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第10部 姦禁のリリス

#96 対決⑯

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 こんなに硬かったか?
 由羅は次第に焦り始めていた。
 いくら床に打ちつけても、零の頭蓋が割れないのだ。
 脊椎を折られて十分に力が入らないのか、それとも零の肉体構造自体が強化されているのか・・・。
 零の後頭部は皮膚が裂け、長い黒髪が血にまみれている。
 その下のリノリウムの床には放射状にひびが入り、打撃の激しさを物語っていた。
 こうなったら、くびり殺してやるまでだ。
 由羅は戦法を変え、零の細い首を両手でつかんだ。
「死にやがれ!」
 体重をかけ、渾身の力で締め上げにかかる。
 零は顔色ひとつ変えず、必死で己の喉を絞めつける由羅を見上げている。
 その切れ長の眼に光る縦に細い瞳は、まるで毒蛇のそれのように薄気味が悪い。
 そうしてどれだけの間、締め続けたのか。
 疲労と出血でふと意識が遠のいた、その一瞬のことだった。
 由羅はふと、両手首を掴まれるのを感じて、驚愕に目を見張った。
 零が動いている。
 呪縛から解放されたかのように、両手を曲げ、由羅の手首を下から握っているのだ。
「お、おい、どういうことだ?」
 由羅は傍らにひざまずくルナのほうを振り返った。
 ルナは右手で片目を覆っている。
 零に潰されていない、無事なほうの眼に手を当ててうめいている。 
 その手の間から血が滴っているのに気づいて、由羅は思わず声をかけた。
「どうしたんだ、ルナ? 大丈夫か?」
「ごめん・・・由羅」
 ルナが苦しそうな声で詫びた。
「私、もう、持ちそうにない・・・」
 そういうことか。
 由羅は青ざめた。
 ルナが精魂尽き果てたせいで、零の自由を奪っていた念動力が切れかけているのだ。
「ふたりがかりで、この程度か」
 由羅の両手をねじり上げながら、不気味なまでに落ち着いた口調で、零が言った。
「しょせん、おまえたちパトスなど、下等動物に造られた出来損ない。われらの劣化コピーに過ぎないのさ」
 軽々と由羅の腕をひねり上げ、零が上体を起こした。
「く、くそっ・・・」
 歯嚙みして悔しがる由羅を、両手で軽く突き放す。
 トラックにはねられたような勢いで由羅の躰が吹っ飛び、うずくまるルナに衝突した。
 放り出された人形のようなふたりを尻目に、全裸の零が立ち上がる。
「そんなに殺してほしい? 殺してほしいなら、どんな死に方がいい?」
 血の糸で網の目のように彩られた顔で、にたりと笑う。
「ばーか、まだ勝負はついちゃいねーよ!」
 上半身を起こして、由羅が叫んだ。
「誰がおまえみたいなサイコ野郎に!」
「威勢だけはいいんだね」
 零が由羅の頸を片手でつかんで持ち上げた。
「でも、その不具の躰で、おまえに何ができる? このままぐしゃぐしゃに潰してやってもいいんだよ」
「放せ!」
 苦しげに由羅がうめいた時だった。
 衝立の陰から、全身をオイルを塗ったように光らせた、裸の杏里が現れた。
「零、そこまでにして」
 大人が子どもをたしなめるような口調で、杏里が言った。
「由羅もルナも関係ない。あなたの目当ては、初めからこの私だけ。そうなんでしょう?」


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