上 下
46 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#45 基礎訓練⑭

しおりを挟む
 話し終えると、大山は反応を確かめるように杏里の顔を覗き込んだ。
 杏里は答えない。
 黙って大山の視線を受け止めた。
 ひどい企画だと思う。
 人権も何もあったものではない。
 これでは学校が集団レイプを奨励するようなものだ。
 いくら私がタナトスだとはいえ、これはあまりにひどすぎるのではないだろうか。
 改めて、机の上の小箱に目を向ける。
 杏里はかつて、これと同じようなものを美里に装着されたことがある。
 あの時は、24時間ずっとクンニされ続けているような状態で、まるで麻薬中毒にでもなった気分だった。
 その際の後遺症か、杏里の陰核は以前より肥大してしまっている。
 その分、たとえ極限状況に陥っても、そう簡単に他人の手で嵌められるものではないとも思う。
 が、そう考えても、大して慰みにはならなかった。
 リングは嫌。
 あんな廃人みたいな気分は、もう二度と味わいたくない。
 しかし、大山は、杏里の沈黙を逆の意味に取ったようだ。
 権力者の常なのか、それとも単なる楽天家なのか、他人が自分の意見に逆らうことがあるなどとは、考えてもいないに違いない。
「君にも異論はないようだな。まあ、これならひとりずつちまちま浄化するより、ずっと手間が省けるからね。もちろん、君に有利なように、会場には色々な仕掛けを設けようと思う。覗き部屋風のアトラクションとか、大画面を使っての実況中継とか、君がそんなに苦労しなくても徐々に人数を減らしていけるように…。それで、ここからが相談なのだが、発表の時、こちらの本気度が生徒たちに伝わるように、君の画像を用意しようと思っている。だから、そのための動画を撮らせてほしいのだ。もちろん、外部には一切漏れないようにする。生徒や職員を説得するのに、これ以上のものはないと思うのだが、どうかね?」
「動画ですか?」
 杏里はかすかに眉をひそめた。
 こちらを見つめる大山の顔は、教育者どころか、ただの好色な中年男のそれである。
 大山の肉厚の唇が、いやらしくうごめき、無意味な言葉を紡ぎ出す。
「まあ、言わなくてもわかるだろう? 学校中の人間の興味を一身に引きつけるには、生半可なものでは効果がない。一度見たら目に焼きつき、夢にまで出てくるくらいのインパクトが必要だ」
 杏里は大山を睨みつけた。
 嫌な予感しかしない。
「だから、それはどんな内容なんです? 教えていただかなくては、私には想像もつきません」
 うすうす見当はついていたが、あえて本人の口から言わせてやろうと思った。
「そう…。例えばの話だが、こんなのはどうかね? 君がその、実際にあそこにリングを嵌めるのを実演してみせるとか…。なんなら、そのまま、自慰をしてもらってもかまわない」
 そんなことだろうと思った。
 杏里は気を落ち着かせるために、すうっと息を吸い込んだ。
「よくわかりました。校長先生は、やっぱり私のこと、人間とは思っていないんですね。ただの、学校の備品くらいにしか」
「その件については、すでに話したはずだが」
 大山が真顔になった。
 蔑むような目つきをしていた。
「ただ、学校の備品というのは、いささか言い過ぎだな。タナトスはいわば、政府から貸し与えられている貴重な財産だ。粗雑に扱う気など、毛頭ないのだよ。それだけは、肝に銘じ、いや、理解しておいてほしいものだね」
 

 


 
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

処理中です...