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第9部 倒錯のイグニス
#41 基礎訓練⑩
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「笹原、どうだ? 調子は?」
翌日の昼休み。
机に頬杖をついてぼんやり窓の外を眺めていると、突然耳障りな声が耳朶を打った。
ぎくりとして顔を上げると、隣の机の端に腰かけて、璃子がにやにや笑っていた。
「べ、別に…」
さっきまで一緒に弁当を食べていた純は、ほかのクラスの友人に用があるとかで姿を消してしまっている。
教室の中は閑散としていて、杏里と璃子のほかは、数名の生徒たちが思い思いにだべっているだけである。
ふみは珍しく自分の席についていて、遠くから璃子と杏里の様子を眺めている。
「きのうはさっそく小百合先生の個人指導、受けてたみたいだけど、気をつけたほうがいいかもな」
怯えた杏里の表情が面白いのか、璃子は相変わらず意味深なにやにや笑いを顔に貼りつけたままだ。
「気をつけるって、何に…?」
「メンバーの中には、おまえのこと、よく思ってないやつもいるってことさ。運動神経も体力もないのに、先生に特別扱いされてるのが気に入らないんだろう。ま、あたしはどうでもいいんだけどね。マネージャーだから、一応忠告はしておくさ」
「そんなこと、言われても…」
「せいぜい、怪我しないように気をつけろ。紅白戦だけじゃなく、学園祭のイベントも控えてるしな」
璃子がふみの許へと去っていくと、杏里は重い気分に襲われた。
ただの脅しだろうか。
でも、十分、有り得ることだ。
きのう、リタイアした杏里を小百合が連れていくところを、マラソンしながらメンバーたちは全員見ていたに違いない。
腹を立てる者がいても、それは当然だ、と思う。
逆の立場だったら、杏里自身、いい気持ちはしないだろうからだ。
ため息をついて、席を立つ。
まだ午後の授業までには、30分近くある。
外の空気を吸いがてら、トイレにでも行っておこうと思ったのだ。
同じ棟のトイレは、顔見知りがたむろしている可能性が高い。
だから杏里は、時々1階のトイレを使う。
1階は事務所と職員室、それに校長室しかないから、登下校の時以外、行き来する生徒は少ないのだ。
女子トイレに入ると、予想通り誰もいなかった。
職員用は別にあるので、ここには教師がくることもない。
洗面台の鏡に向かい、リップクリームを塗り直そうと、ブラウスの胸ポケットからスティックを取り出した時である。
鏡の中でふいにドアが開き、ふたつの人影が入ってきた。
ひとりは、2年A組の朝倉麻衣。
類人猿を連想させる、腕の長い猫背の少女である。
もうひとりは、雄牛を思わせる巨体の持ち主。
2年C組の飯塚咲良だ。
杏里はどきりとした。
ふたりは、鏡の中から、きつい目で杏里を睨み据えている。
「ちょっと可愛いからって、いい気になるんじゃないよ」
上目遣いに杏里をねめ回し、ねばりつくような口調で、朝倉麻衣が言った。
「ねえ、笹原。あんたのどこがそんなに先生のお気に召したのか、うちらにも試させてくれない?」
声変わりした男子のような声音で、恰幅のいい飯塚咲良が絡んでくる。
「誤解よ、誤解。私はただ、先生に柔軟体操、教えてもらってただけ。ほんと、大したこと、なかったんだから」
「うそつけ。何が柔軟体操だ」
杏里の言い訳を、麻衣が遮った。
長い腕が伸び、杏里の胸倉をつかんだ。
すごい力で引き寄せると、トイレの個室の前まで引きずっていき、いきなりどんと突き飛ばした。
「あうっ」
便座に腰を打ちつけて、杏里がうめく。
麻衣と咲良が中に入ってきた。
咲良の巨体でドアが閉まらない。
細身の麻衣が背後に回り、杏里の両手首をつかんで捩じ上げる。
「やっちまいな、咲良。ただし、顔には傷をつけんなよ。後で面倒なことになるからさ」
「あいよ」
咲良がうなずき、杏里のブラウスのボタンを乱暴にはずしにかかった。
たちまち、小さなブラに持ち上げられた形のいい胸乳と、つるりとした滑らかな下腹があらわになる。
「うざいんだよ」
咲良が太い脚を振り上げた。
ドスッ。
男子生徒並みのサイズの上履きが、杏里の下腹に鈍い音を立ててめり込んだ。
「くっ」
杏里の喉を、胃液が逆流する。
「この淫乱! 先生と何をした?」
分厚い手のひらで、頬をはたかれた。
耳の奥がジーンとなり、唇が切れて血が飛び散った。
「ほうら、いわんこっちゃない」
咲良の後ろから、声がした。
璃子だった。
モップを片手に、面白そうに中を覗き込んでいる。
「咲良、ほい、これ」
璃子がモップの柄を咲良に突き出した。
「こいつでさ、二度と使えないようにしてやれよ。こいつのあそこをさあ」
