僕を苛めていたけれど、懇願する僕に、ある時こうアドバイスしてくれた。
「和夫、おまえ、どうして苛められるか、わかるか? 体を鍛えてないからだよ。そのぶよぶよの肥満体、見てるだけで吐き気がする。俺たちの仲間になりたければ、まず体型を矯正しろ」
 だから、僕は頑張った。
 毎日ジムに通い、高校卒業までに、ついにこの体を手に入れたのだ。
 そうしてきょう、無事、仲間入りを祝して伸也にBQへと誘われた。
「その体をよく見せてくれ。裸になってそこに立つんだ」
 言われるがまま、服と下着を脱ぎ捨て、柱の前に立った。
 柱には十字架みたいに横棒が出ていて、それに沿って両腕を伸ばすと結束バンドで手首を拘束された。
「恥ずかしいよ…」
 見られていると思うだけで、股間が熱くなってくる。
 ヤバい。このままでは…勃ってしまう。
 羞恥で真っ赤になった僕を尻目に、仲間たちがコンロに火を入れ、鉄板を温め始めた。
 その中の一人が伸也に訊く。
「BQなんだろ? 食材、野菜しかないじゃないか。肝心の肉はどこなんだ?」
「そこにあるだろ」
 伸也が真顔で僕を指差した。
「いいか。肉は鮮度が勝負なんだ。生きてるやつから採ったほうが美味いに決まってる」
「ちょ、ちょっと…」
 僕は半笑いの表情になった。
 冗談にもほどがある。
 それじゃまるで、僕が食材みたいじゃないか。
「どの部位を取るかは、このルーレットで決めるんだ」
 伸也が出してきたのは、数字の代わりに肉の部位の名前が入った、手製のルーレット盤だった。
「おもしれえ」
 仲間たちが目を輝かせた。
「さっそくやろうぜ」
「まずは俺からだ。うは、ソーセージだと。なんだよそれ?」
「前菜としてはちょうどいいだろう。さあ、熱くて硬いうちにいただくぞ」
 巨大な牛刀片手に近づく伸也。
 ま、まさか…。
 萎える暇もなかった。
「ぐあっ!」
 鋼の刃が一閃し、激痛が下腹部で爆発した。
 千切れた性器が鉄板の上で飛び跳ねる。
「次は俺。お、いきなりサーロインじゃん。ウヒヒ、こりゃあ豪勢だな」
 仲間が出した結果を聞いて、伸也が再び牛刀の柄を握り直す。
「サーロインてのは、腰の上部にある肉のことだ。脂の上質な旨みを持つ肉の最高部位で、肉質は抜群。キメ細かく柔らかで甘みがあってジューシー。希少部位だから量は取れない」
「や、やめ…うぎゃああっ!」
 壮絶な痛みとともに、わき腹をえぐられた。
「次、俺な。どうだ! 来い! お、肩ロースだって」
「肩ロースか。いいねえ」
 牛刀が肩に食い込んだ。
「やめろ! やめてくれ!」
 血しぶきを浴びて、泣き叫ぶ僕。
 が、死のルーレットは止まらない。
「俺はタン。タンって舌のことだろ? これでうるさくなくなるぜ」
「だな」
 伸也が僕の口をこじ開け、ペンチで舌を引き抜いた。
「ぐふ、ううううう」
 口からあふれる鮮血。
 痛みに意識が遠のいていくのがわかる。
「出た! カルビだ。俺、好きなんだよな」
 一人が言うと、
「カルビは韓国語でアバラを意味する。つまりアバラ周辺の肉ってことだ」
 解説を交えながら、僕が無抵抗なのをいいことに、肋骨と肋骨の間に牛刀を突き立てる伸也。
「うわ、今度はホルモンか。大丈夫かな」
 笑い声。
「ホルモンは内臓肉だ。ふつう、横隔膜で肋骨側の厚い部分のことをいう」
「ミノが来たぜ。これもヤバくない?」
「ミノは胃袋だな。肉厚でかなり歯ごたえがあり、通には人気の部位だ」
 牛刀が正中線に沿って腹の真ん中に縦線を入れていく。
 皮膚が裂け、血が溢れ出し、脂肪がはみ出した奥に蠢いているのは僕の内臓だ。
 そこに伸也は指を入れ、さんざん掻き回した挙句、胃袋を引きずり出した。
「小腸来た。 もうバラバラだな」
 腹が断ち割られ、白い湯気とともに臓物がこぼれ出た。
「まだ行けるか。あ、ハツだ。ハツって…」
 仲間の一人が絶句する。
 や、やめろ…。
 朦朧とした頭で僕は考える。
 それだけは、やめてくれ…。
「ついにハツが出ちまったか。じゃ、残念だが、これで終わりだな」
 嬉々として僕を切り裂いてきた伸也が、太いため息をついた。
 そうなのだ。
 ハツは、心臓を指すのだから…。

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