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第9部 倒錯のイグニス

#142 アニス①

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 会場は、異様などよめきに包まれていた。
 素人同然の杏里が、またしても勝利を収めたのである。
 あちこちで指笛が鳴り響き、奇声が上がった。 
 誰もが、濡れそぼって肌に貼りついたユニフォームから、乳首と陰部を露出させた杏里を凝視している。
 乳房のラインをくっきり浮き立たせたたわわな胸を弾ませながら、リングを降りる杏里。
 露出した二の腕や太腿は防護液でぬめぬめ光り、内腿には滴る愛液が糸を引いている。
 身体じゅうが熱い。
 肌という肌が、火照ってたまらない。
 あたかも、全身から蒸気が噴き上げているようだ。
 勝利の喜びより、沸騰する性欲で、杏里は今にも叫び出しそうだった。
 性露丸の効果がピークに達したのか、少し躰を動かすだけで、布地に触れた部分の肌がいやらしく疼く。
 リングで締め上げられた陰核が充血してふくれあがり、内股にこすれるたびに股間に電撃が走るのだ。
 ああ、今すぐ、オナニーがしたい。
 ひとに見られたって、いい。
 この場にうずくまり、思う存分、自分の身体をむさぼることができたなら…。
 ああ、でも。
 と、思い直す。
 それより、誰かに思いっきり、乳首と陰核を弄ってほしい。
 吸って吸って吸いまくって、前歯で何度も甘噛みしてほしい。
 そして、できれば、股間の空洞を、熱くたぎる肉で埋めてほしい。
 そう、隙間なく、みっしりと…。
 そんな精神状態だから、仲間たちの声も、ろくに耳に入ってこなかった。
 みんな、一様に驚きに目を見張り、口々に何か話しかけてくる。
 しかし、口の動きが見えるだけで、杏里の耳には声までは届いてこない。
 お願い。
 パイプ椅子に腰かけ、ぎゅっと目をつぶって、杏里は思う。
 お願いだから、もう、いかせて。
 杏里、セックス、したいの。
 今まで味わったことのない、荒々しいセックスが。
 本能的に手が張り切った胸の頂に伸び、右の乳首をまさぐっていた。
 乳首はさっきから石のように固くなり、元の倍以上の長さに勃起したままだ。
 こよりのように指でよじりながら乳頭に爪を立てると、それだけで頭の中が白くなり、恍惚感で気が遠くなる。
 左手が動き、陰唇の間に指をつっこんで、中の肉をまさぐり始めていた。
 指を上下に動かすたびに、”孔”の周囲の筋肉がひくつき、奥のほうからじゅわりと熱い汁がにじみ出してくる。
 それを指ですくい取り、更に陰核になすりつけ始めた時、
「杏里、しっかりして」
 純に肩を揺すられた。
 薄目を開けると、耳まで赤くなった純の顔がすぐそこにあった。
 杏里の痴態に気づいているくせに、なるべく見ないように顔をそむけているようだ。
「璃子が呼んでるよ。もう、出番だよ」
 杏里は熱に浮かされたような眼を、リングに投げた。
 マットの上に立っているのは、チョコレート色の肌に赤いビキニ型ユニフォームを着けたアニスである。
 異国の少女はうれしそうに飛び跳ねると、オーバーな仕草で杏里のほうへ投げキスを送ってくる。
「次は、アニス…?」
 うわ言のように、杏里はつぶやいた。
「杏里、あなたはもう十分戦った。だから、疲れてるなら、そう言って。わたしが代わってリングに立つから」
 純が背中をさすってそう言った。
 その感触すらもが快感に変換され、思わず喘ぎそうになる杏里。
 美穂に乳首を吸われ、麻衣に陰部を押しつけた時の至福感が、身体の隅々にまで生々しい記憶と化して蘇る。
「ううん、いいの」
 杏里はきっぱりとかぶりを振った。
「お願い、行かせて」
 純の手をふり払い、よろよろと立ち上がる。
 今の杏里に、さっきまでの恐怖感はない。
 むしろ、相手がアニスと知って、熱い期待で胸が張り裂けそうだ。
 アニスの異国の肌は、どんな感触なのだろう。
 あのカモシカのようにしなやかで強靭な筋肉は、私にどんな”性地獄”を見せてくれるのだろう。
 重い身体を引きずり、ロープをくぐって、リングに上がった。
 元気いっぱいのアニスと向かい合って、立つ。
 割れんばかりにどよめく場内。
 ひと際鋭く突き刺さってくるのは、ルナの嫉妬の視線だろうか。
「杏里、愛シテル!」
 投げキスを飛ばして、アニスが叫んだ。
「ソノむちむちぼでい、コノあにすガ、タップリ可愛ガッテアゲルカラ!」
 チョコレート色の顔に、白い歯がまぶしい。
 杏里はじっとりした目で、アニスの均整の取れた躰をねめ回した。
 ほどよく突き出た胸。
 細い腰から形よく張り出した臀部。
 小柄ながら、驚くほど重心が高く、足が長い。
 その魅力的な肢体につき上げるような欲望を掻き立てながら、頭の片隅でふと杏里は思った。
 もし、これが外来種なら、びっくりするほどうまく化けたものね…。




 


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