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第127話 影の正体
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このマンションに引っ越してきてからひと月ほどになる。
家賃は安いし大学にも近く、一人暮らしには最適なのだが、どうしても気になることがあった。
アパートの向かい側には、古いビルが建っている。
その4階ーつまり、僕の部屋の正面に窓があるのだが、そこからガラス越しに誰かがこちらを見ているのである。
その黒い影は華奢な外観で、どうやら若い女性のようなのだが、僕がふと視線を感じて外を見やると、20mほど離れた向かい側のビルの窓際に佇み、じっとこちらを見つめているのだった。
気になり始めると、じっとしていられなくなった。
正体を確かめてやる。
次の日曜日、僕は隣のビルに乗り込むことにした。
うすうす予想してはいたけれど、近くで見るとそこは完全な廃ビルだった。
入り口はドアもなくただの空洞で、入るのに何の支障もなかった。
一階のフロアの床にも階段にも分厚く埃が積もり、足跡ひとつない。
どういうことだろう?
気味が悪くなった。
どう見てもここに人の住んでいる気配はない。
ならば、あの女の影は何なのだ?
嫌な予感がした。
が、好奇心がそれを上回った。
逃げ出したくなる気持ちを抑え込み、そろそろと階段を上がった。
「ここだ」
4階に着き、ドアの並ぶ廊下を進んで、問題の部屋の前に立った。
位置的にこの部屋が、僕の部屋の正面になるはずである。
「まじかよ」
試しにノブを回してみると、鍵はかかっていなかった。
引き返すべきか。
いや、何をいまさらー。
葛藤しながら、ドアを押し開ける。
隙間から、がらんとした室内が見えた。
コンクリート打ちっぱなしの殺風景な空間に、ひとつだけ、何か置いてある。
何だろう?
気づくと、見えない手に引かれるように、土足のまま、中に入っていた。
八畳一間ほどの、埃だらけの空間ー。
その真ん中あたりに、冷蔵庫が置かれている。
それ以外、何もない。
もちろん、人影の主も、いなかった。
あの影、幻覚だったのかな…?
そんな思いに囚われ始めた時である。
ん?
僕は思わず顔をしかめた。
かすかにだが、異臭がする。
匂いは、どうやらその冷蔵庫のほうから、漂ってくるらしい。
何か、入ってる?
好奇心に駆られ、近づいた。
それ以上はヤバいって!
頭の中でもう一人の僕が、金切り声で警告する。
無視して、冷蔵庫のドアを開け放つ。
「ゲッ」
吐き気が込み上げ、とっさに僕は冷蔵庫のドアを叩きつけるように閉め直すと、
「うわああああっ!」
叫びながら、部屋を飛び出した。
が。
脳裏には、今見た光景が焼きついていた。
明かりの冷蔵庫の中。
棚に、ばらばらになった人体がぎっしりと詰め込まれている。
そして一番下の段に女の顔がありー。
首の所で切断されたその顔が僕を見上げて、ふいにニタリと笑ったのだ。
家賃は安いし大学にも近く、一人暮らしには最適なのだが、どうしても気になることがあった。
アパートの向かい側には、古いビルが建っている。
その4階ーつまり、僕の部屋の正面に窓があるのだが、そこからガラス越しに誰かがこちらを見ているのである。
その黒い影は華奢な外観で、どうやら若い女性のようなのだが、僕がふと視線を感じて外を見やると、20mほど離れた向かい側のビルの窓際に佇み、じっとこちらを見つめているのだった。
気になり始めると、じっとしていられなくなった。
正体を確かめてやる。
次の日曜日、僕は隣のビルに乗り込むことにした。
うすうす予想してはいたけれど、近くで見るとそこは完全な廃ビルだった。
入り口はドアもなくただの空洞で、入るのに何の支障もなかった。
一階のフロアの床にも階段にも分厚く埃が積もり、足跡ひとつない。
どういうことだろう?
気味が悪くなった。
どう見てもここに人の住んでいる気配はない。
ならば、あの女の影は何なのだ?
嫌な予感がした。
が、好奇心がそれを上回った。
逃げ出したくなる気持ちを抑え込み、そろそろと階段を上がった。
「ここだ」
4階に着き、ドアの並ぶ廊下を進んで、問題の部屋の前に立った。
位置的にこの部屋が、僕の部屋の正面になるはずである。
「まじかよ」
試しにノブを回してみると、鍵はかかっていなかった。
引き返すべきか。
いや、何をいまさらー。
葛藤しながら、ドアを押し開ける。
隙間から、がらんとした室内が見えた。
コンクリート打ちっぱなしの殺風景な空間に、ひとつだけ、何か置いてある。
何だろう?
気づくと、見えない手に引かれるように、土足のまま、中に入っていた。
八畳一間ほどの、埃だらけの空間ー。
その真ん中あたりに、冷蔵庫が置かれている。
それ以外、何もない。
もちろん、人影の主も、いなかった。
あの影、幻覚だったのかな…?
そんな思いに囚われ始めた時である。
ん?
僕は思わず顔をしかめた。
かすかにだが、異臭がする。
匂いは、どうやらその冷蔵庫のほうから、漂ってくるらしい。
何か、入ってる?
好奇心に駆られ、近づいた。
それ以上はヤバいって!
頭の中でもう一人の僕が、金切り声で警告する。
無視して、冷蔵庫のドアを開け放つ。
「ゲッ」
吐き気が込み上げ、とっさに僕は冷蔵庫のドアを叩きつけるように閉め直すと、
「うわああああっ!」
叫びながら、部屋を飛び出した。
が。
脳裏には、今見た光景が焼きついていた。
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棚に、ばらばらになった人体がぎっしりと詰め込まれている。
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