158 / 388
第158話 行列
しおりを挟む
人の話し声で目が覚めた。
それも一人ではない。
複数だ。
薄目を開けると、暗闇の中、ぼうっと青白く光る何かが見えた。
その”何か”は人の形をしていて、左の壁から現れては、右の壁へと消えていく。
それが、何体も何体も、続くのだ。
どうやら長い行列が、私の部屋を横切っていく途中らしい。
金縛りに遭ったように、身体が動かなかった。
私はぎゅっと目をつぶり、ひたすら時間が過ぎてゆくのを待った。
行列が消えたのは、カーテンの隙間から朝陽が差し込んできた頃だった。
それと同時に金縛りも解け、手足を動かせるようになっていた。
げっそりとやつれた顔で大学に行くと、一限目の講義の後、黒いコートの陰気な女が近づいてきた。
構内一の変人、浅黄まだらである。
「ケイ、あんた、霊障が顔に出てるよ」
開口一番、まだらが言った。
「実はね」
彼女が占い師のバイトをしていることを思い出し、昨夜の出来事を話すことにした。
「ああ、それはあれだね。墓じまいによる霊たちのお引越し。ちょっと調べてみる」
スマホを操る占い師が再び顔を上げたのは、学食のテーブルに向かい合ってすぐだった。
「やっぱり。あんたのアパートの北側に丘陵地帯があるでしょ。あそこが今宅地開発されてるんだけど、その余波で墓地がひとつ取り壊されたんだよ。その墓地にあったお墓の大部分をあんたのアパートの南に位置するお寺が引き受けることになって、それで霊の引っ越しが始まったってわけ」
「それでなんで私の部屋に幽霊が出るわけよ」
「通り道だからさ。あんたの部屋は一時的な霊道になってるんだよ」
「マジか」
迷惑な話だった。
まだらの話によると、引っ越しは一晩では終わらず、数日続くらしい。
「それってやばいやつ? 私、祟られたりしないかな?」
「あんたのほうから霊にちょっかいかけるとか、そんなことがなければ、大丈夫だと思うけど。あんただって、通り道に落ちてる石ころにいちいち因縁つけたりしないでしょ」
「それはそうだけど」
私は石ころか。
少し気分を害したけれど、ホッとしたのも確かだった。
その夜も、行列はやってきた。
まだらの話を聞いた後なので、気持ちにゆとりができた私は、寝たふりをしながら霊たちを観察することにした。
行列を構成しているのは、ほとんどが高齢者で、中には鎧武者っぽい霊までいる始末だった。
そんな中で私の目を引いたのは、老人たちの間をちょこまか歩く、小さな女の子である。
戦時中のモノクロ写真で見たような格好のおかっぱ頭の可愛らしい女の子が、しきりに私のほうを見てくるのだ。
一度だけ、目が合った。
女の子はにいっと笑うと、恥ずかしそうに大人たちの陰に隠れてしまった。
そうして、その夜も明けた。
行列は三晩、続いた。
幸い、祟られることもなく、私は健康のまま、やり過ごすことができた。
まだらにその旨を報告がてら、居酒屋で乾杯した。
その足でアパートに帰ると、深夜零時を過ぎていた。
鍵を開けて部屋に入った瞬間、異常に気付いた。
テーブルの上のノートパソコンから、光が漏れている。
おそるおそる近づいて、フタを開けると、画面が明るくなっていた。
覗き込んで、瞬間、自分の過ちを思い知らされた。
液晶画面の奥からこっちを見つめている、小さな顔。
それは、あの幼女の顔だったのだ。
それも一人ではない。
複数だ。
薄目を開けると、暗闇の中、ぼうっと青白く光る何かが見えた。
その”何か”は人の形をしていて、左の壁から現れては、右の壁へと消えていく。
それが、何体も何体も、続くのだ。
どうやら長い行列が、私の部屋を横切っていく途中らしい。
金縛りに遭ったように、身体が動かなかった。
私はぎゅっと目をつぶり、ひたすら時間が過ぎてゆくのを待った。
行列が消えたのは、カーテンの隙間から朝陽が差し込んできた頃だった。
それと同時に金縛りも解け、手足を動かせるようになっていた。
げっそりとやつれた顔で大学に行くと、一限目の講義の後、黒いコートの陰気な女が近づいてきた。
構内一の変人、浅黄まだらである。
「ケイ、あんた、霊障が顔に出てるよ」
開口一番、まだらが言った。
「実はね」
彼女が占い師のバイトをしていることを思い出し、昨夜の出来事を話すことにした。
「ああ、それはあれだね。墓じまいによる霊たちのお引越し。ちょっと調べてみる」
スマホを操る占い師が再び顔を上げたのは、学食のテーブルに向かい合ってすぐだった。
「やっぱり。あんたのアパートの北側に丘陵地帯があるでしょ。あそこが今宅地開発されてるんだけど、その余波で墓地がひとつ取り壊されたんだよ。その墓地にあったお墓の大部分をあんたのアパートの南に位置するお寺が引き受けることになって、それで霊の引っ越しが始まったってわけ」
「それでなんで私の部屋に幽霊が出るわけよ」
「通り道だからさ。あんたの部屋は一時的な霊道になってるんだよ」
「マジか」
迷惑な話だった。
まだらの話によると、引っ越しは一晩では終わらず、数日続くらしい。
「それってやばいやつ? 私、祟られたりしないかな?」
「あんたのほうから霊にちょっかいかけるとか、そんなことがなければ、大丈夫だと思うけど。あんただって、通り道に落ちてる石ころにいちいち因縁つけたりしないでしょ」
「それはそうだけど」
私は石ころか。
少し気分を害したけれど、ホッとしたのも確かだった。
その夜も、行列はやってきた。
まだらの話を聞いた後なので、気持ちにゆとりができた私は、寝たふりをしながら霊たちを観察することにした。
行列を構成しているのは、ほとんどが高齢者で、中には鎧武者っぽい霊までいる始末だった。
そんな中で私の目を引いたのは、老人たちの間をちょこまか歩く、小さな女の子である。
戦時中のモノクロ写真で見たような格好のおかっぱ頭の可愛らしい女の子が、しきりに私のほうを見てくるのだ。
一度だけ、目が合った。
女の子はにいっと笑うと、恥ずかしそうに大人たちの陰に隠れてしまった。
そうして、その夜も明けた。
行列は三晩、続いた。
幸い、祟られることもなく、私は健康のまま、やり過ごすことができた。
まだらにその旨を報告がてら、居酒屋で乾杯した。
その足でアパートに帰ると、深夜零時を過ぎていた。
鍵を開けて部屋に入った瞬間、異常に気付いた。
テーブルの上のノートパソコンから、光が漏れている。
おそるおそる近づいて、フタを開けると、画面が明るくなっていた。
覗き込んで、瞬間、自分の過ちを思い知らされた。
液晶画面の奥からこっちを見つめている、小さな顔。
それは、あの幼女の顔だったのだ。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる