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第10部 姦禁のリリス

#86 対決⑥

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 想像を絶するパワーだった。
 零は右腕一本で、いずなと由羅の腹を一気に貫いてしまったのだ。
 零がその右腕をひねると、いずなの背中に密着した由羅の上半身が、不自然な角度にねじれ始めた。
「ぐわっ! や、やめろ・・・」
 由羅の口からごぼごぼと鮮血が溢れ出す。
 零が由羅の脊椎を握り、へし折ろうとしているのに違いない。
「零! やめて! お願い! 私、なんでも言うこと聞くから!」
 杏里は零の細い腰にしがみついた。
 このままは、いずなと由羅が殺されてしまう。
 これ以上、仲間が死ぬのは見たくない!
 が、自らの残虐行為に酔った零は、まるで聞く耳を持たなかった。
「死ね」
 低い声で叫ぶと、いずなの下腹から右腕を無造作に抜き出した。
「ぎゃああっ!」
 悲痛な叫びを上げて、由羅の躰がふたつに折れた。
 ベキベキとすさまじい音が響き渡り、いずなの腹に開いた傷口から、由羅の折れた脊椎の先と血まみれのいずなの腸が飛び出した。
 複雑に絡み合ったオブジェと化して、ずるずると床にくずおれるふたり。
 杏里の口から悲鳴が漏れた。
 まだこの部屋に到着してから、10分と経っていない。
 なのに、すでにルナは左目を潰され、いずなは内臓をつかみ出され、由羅は背骨を折られて瀕死の状態だ。
 残るは、杏里と重人のみだった。
「重人、逃げて」
 零にしがみついたまま、杏里は叫んだ。
「ここから逃げて、誰か助けを」
「わ、わかった。取り合えず、博士たちの所に」
 パタパタと重人が駆けていく。
 だが、零は重人のような少年には関心がないのか、引き留めようともしなかった。
「これで邪魔者はいなくなった」
 杏里を傍らのベッドに押し倒すと、獲物を前にした肉食獣のように、長い舌でべろりと上唇を舐めた。
「杏里、覚えてる?」
 夢見るような口調で話し出す。
「いつか、廃病院で、私が仕掛けた拷問器具で一緒に遊んだ時のこと」
 杏里は両手で裸の胸を隠し、陶酔した表情の零を見上げた。
 脳裡に、凄惨な記憶がよみがえる。
 鉄の処女に入れられ、股裂き器にかけられ、真鍮の牛に閉じ込められて焼かれ、鋼鉄の爪で乳房をズタズタにされたあげく、四肢をつけ根からもぎ取られ、最後は断頭台にー。
 いくら杏里が不死身でも、二度と味わいたくない地獄の体験だった。
「あの時は、本当に楽しかったよね。もう一度、あんなふうに苦しむあなたの顔、見てみたいんだよ」
 そう歌うようにつぶやきながら、零が杏里の両足首を掴んだ。
 そのまま逆さまに持ち上げ、軽々と宙吊りにする。
 杏里は頭を下にして、だらりとぶら下がった。
 その足を、零が徐々に左右に開いていく。
 杏里の両脚が180度開くと、零の鼻先にむき出しの股間が来た。
「このまままっぷたつに引き裂いたら、どうなると思う?」
 杏里の充血した性器の匂いを嗅ぐように恥丘に鼻先を押しつけながら、愉しそうに零が言った。
「それでもあなたは死ねないんだよね。だってタナトスなんだもの」

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