超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

第199話 子取り神社

　ん～、怖い話っていうと、あれかな。
　ガキの頃、近所にぼろっちい神社があってさ。
　爺さんばあさんたちはことり神社って呼んでて、俺はずっと鳥の小鳥だと思ってたんだけど、今思うと、どうやら違ったらしい。
　そう。
「子供を取る」ほうの子取り。
　実際、俺の弟、その神社の境内で迷子になって、それっきり…。
　俺が10歳、弟が6歳の時だったかな、ちょうど夏休みに入ったばかりで、昆虫採集に行ったわけ。
　俺の実家、けっこう田舎だから、周りは田んぼと森ばっかでさ、探せばカブトとかクワガタの大物、いくらでもいるわけよ。
　んでもって、神社ってさ、鎮守の森っていうの？　ほら、周りを森で囲まれてたりするだろ？　だから狩場としては最高の条件を備えてるわけでさ。
　実はそれまで、その神社に近寄るのは禁止されてたんだよ。
　理由は教えてくれないんだけどさ、なんでかさ、大人たちが寄ってたかって。
　でも、そういうふうに言われると、行きたくなるのがガキってもんだろ。
　で、ついにその夏休み、弟と一緒に、挑戦してみたわけよ。子取り神社での虫取りに。
　ああ、今思うと後悔してる。
　行くなら俺一人で行くんだったって。
　弟は俺をよく慕ってくれてて、野球の好きな、可愛いやつだったんだけど…。
　あの日、ふたりで競走しながら長い石段を登って、「やったあ、兄ちゃんに勝ったよ！」って叫んで、弟のやつ、元気よく鳥居の下を駆け抜けたと思ったら…・
　ほんのちょっと遅れて俺が境内に立った時には、もう、いなかったんだ。
　なんか、神隠しにでもあったみたいに、ふっと消えちまいやがって…。
　もちろん探したよ。
　でも、弟の姿はどこにもなくって…。
　それどころか、神社自体が無人で、どの建物も壊れかけてて、蜘蛛の巣と埃だらけで…。
　泣きながら家に帰って、おふくろに訳を話して…、それからは、警察も総出での大騒ぎ…。
　ニュースにもなったんじゃないかな、現代の神隠しってさ。
　あの頃はまだSNSもなかったから、みんな知らないかもしれないけど…。
　ん？
　オチ？
　オチなんてないよ、これ、実話だもん。
　あれ以来、弟はずっと見つかってないし。
　それじゃ、つまんないって？
　う～ん、そう言われてもなあ。
　ああ、じゃあ、こういうのは、どう？
　実はさ。
　俺、最近になって、ふと思うことがあるんだ。
　初めっから、俺には弟なんて、いなかったんじゃないかって。
　あれは全部、夢だったんじゃないかってさ。
　え？　夢オチはだめ？
　だってしょうがないだろ？
　そんな気がするんだからさ。
　第一それを言うならおまえらだってさ、みんな、俺の夢ン中の登場人物ってこともあり得るんだぜ…。