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第187話 柿
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通学路の途中に古い民家があって、塀の隙間から木の枝が道路にはみ出ていた。
今まで気づかなかったのは、その割れ目が最近できたものだからだ。
この塀に酔っ払い運転の車が衝突して、ブロック塀の一角が崩れたのである。
枝は、その割れ目から競い合うようにしてはみ出てきている。
折から季節はちょうど10月に入ったところで、葉っぱの間に実る橙色の果実が見えた。
「柿だね。いっぱいなってる」
友人が言った。
私たちは中学校へ向かう途中で、ちょうどその民家の前にさしかかったところだった。
最近衣替えがあったばかりで、冬服の黒いセーラー服がまだ少し暑かった。
「けっこう大きいね。まさに食べ頃って感じ」
額に手をかざして枝々を見上げた私は、あることに気づいて「ん?」と眉根をよせた。
「でも、なんか変じゃない? あの柿の実」
「変って、何が?」
「よく見てよ」
「どこ?」
友人も私にならって右手をひさしににして目の上に当て、日光を遮った。
「あ」
息を呑む気配。
「やば…」
「…でしょ」
私たちは顔を見合わせた。
「なんか、ニンゲンの顔、みたい」
そうなのだ。
枝についている柿の実ひとつひとつはなんだか凸凹していて、その陰影がつくる模様が、人面に見えるのである。
私は、壇ノ浦に生息するという甲羅の模様が人の顔をしているという、ヘイケガニを思い出し、ぞっとなった。
「壇ノ浦の戦いでさ、海に身を投げた平家一門の怨念が乗り移った、平家蟹っているでしょ? あの柿も、それみたいな呪物だったりして」
「気味の悪いこと言わないでよ」
友人が半泣きの表情で抗議する。
彼女、ホラー映画のたぐいが大の苦手なのだ。
「馬鹿なこと言ってないで、行くよ。でないと、遅刻しちゃうよ」
怒ったように友人が私のセーラー服の袖を引っ張った、その時だった。
頭上にまではみ出た枝の先から、ぽとりと柿の実が一つ、落ちてきた。
ぐちゃ。
地面に落ちて潰れた橙色の実をひと目見るなり、
「きゃっ!」
叫んで友人がわたしにしがみつく。
気づくと私も彼女の小柄な体を抱きしめていた。
半分潰れて血のように赤い果肉が流れ出したその柿の実は、なんだか笑った人間の顔のように見えたのだ。
その民家に住む独身の中年男性が、連続児童殺害事件の犯人として逮捕されたのは、その数日後である。
男の家の庭から、数人の男子児童の頭蓋骨が発見されたのだという。
事件が起こったのは、八年前。
死体を埋めた地面に落ちた柿の種が、その養分を存分に吸って、今年、ようやく実をつけたのだろう。
だって、ことわざにもあるじゃない。
『桃栗三年、柿八年』って…。
今まで気づかなかったのは、その割れ目が最近できたものだからだ。
この塀に酔っ払い運転の車が衝突して、ブロック塀の一角が崩れたのである。
枝は、その割れ目から競い合うようにしてはみ出てきている。
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「柿だね。いっぱいなってる」
友人が言った。
私たちは中学校へ向かう途中で、ちょうどその民家の前にさしかかったところだった。
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額に手をかざして枝々を見上げた私は、あることに気づいて「ん?」と眉根をよせた。
「でも、なんか変じゃない? あの柿の実」
「変って、何が?」
「よく見てよ」
「どこ?」
友人も私にならって右手をひさしににして目の上に当て、日光を遮った。
「あ」
息を呑む気配。
「やば…」
「…でしょ」
私たちは顔を見合わせた。
「なんか、ニンゲンの顔、みたい」
そうなのだ。
枝についている柿の実ひとつひとつはなんだか凸凹していて、その陰影がつくる模様が、人面に見えるのである。
私は、壇ノ浦に生息するという甲羅の模様が人の顔をしているという、ヘイケガニを思い出し、ぞっとなった。
「壇ノ浦の戦いでさ、海に身を投げた平家一門の怨念が乗り移った、平家蟹っているでしょ? あの柿も、それみたいな呪物だったりして」
「気味の悪いこと言わないでよ」
友人が半泣きの表情で抗議する。
彼女、ホラー映画のたぐいが大の苦手なのだ。
「馬鹿なこと言ってないで、行くよ。でないと、遅刻しちゃうよ」
怒ったように友人が私のセーラー服の袖を引っ張った、その時だった。
頭上にまではみ出た枝の先から、ぽとりと柿の実が一つ、落ちてきた。
ぐちゃ。
地面に落ちて潰れた橙色の実をひと目見るなり、
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