翌日の昼休み。
机に頬杖をついてぼんやり窓の外を眺めていると、突然耳障りな声が耳朶を打った。
ぎくりとして顔を上げると、隣の机の端に腰かけて、璃子がにやにや笑っていた。
「べ、別に…」
さっきまで一緒に弁当を食べていた純は、ほかのクラスの友人に用があるとかで姿を消してしまっている。
教室の中は閑散としていて、杏里と璃子のほかは、数名の生徒たちが思い思いにだべっているだけである。
ふみは珍しく自分の席についていて、遠くから璃子と杏里の様子を眺めている。
「きのうはさっそく小百合先生の個人指導、受けてたみたいだけど、気をつけたほうがいいかもな」
怯えた杏里の表情が面白いのか、璃子は相変わらず意味深なにやにや笑いを顔に貼りつけたままだ。
「気をつけるって、何に…?」
「メンバーの中には、おまえのこと、よく思ってないやつもいるってことさ。運動神経も体力もないのに、先生に特別扱いされてるのが気に入らないんだろう。ま、あたしはどうでもいいんだけどね。マネージャーだから、一応忠告はしておくさ」
「そんなこと、言われても…」
「せいぜい、怪我しないように気をつけろ。紅白戦だけじゃなく、学園祭のイベントも控えてるしな」
璃子がふみの許へと去っていくと、杏里は重い気分に襲われた。
ただの脅しだろうか。
でも、十分、有り得ることだ。
きのう、リタイアした杏里を小百合が連れていくところを、マラソンしながらメンバーたちは全員見ていたに違いない。
腹を立てる者がいても、それは当然だ、と思う。
逆の立場だったら、杏里自身、いい気持ちはしないだろうからだ。
ため息をついて、席を立つ。
まだ午後の授業までには、30分近くある。
外の空気を吸いがてら、トイレにでも行っておこうと思ったのだ。
同じ棟のトイレは、顔見知りがたむろしている可能性が高い。
だから杏里は、時々1階のトイレを使う。
1階は事務所と職員室、それに校長室しかないから、登下校の時以外、行き来する生徒は少ないのだ。
女子トイレに入ると、予想通り誰もいなかった。
職員用は別にあるので、ここには教師がくることもない。
洗面台の鏡に向かい、リップクリームを塗り直そうと、ブラウスの胸ポケットからスティックを取り出した時である。
鏡の中でふいにドアが開き、ふたつの人影が入ってきた。
ひとりは、2年A組の朝倉麻衣。
類人猿を連想させる、腕の長い猫背の少女である。
もうひとりは、雄牛を思わせる巨体の持ち主。
2年C組の飯塚咲良だ。
杏里はどきりとした。
ふたりは、鏡の中から、きつい目で杏里を睨み据えている。
「ちょっと可愛いからって、いい気になるんじゃないよ」
上目遣いに杏里をねめ回し、ねばりつくような口調で、朝倉麻衣が言った。
「ねえ、笹原。あんたのどこがそんなに先生のお気に召したのか、うちらにも試させてくれない?」
声変わりした男子のような声音で、恰幅のいい飯塚咲良が絡んでくる。
「誤解よ、誤解。私はただ、先生に柔軟体操、教えてもらってただけ。ほんと、大したこと、なかったんだから」
「うそつけ。何が柔軟体操だ」
杏里の言い訳を、麻衣が遮った。
長い腕が伸び、杏里の胸倉をつかんだ。
すごい力で引き寄せると、トイレの個室の前まで引きずっていき、いきなりどんと突き飛ばした。
「あうっ」
便座に腰を打ちつけて、杏里がうめく。
麻衣と咲良が中に入ってきた。
咲良の巨体でドアが閉まらない。
細身の麻衣が背後に回り、杏里の両手首をつかんで捩じ上げる。
「やっちまいな、咲良。ただし、顔には傷をつけんなよ。後で面倒なことになるからさ」
「あいよ」
咲良がうなずき、杏里のブラウスのボタンを乱暴にはずしにかかった。
たちまち、小さなブラに持ち上げられた形のいい胸乳と、つるりとした滑らかな下腹があらわになる。
「うざいんだよ」
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ドスッ。
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「くっ」
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「この淫乱! 先生と何をした?」
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耳の奥がジーンとなり、唇が切れて血が飛び散った。
「ほうら、いわんこっちゃない」
咲良の後ろから、声がした。
璃子だった。
モップを片手に、面白そうに中を覗き込んでいる。
「咲良、ほい、これ」
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