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第10部 姦禁のリリス

#54 女王覚醒③

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 目の前にシャッターが下りていた。
 分厚い金属製の防火扉である。
 だが、零は舌打ちすらしなかった。
 右腕に力を溜め、無造作に殴りつけた。
 へこんだ個所に更に左の拳をぶち込み、たわんだところに強烈な前蹴りを放つ。
 それを3セット繰り返すと、轟音を立てて鋼鉄の扉が向こう側に倒れていった。
 襲われたのは、倒れた扉を踏みしめて、次のフロアへ入った時だった。
 大気を切る擦過音を耳元で聞いたかと思うと、やにわに太いゴム紐のようなものが首に巻きついたのだ。
 すざまじい力で締め上げられ、身体が宙に持ち上げられていく。
 上を向いて吊り上げられていく零の視界に、奇妙な光景が映った。
 裸の男が、ヤモリのように天井に貼りついている。
 耳まで裂けたその口から長い舌が伸び、それが零の細い首に巻きついてピンと張っている。
 できそこない。
 そんな単語が脳裏に浮かんだ。
 進化の過程で優生種になれなかった、落ちこぼれ。
 首を絞めつける舌に両手をかけ、ひと息に引きちぎろうとした、その瞬間である。
 右前方のわき道から、全裸の巨漢がふいに姿を現した。
 スキンヘッドの頭部。
 落ちくぼんだ目。
 逆三角形の上半身は筋肉の鎧に覆われ、上腕部にはグロテスクなほど力瘤が盛り上がっている。
 巨体の割に、スキンヘッドの動きは俊敏だった。
 その2体目の敵の姿を零が認識した時には、すでに万力のような指で両の乳房を鷲掴みにされていた。
 10本の爪が食い込み、真っ白な乳房から鮮血が流れ出す。
「なにが女王だ。ただの牝じゃねえか」
 スキンヘッドが下卑た口調で言い、ぺっと顔に唾を吐きかけてきた。
 いつのまにか股間から節くれだった肉棒が屹立し、宙で揺れる零の股間を狙っている。
「どきな。クズ」
 光沢を放つ巨大な禿頭を見下ろし、冷ややかな声にかすかな怒りを込めて、吐き捨てるように零は言った。
 下等動物のくせに、この私を傷つけて・・・。
 こいつら、ただで済むと思っているのか。
「威勢のいい女は好きだぜ。ほら、これでも喰らえ」
 スキンヘッドが怒張したペニスを繰り出すのと、零の右膝が跳ね上がるのとが、ほとんど同時だった。
「ぐはあっ」
 膝頭でペニスを折られ、伸ばしたつま先で睾丸を粉砕されて、スキンヘッドが数メートル先まで吹っ飛んだ。
 その勢いで着地すると、首に巻きついた舌を力任せに手繰り寄せ、天井からヤモリ男を引きはがす。
 落ちてきたところを、ピースサインの形に突き出した右手の指で、両眼を一気に貫いた。
 ぽっかり開いた眼窩から、血潮と脳漿を垂れ流し、哀れな生き物は絶命した。
 更に、助走もつけずに跳躍すると、零は鳥のようにスキンヘッドの前に舞い降りた。
「私を誰だと思ってる」
 左足で、男の分厚い胸部をぶち抜いた。
「クズはクズらしく死ぬがいい」
 右足で、その頑丈な頭部を踏み潰す。
 血と肉片を裸身に浴び、零はほんのりと頬を上気させている。
 久しぶりの残虐行為に、わずかながら、エクスタシーを感じたからだった。
 




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