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第3話 ずっとあなたとしたかった
#60 忍び寄る魔手⑱
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職員用駐車場に赤い車は1台しかなかった。
「乗れ」
近づくとサイドウィンドゥを下げ、目から上だけを出して那智が言った。
助手席のドアが内側から開き、伸びてきた手が杏里の手首をつかんできた。
杏里は白のブラウスにミニ丈の薄茶のスカート、そして同色のブレザー姿に戻っている。
シートに座ろうとしたところでスカートがめくれあがり、はずみで白い下着が顔をのぞかせると、那智が好色そうに眼を細めた。
生徒が教師の自家用車に同乗するというのは奇異な光景であるはずなのに、女同士だからなのか、すれ違う生徒たちは大して関心を寄せてこなかった。
中には杏里に向かって手を振る者までいる始末で、別に騒がれることもなく、那智の車は学校を後にした。
「ラブホテルは初めてか?」
右手でハンドルを操作しながら、左手を杏里の太腿に這わせて、那智がたずねた。
車はちょうど、交通量の多い幹線道路に乗ったところである。
「は、はい」
那智の指がスカートの奥まで入ってきて、下着の上から熱く火照った秘所を刺激する。
そのじらすようなかすかな愛撫に、杏里は声を立てないようにするだけで精一杯だ。
「うそだろう。おまえが処女であるはずがない」
「で、でも…ラブホテルは、初めてなんです」
これは嘘ではなかった。
いつ失くしたのかすでに記憶にないが、確かに杏里は処女ではない。
年の割に、性体験も豊かである。
だが、行為の場所はたいてい中学校の校内のどこかかバスや地下鉄の中に限定されていて、ホテルなどといったちゃんとした所でやったことは、これまで1度もないのである。
なんせ相手がほとんど中学校の教師か生徒、あるいは行きずりの痴漢ばかりだったのだから、こればかりは仕方がなかった。
「ならば、最高の部屋を取ってやろう。確かおまえ、独り暮らしだったはずだな。食事もつくから心配するな」
有料道路を降りると、車は繫華街の裏に入っていった。
運河沿いの道にさしかかると、周りにお城や宮殿のような奇妙な形の建物が増えてきた。
名前からして、どれもラブホテルのようである。
各ホテルの駐車場の入口にはカーテンが下がっていて中の様子を半ば隠しているのだが、どこもけっこう車で埋まっているのが杏里には驚きだった。
真っ昼間から、こんなにたくさんのカップルが、セックスを…?
そう想像しただけで、背筋がぞくぞくしてきた。
杏里には、自分のことがよくわからなくなっている。
別段、ここまで那智につき合う必要なんてないのだ。
逃げ出そうと思えば、いくらでもチャンスはあったはずである。
なのに、言われるままに車に乗せられ、いつのまにか、ラブホテルの真ん前まで来てしまっているのだ。
しいて言えば、那智の粗暴な中にも巧妙さの混じる執拗な愛撫を、身体が求めているというのが真相だろう。
心ではなく、肉体が更なる快楽を希求してやまない。
そんなアブノーマルな感覚なのである。
その意味では、杏里はまさにセフレとして適任だった。
那智は、ひと目でその資質を見抜いたのかもしれなかった。
ふたりが入ったのは、マヤ文明の遺跡みたいな形をした、奇妙な建物だった。
地下駐車場は半分ほどが車で埋まっていて、このホテルの人気の高さをそれとなく暗示しているようである。
車を降り、那智に手を引かれて奥へと歩く。
受付かと思ったら、そこは大きな自動販売機みたいな箱の前で、さまざまな部屋の画像がパネルになって並んでいた。
空き状況を確かめながら、那智が中央のひと際大きなパネㇽを指でタッチした。
パネルの明かりが消え、スロットから音もなくカードキーが吐き出される。
「こっちだ」
キーを抜き、那智が杏里の肩に手をかけた。
突き当りのエレベーターで3階に上がると、目の前に厚い木製の扉が現れた。
那智がキーボックスにカードをかざすと、中でカチッとロックのはずれる音がした。
1歩足を踏み入れて、杏里は息を呑んだ。
20畳はありそうな広い洋間である。
手前にスポーツジムにあるような器具。
真ん中にキングサイズのふかふかのベッド。
その向こうの壁は透明になっていて、風呂場の中が丸見えだ。
左右の壁と天井には一面に鏡が貼られ、まるで万華鏡の中に迷いこんだみたいな気分である。
人の出入りを感知して明かりがつく仕組みになっているらしく、部屋の中はすでに暗いオレンジ色の照明に照らされている。
へーえ、意外に素敵じゃない。
見るものすべてが物珍しく、杏里はきょろきょろ周囲を見回した。
それにしても、と思う。
ベッドや鏡はわかるけど、この鉄棒みたいなものはなんだろう?
