137 / 416
第137話 青ネギの恐怖
しおりを挟む
「昔から苦手でさ、青ネギって。どこがうまいのかわからない」
煙草をふかしながら、俺は言った。
休日の喫茶店。
対面には久しぶりに会った友人のKがいる。
「ネギトロもそうだし、イクラ丼なんか、よく、刻んだ青ネギをご飯の上に敷き詰めてあるじゃないか。あれって、みんな、本当に平気なのかって思う」
どんな流れからそんな話題になったのか、忘れてしまったが、とにかく俺は青ネギについて熱弁をふるっていた。
ガキの頃からどうもなじめない青ネギのあの味、あの匂い。
「でも、けっこう世間の人たちは、好きみたいなんだよな、青ネギ。ほら、漫画やドラマでよく見るだろ? 主婦が買い物かごから長い青ネギ突き出して歩いてるシーン。あれ、気がついてみると、現実でもよく見かけるんだよ。一般大衆って、そんなに青ネギが好きなんだろうか、って思うぐらい。あんな長いネギ買って帰って、ほんとに全部料理に使うのかよって」
現に今、俺らの席の近くにも、買い物帰りらしき主婦たちのグループがいる。
もちろん、全員、マイバッグから50センチはありそうな青ネギを突き出して、だ。
俺がそこまで言った時、
「シーッ! 声がでかいよ」
突然、Kが立てた人差し指を口に当てた。
見ると、真っ青な顔であたりの様子をうかがっている。
「なんだ、どうした?」
不思議に思って訊くと、
「その青ネギなんだけど」
テーブルに身を乗り出し、声を潜めるK。
「最近、気づいたことがあるんだ」
「気づいたこと?」
「うん。これ、機密事項だから、誰にも言うなよ」
「あ、ああ」
機密事項? なんだそれ?
俺はあっけにとられた。
Kと会うのは高校以来だ。
久しぶりに会わないかと電話がかかってきたのが今朝のこと。
話したいことがある、そう言ってー。
「青ネギってさ、正体はネギ星人なんだ」
「はあ?」
「侵略者だよ。食材に化けて人類の中に紛れ込み、世の中の主婦たちを操ってるんだ。あの青ネギに擬したアンテナで」
「んな馬鹿な」
俺は吹き出した。
青ネギが宇宙人?
これって、新手の宗教の勧誘か?
「笑いごとじゃない。目が合ったんだ。それで気づいた。やつらは…」
Kが必至で言い募った、その時だった。
俺はふと、刺すような視線を感じ、振り返った。
近くのテーブルに陣取った主婦たちが、楽しげに会話にいそしんでいる。
全員、マイバックから青ネギを飛び出させて。
あることに気づき、俺はうめいた。
「マジか」
顔から血の気が引くのが分かった。
青ネギにはみな一対の眼があり、俺たちのほうをそろってじっと睨みつけていたのだ。
煙草をふかしながら、俺は言った。
休日の喫茶店。
対面には久しぶりに会った友人のKがいる。
「ネギトロもそうだし、イクラ丼なんか、よく、刻んだ青ネギをご飯の上に敷き詰めてあるじゃないか。あれって、みんな、本当に平気なのかって思う」
どんな流れからそんな話題になったのか、忘れてしまったが、とにかく俺は青ネギについて熱弁をふるっていた。
ガキの頃からどうもなじめない青ネギのあの味、あの匂い。
「でも、けっこう世間の人たちは、好きみたいなんだよな、青ネギ。ほら、漫画やドラマでよく見るだろ? 主婦が買い物かごから長い青ネギ突き出して歩いてるシーン。あれ、気がついてみると、現実でもよく見かけるんだよ。一般大衆って、そんなに青ネギが好きなんだろうか、って思うぐらい。あんな長いネギ買って帰って、ほんとに全部料理に使うのかよって」
現に今、俺らの席の近くにも、買い物帰りらしき主婦たちのグループがいる。
もちろん、全員、マイバッグから50センチはありそうな青ネギを突き出して、だ。
俺がそこまで言った時、
「シーッ! 声がでかいよ」
突然、Kが立てた人差し指を口に当てた。
見ると、真っ青な顔であたりの様子をうかがっている。
「なんだ、どうした?」
不思議に思って訊くと、
「その青ネギなんだけど」
テーブルに身を乗り出し、声を潜めるK。
「最近、気づいたことがあるんだ」
「気づいたこと?」
「うん。これ、機密事項だから、誰にも言うなよ」
「あ、ああ」
機密事項? なんだそれ?
俺はあっけにとられた。
Kと会うのは高校以来だ。
久しぶりに会わないかと電話がかかってきたのが今朝のこと。
話したいことがある、そう言ってー。
「青ネギってさ、正体はネギ星人なんだ」
「はあ?」
「侵略者だよ。食材に化けて人類の中に紛れ込み、世の中の主婦たちを操ってるんだ。あの青ネギに擬したアンテナで」
「んな馬鹿な」
俺は吹き出した。
青ネギが宇宙人?
これって、新手の宗教の勧誘か?
「笑いごとじゃない。目が合ったんだ。それで気づいた。やつらは…」
Kが必至で言い募った、その時だった。
俺はふと、刺すような視線を感じ、振り返った。
近くのテーブルに陣取った主婦たちが、楽しげに会話にいそしんでいる。
全員、マイバックから青ネギを飛び出させて。
あることに気づき、俺はうめいた。
「マジか」
顔から血の気が引くのが分かった。
青ネギにはみな一対の眼があり、俺たちのほうをそろってじっと睨みつけていたのだ。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる