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第158話 行列

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 人の話し声で目が覚めた。
 それも一人ではない。
 複数だ。
 薄目を開けると、暗闇の中、ぼうっと青白く光る何かが見えた。
 その”何か”は人の形をしていて、左の壁から現れては、右の壁へと消えていく。
 それが、何体も何体も、続くのだ。
 どうやら長い行列が、私の部屋を横切っていく途中らしい。
 金縛りに遭ったように、身体が動かなかった。
 私はぎゅっと目をつぶり、ひたすら時間が過ぎてゆくのを待った。
 行列が消えたのは、カーテンの隙間から朝陽が差し込んできた頃だった。
 それと同時に金縛りも解け、手足を動かせるようになっていた。
 げっそりとやつれた顔で大学に行くと、一限目の講義の後、黒いコートの陰気な女が近づいてきた。
 構内一の変人、浅黄まだらである。
「ケイ、あんた、霊障が顔に出てるよ」
 開口一番、まだらが言った。
「実はね」
 彼女が占い師のバイトをしていることを思い出し、昨夜の出来事を話すことにした。
「ああ、それはあれだね。墓じまいによる霊たちのお引越し。ちょっと調べてみる」
 スマホを操る占い師が再び顔を上げたのは、学食のテーブルに向かい合ってすぐだった。
「やっぱり。あんたのアパートの北側に丘陵地帯があるでしょ。あそこが今宅地開発されてるんだけど、その余波で墓地がひとつ取り壊されたんだよ。その墓地にあったお墓の大部分をあんたのアパートの南に位置するお寺が引き受けることになって、それで霊の引っ越しが始まったってわけ」
「それでなんで私の部屋に幽霊が出るわけよ」
「通り道だからさ。あんたの部屋は一時的な霊道になってるんだよ」
「マジか」
 迷惑な話だった。
 まだらの話によると、引っ越しは一晩では終わらず、数日続くらしい。
「それってやばいやつ? 私、祟られたりしないかな?」
「あんたのほうから霊にちょっかいかけるとか、そんなことがなければ、大丈夫だと思うけど。あんただって、通り道に落ちてる石ころにいちいち因縁つけたりしないでしょ」
「それはそうだけど」
 私は石ころか。
 少し気分を害したけれど、ホッとしたのも確かだった。

 その夜も、行列はやってきた。
 まだらの話を聞いた後なので、気持ちにゆとりができた私は、寝たふりをしながら霊たちを観察することにした。
 行列を構成しているのは、ほとんどが高齢者で、中には鎧武者っぽい霊までいる始末だった。
 そんな中で私の目を引いたのは、老人たちの間をちょこまか歩く、小さな女の子である。
 戦時中のモノクロ写真で見たような格好のおかっぱ頭の可愛らしい女の子が、しきりに私のほうを見てくるのだ。
 一度だけ、目が合った。
 女の子はにいっと笑うと、恥ずかしそうに大人たちの陰に隠れてしまった。
 そうして、その夜も明けた。

 行列は三晩、続いた。
 幸い、祟られることもなく、私は健康のまま、やり過ごすことができた。
 まだらにその旨を報告がてら、居酒屋で乾杯した。
 その足でアパートに帰ると、深夜零時を過ぎていた。
 鍵を開けて部屋に入った瞬間、異常に気付いた。
 テーブルの上のノートパソコンから、光が漏れている。
 おそるおそる近づいて、フタを開けると、画面が明るくなっていた。
 覗き込んで、瞬間、自分の過ちを思い知らされた。
 液晶画面の奥からこっちを見つめている、小さな顔。
 それは、あの幼女の顔だったのだ。
 
 
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