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第10部 姦禁のリリス
#98 対決⑱
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少女の大きな瞳が重人を見据えた。
底なし沼を連想させる、漆黒の瞳だった。
背筋を悪寒が駆け抜ける。
全身を見えない指先で愛撫されるような、異様な感触だ。
性器が欠損していてよかった、と重人は真面目にそう思った。
でなければ、噴き上がる情欲の嵐に呑み込まれ、我を忘れてしまうところだったに違いない。
小田切が割と平然としているのは、そのせいなのだろう。
性器の欠損という面においては、小田切は重人の大先輩なのだ。
その小田切に比べ、冬美は明らかに様子が変だった。
まるで情事の最中にベッドから引っ張り出されたような、そんなしどけなさを全身に漂わせている。
おそらく、この少女の毒気に当てられたせいだろう、と重人は納得する。
健全な肉体を持つ者にとって、この杏里そっくりの少女は麻薬のようなものなのだ。
「黒野零というのは、人類に混じって生き続ける外来種のうちの一匹さ。外来種は雄に比べて雌のほうがすべての面で優れていて、しかも数が圧倒的に少ないんだ。ヒトに勝る肉体を持つ彼らが、いまだ人類を駆逐できないのはそのせいさ。黒野零は、その希少な雌外来種で、しかもやっかいなことに、残虐行為淫乱症ときている・・・。要は杏里の天敵みたいな存在というわけだ」
「残虐行為淫乱症の希少なミュータント? ふふっ、おもしろそう」
重人の解説に、少女が笑った。
「せっかくここまで来たんだから、杏里を取り込むより先に、その子の身体をいただくのもいいかも」
「取り込むとかいただくとか、君はいったい何者なの? 見たところ、杏里にそっくりなんだけど」
「私はふみであり美里であり杏里でもある。けれど、実のところ、今はまだ何者でもない」
少女が、更に一歩、重人に歩み寄った。
背丈は重人と同じぐらい。
鳩胸気味の胸から突き出た見事な乳房は、明らかに一時重人が焦がれた杏里の乳房、そのものだ。
「案内しなさい。その、零とやらの所に」
「いいけど・・・その、君にもなんらかの特殊能力があるのなら、零を止めてくれないか? あのままだと、ルナも由羅も杏里も、全員殺されちゃう」
「由羅? 由羅もいるのか?」
横から口を挟んだのは、小田切だった。
「トーナメント戦の後、生死不明と聞いてたが」
「ぼろクズみたいに捨てられかけてたところを、富樫博士に拾われたんだって。だから今は前より若返ってパワーアップしてる。まあでも、また零相手にやられそうになってるんだけど」
「富樫博士? ラボから姿をくらましたあの老人か?」
小田切が、信じ難いと言いたげに眉を吊り上げた。
「博士なら、外の車の中で待ってるよ。変なばあさんたちと一緒にね」
答えながら、重人は本来の目的を思い出した。
そもそも自分は、博士の所に戻って助けを呼ぶつもりだったのだ。
だが、と思う。
組織を抜けた博士にはバックがない。
助けを呼ぼうにも、呼ぶ相手がいないのだ。
警察に通報することぐらいはできるかもしれないが、零に普通の警官隊が太刀打ちできるとはとても思えない。
その点、この子ならー。
目の前の浅黒い美少女を見つめて、ふと思う。
美里とふみと杏里の細胞が混在したこの未確認生物の少女なら、あの零を倒せるかもしれない・・・。
「急ごう。こっちだ」
小田切が何か言う前に、重人は少女の手を取った。
少女の手のひらはひどく熱く、なんだか触ってはいけないものに触れてしまったような気がして、重人はあわてて手を引っ込めた。
底なし沼を連想させる、漆黒の瞳だった。
背筋を悪寒が駆け抜ける。
全身を見えない指先で愛撫されるような、異様な感触だ。
性器が欠損していてよかった、と重人は真面目にそう思った。
でなければ、噴き上がる情欲の嵐に呑み込まれ、我を忘れてしまうところだったに違いない。
小田切が割と平然としているのは、そのせいなのだろう。
性器の欠損という面においては、小田切は重人の大先輩なのだ。
その小田切に比べ、冬美は明らかに様子が変だった。
まるで情事の最中にベッドから引っ張り出されたような、そんなしどけなさを全身に漂わせている。
おそらく、この少女の毒気に当てられたせいだろう、と重人は納得する。
健全な肉体を持つ者にとって、この杏里そっくりの少女は麻薬のようなものなのだ。
「黒野零というのは、人類に混じって生き続ける外来種のうちの一匹さ。外来種は雄に比べて雌のほうがすべての面で優れていて、しかも数が圧倒的に少ないんだ。ヒトに勝る肉体を持つ彼らが、いまだ人類を駆逐できないのはそのせいさ。黒野零は、その希少な雌外来種で、しかもやっかいなことに、残虐行為淫乱症ときている・・・。要は杏里の天敵みたいな存在というわけだ」
「残虐行為淫乱症の希少なミュータント? ふふっ、おもしろそう」
重人の解説に、少女が笑った。
「せっかくここまで来たんだから、杏里を取り込むより先に、その子の身体をいただくのもいいかも」
「取り込むとかいただくとか、君はいったい何者なの? 見たところ、杏里にそっくりなんだけど」
「私はふみであり美里であり杏里でもある。けれど、実のところ、今はまだ何者でもない」
少女が、更に一歩、重人に歩み寄った。
背丈は重人と同じぐらい。
鳩胸気味の胸から突き出た見事な乳房は、明らかに一時重人が焦がれた杏里の乳房、そのものだ。
「案内しなさい。その、零とやらの所に」
「いいけど・・・その、君にもなんらかの特殊能力があるのなら、零を止めてくれないか? あのままだと、ルナも由羅も杏里も、全員殺されちゃう」
「由羅? 由羅もいるのか?」
横から口を挟んだのは、小田切だった。
「トーナメント戦の後、生死不明と聞いてたが」
「ぼろクズみたいに捨てられかけてたところを、富樫博士に拾われたんだって。だから今は前より若返ってパワーアップしてる。まあでも、また零相手にやられそうになってるんだけど」
「富樫博士? ラボから姿をくらましたあの老人か?」
小田切が、信じ難いと言いたげに眉を吊り上げた。
「博士なら、外の車の中で待ってるよ。変なばあさんたちと一緒にね」
答えながら、重人は本来の目的を思い出した。
そもそも自分は、博士の所に戻って助けを呼ぶつもりだったのだ。
だが、と思う。
組織を抜けた博士にはバックがない。
助けを呼ぼうにも、呼ぶ相手がいないのだ。
警察に通報することぐらいはできるかもしれないが、零に普通の警官隊が太刀打ちできるとはとても思えない。
その点、この子ならー。
目の前の浅黒い美少女を見つめて、ふと思う。
美里とふみと杏里の細胞が混在したこの未確認生物の少女なら、あの零を倒せるかもしれない・・・。
「急ごう。こっちだ」
小田切が何か言う前に、重人は少女の手を取った。
少女の手のひらはひどく熱く、なんだか触ってはいけないものに触れてしまったような気がして、重人はあわてて手を引っ込めた。
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