上 下
45 / 434

第45話 火葬場

しおりを挟む
 長い葬儀が終わって、火葬場に行った。

 祖母の棺桶が台に乗せられて窯の中に入っていくと、がしゃんと鉄の扉が閉じ、着火する音が響いた。

「おばあちゃん、かわいそう。暑いのあんなに嫌いだったのに」

 僕の手を握って、妹が涙ぐむ。

「でも、安らかな死に顔だったよね。90歳まで生きたんだもの。おばあちゃんもきっと満足よ」

 祖父の車椅子の後ろで母が言う。

 祖母の死因は心不全ということになっているが、ほぼ、老衰といってよかった。

 問題は、祖父である。

 認知症が進行し、足腰もダメになった祖父は、誰もが祖母より先に逝くと思っていたのだ。

 祖母が死に、ひとり残されたら、もう長くないに違いない。

 そんな罰当たりなことを考えた時である。

「え?」

 妹が頓狂な声を上げた。

「どうしておばあちゃん、ここにいるの?」

 それもそのはず。

 車椅子にちょこんと座っているのは、死んで今焼かれているはずの祖母である。

「わしゃ、お風呂もお茶も、熱いのが嫌いでのう」

 入れ歯の抜けた口をふごふごさせて、祖母が答えた。

「じゃ、じゃあ、今焼かれてるのは誰なの?」

 母の目はほとんど飛び出す寸前である。

「じいさんじゃよ」

 悪びれたふうもなく、祖母が言った。

「あんまり熱いんで、ちょっくら代わってもらったんじゃ」

 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...