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第157話 真昼の死闘【後編】

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 視界を黒い影がかすめたのは、人面犬の前足が私の胸に触れた、その瞬間だった。
 驚くほど近くで羽ばたきの音が聞こえたかと思うと、目の前に迫っていた人面犬が一声叫んで吹っ飛んだ。
 カア、カア、カアッ!
 黒い影の正体は、カラスだった。
 子猫ほどもある大きなカラスが空中でホバリングして、地面に尻もちをついた人面犬を見下ろしている。
 バウバウバウッ!
 牙を剥き出して人面犬が吠えた。
 その声を合図にしたかのように、カラスが急降下する、
 鋭い爪が人面犬の顔面を襲い、鮮血が飛び散った。
 きゃいんっ!
 情けない声を上げて逃げ出す人面犬。
 その上をいったん飛び過ぎて戻ってくると、カラスがぐんぐん高度を上げた。
 お尻をこっちに向けて、必死で逃げていく人面犬。
 凄まじい速度で滑空を開始する大ガラス。
 次の瞬間、恐ろしいことが起こった。
 カラスのくちばしが、人面犬の肛門に突き刺さったのだ。
 ぎゃあああっ!
 今度は人間の声で、人面犬が絶叫した。
 けれど、カラスの攻撃はそれだけでは済まなかった。
 くちばしで何かを咥えると、そのまま宙に舞い上がったのである。
 うっ。
 私は思わず口元を手で押さえた。
 人面犬の肛門からずるずると引き出されてきたのは、血まみれの腸だった。
 カラスに内臓を引きずり出されながらも、人面犬はよたよたと池に向かって走っていく。
 が、それも限界だった。
 池にたどり着いた瞬間、ボチャンと音がして、姿が見えなくなった。
 カラスが池の手すりに舞い降り、もう大丈夫、というように私のほうを振り返った。
「ありがとう」
 うなずいて、歩み寄る。
 カラスは池の土手を見ている。
 その方向に視線をやると、お尻の穴から血を流してボロぎれのように横たわった犬の死体が見えた。
「え?」
 声を上げたのはほかでもない。
 人面犬の顔が、ふつうの犬の顔に戻っていたからだ。
「どういうこと?」
 首をかしげる私に、「見ろ」と言わんばかりに首を回して、「カア」とカラスが鳴いた。
 そのくちばしが指す方角を見て、
「ひ」
 私は息を呑んだ。
 体長1メートルはありそうな、錦鯉が泳いでいる。
「まさか」
 私の声が聴こえたかのように、鯉が振り向いた。
 そして、にたりと笑ったのだ。
 あの、すけべオヤジみたいな、中年男の顔で。
 
 
 
 
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