上 下
60 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#59 触姦①

しおりを挟む
 女性ふたりの手のひらが、盛り上がった杏里の乳房の周囲を撫でまわす。
 ろくろで粘土の形を整えるように、丁寧に肉の盛り上がりに沿って手を動かしていく。
 だが、指は乳輪をなぞりはするものの、決して乳首には触れようとしない。
 だから、血液は自然、その放置されたままの乳首に集まってくる。
 そんなわけで、杏里の乳首は薔薇色に染まり、恥ずかしいほど太く硬く勃起してしまっていた。
「すばらしい身体ですね。ローションを用意してきたんですけど、それも必要ないみたい」
 杏里の皮膚のぬめりを両手で味わい、分泌され始めた体液をクリームのように伸ばしながら、感心したように女医が言った。
「これまでタナトスは何人も触診しましたけど、あなたのように敏感な個体は初めてだわ」
「これが、タナトスの肉体なんですね…すごく綺麗で、エロチック…」
 若い看護師の声は、少し上ずっているようだ。
 杏里の肌をもみほぐす手にも、不自然に力が入っているのがわかる。
「そうよ。この子は人間の女性のうち、性的な部分をデフォルメしてつくられた特別な存在なの。当てられないように注意なさい」
 助手の動揺ぶりを見て、女医の声に面白がっているような響きが宿った。
「あの…これは、何の…検査、なんですか?」
 時折びくんと身体を痙攣させながら、やっとのことで、杏里はたずねた。
 されるがままに静かにしていると、どうしても意識は撫でまわされる乳房のほうに集中してしまう。
 このままでは、あられもない言葉を口走りかねない。
 そんな危惧を覚えての質問だった。
「CTスキャンというのはね、万能に見えるけど、意外に見落としが多いものなのよ。だから私たちは、触診で身体に異常がないかどうか探すというわけ。外来種の細胞の組織が一部分でも入り込んでたら、やっかいなことになりかねない。雌雄同体で、獲物の肉体に受精卵を産みつけるタイプも現れたって話でしょ。確か、あなたが助けようとしたもうひとりの女の子が、その犠牲になったって話じゃなかったかしら」
「あれは、本当に、いずなちゃんだったんですか…?」
 乳首の疼きに思わず喘ぎそうになりながらも、杏里は訊かずにはいられない。
「あの皮袋をかぶった骨格が誰のものなのか…それはやはり、DNA検査の結果待ちでしょうね。明日の午後には結果が出るのじゃないかと思うけど」
 女医は杏里の胸から手をどけると、
「そのことについてはいずれ報告が来ると思うから、今はあなたの身体の健康だけを考えましょう。さ、今度は下半身を触診するわ。あ、そうそう。あなたが中に装着してたローターは消毒してあっちにに置いてあるから、検査が終わったらお返しするわね」
 カーテンの向こうを顎で示して、女医が言った。
「でも、どうしてあんなことを? 知らなかったわ。タナトスが、まさかそこまでニンフォマニアだったなんて」
 ねっとりしたまなざしが、探るように杏里を見た。
 ニンフォマニア。
 色情狂、あるいは多淫症。
 杏里の頬が、一瞬かっと熱くなる。
「違うんです。あれは、すぐに治療に入れるようにと思って…」
「このべたべたがそうね」
 女医が自分の鼻先に、杏里の体液で濡れた指を持っていく。
「すごい。指のあか切れが治ってる。ついさっきまで、まだ痛みが残ってたのに」
「それがタナトスの治癒能力ですか?」
 助手の看護師が、興味津々といった面持ちで、女医の手元をのぞきこむ。
「そうよ。タナトスは、ほとんどの傷を自己再生し、他者の傷をも癒すことができる。汗だけでもこれだけの治癒能力があるとすると、もっと濃度の高いあそこからの分泌液は、いったいどれほどの効果を秘めているのかしら」
「あそこからの、分泌液、ですか?」
 助手の視線が、シーツをはだけられた杏里の下半身に集中する。
 杏里はさざ波のような快感の予感に、無意識のうちにきゅっと太腿をすぼめていた。
 腿の内側はすでに熱く湿っている。
「さて、では、いきましょうか」
 ふたりの手が、それぞれ下腹と右の太腿に置かれるのがわかった。
 そしておもむろに、ねぶるような愛撫が始まった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...