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第9部 倒錯のイグニス

#254 シークレット・イベント当日②

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 これまで何度か媚薬を服用したことはあるが、これほど激烈な体験は初めてだった。
 全身の肌が帯電したかのように、過敏になっている。
 少し身体を動かすだけで布地に皮膚がこすれ、痺れるような快感が走る。
 まるで身体中が性感帯に変わってしまったかのように。始終ひくついていた。
 杏里は柱につかまりながら、よろよろと部屋を出た。
 歩くたびに、その振動で勃起した乳首がブラの内側に押しつけられる。
 股間では突如としてクリトリスリングが効力を発揮し始め、充血して肥大しきった陰核を責め上げる。
 玄関にたどりつく前に、杏里は息を切らし、短い廊下にしゃがみこんでしまった。
 ショーツの内側がとろとろに濡れそぼり、内腿を淫汁が伝い落ちていた。
 ショーツ自体が紐状で陰部にしっかり食い込んでいるため、その濡れ方ときたら尋常ではなかった。
 靴箱の上からティッシュを取って、濡れた股倉を拭く。
 そのついでに危うく指を布の隙間から割りこませそうになり、ぐっとこらえて自制した。
 が、いったん湧き上がった衝動は、容易に収まりそうもない。
 乳房をもみくちゃにして、あそこの穴に指をつっこみ、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
 そう、ゆうべみたいに…。
 杏里の脳裏に、昨夜の激しいオナニーシーンがフラッシュバックした。
 すべてを鏡に映し出し、考えつく限りの淫らなポーズをとって、獣のように悶え狂う生白い肌の全裸の美少女…。
 でも、と思う。
 ぎりぎりの瀬戸際で、なんとか自分を抑え込む。
 こんなところで絶頂に達するなんて、あまりにも馬鹿げている。
 こんな、誰も見ていないところで、イクわけにはいかない。
 せめて、学校までもたせて、ひとりでも多く巻き添えにしないと、あまりにももったいない…。

 よろめきながら、やっとのことで、家を出た。
 神経が異常をきたしているのか、視界の縁が虹色に染まり、視野狭窄を起こしているのがわかる。
 脂汗を流しながら、バス停まで歩いた。
 身体が火照って仕方がない。
 短すぎるスカートが翻るたびに、淫靡な臭気が立ちのぼるのがわかった。
 ティッシュで拭いても拭いても、あとからあとから愛液が溢れてきてしまうのだ。
 バス停のポールにしがみつき、荒い息を吐く。
 先にバスを待っていた老婆のふたり連れが、そんな杏里を見て眉をひそめた。
 排気ガスの匂いがして、バスが近づいてくる。
 見上げると、窓ガラスを通して通路にひしめく乗客たちの姿が見えた。
 これが第一の難関だった。
 学校につく前に、満員のバスで洗礼を受けねばならないのだ。
 あの混みようは、きのうのリハーサルの時より酷そうだ。
 が、杏里自身、あの時に比べ、2種類の媚薬のせいで数倍パワーアップしている。
 修羅場の予感に、無意識のうちに杏里はまた深いため息をついていた。


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