ずいぶん背が高いし、なんだか手錠みたいなものが、いくつもいくつもぶら下がってるんだけど…。
その手錠のひとつに手を伸ばした時、那智が言った。
「さあ、先にシャワーを浴びてこい。ここでじっくり見ていてやるから」
「乗れ」
近づくとサイドウィンドゥを下げ、目から上だけを出して那智が言った。
助手席のドアが内側から開き、伸びてきた手が杏里の手首をつかんできた。
杏里は白のブラウスにミニ丈の薄茶のスカート、そして同色のブレザー姿に戻っている。
シートに座ろうとしたところでスカートがめくれあがり、はずみで白い下着が顔をのぞかせると、那智が好色そうに眼を細めた。
生徒が教師の自家用車に同乗するというのは奇異な光景であるはずなのに、女同士だからなのか、すれ違う生徒たちは大して関心を寄せてこなかった。
中には杏里に向かって手を振る者までいる始末で、別に騒がれることもなく、那智の車は学校を後にした。
「ラブホテルは初めてか?」
右手でハンドルを操作しながら、左手を杏里の太腿に這わせて、那智がたずねた。
車はちょうど、交通量の多い幹線道路に乗ったところである。
「は、はい」
那智の指がスカートの奥まで入ってきて、下着の上から熱く火照った秘所を刺激する。
そのじらすようなかすかな愛撫に、杏里は声を立てないようにするだけで精一杯だ。
「うそだろう。おまえが処女であるはずがない」
「で、でも…ラブホテルは、初めてなんです」
これは嘘ではなかった。
いつ失くしたのかすでに記憶にないが、確かに杏里は処女ではない。
年の割に、性体験も豊かである。
だが、行為の場所はたいてい中学校の校内のどこかかバスや地下鉄の中に限定されていて、ホテルなどといったちゃんとした所でやったことは、これまで1度もないのである。
なんせ相手がほとんど中学校の教師か生徒、あるいは行きずりの痴漢ばかりだったのだから、こればかりは仕方がなかった。
「ならば、最高の部屋を取ってやろう。確かおまえ、独り暮らしだったはずだな。食事もつくから心配するな」
有料道路を降りると、車は繫華街の裏に入っていった。
運河沿いの道にさしかかると、周りにお城や宮殿のような奇妙な形の建物が増えてきた。
名前からして、どれもラブホテルのようである。
各ホテルの駐車場の入口にはカーテンが下がっていて中の様子を半ば隠しているのだが、どこもけっこう車で埋まっているのが杏里には驚きだった。
真っ昼間から、こんなにたくさんのカップルが、セックスを…?
そう想像しただけで、背筋がぞくぞくしてきた。
杏里には、自分のことがよくわからなくなっている。
別段、ここまで那智につき合う必要なんてないのだ。
逃げ出そうと思えば、いくらでもチャンスはあったはずである。
なのに、言われるままに車に乗せられ、いつのまにか、ラブホテルの真ん前まで来てしまっているのだ。
しいて言えば、那智の粗暴な中にも巧妙さの混じる執拗な愛撫を、身体が求めているというのが真相だろう。
心ではなく、肉体が更なる快楽を希求してやまない。
そんなアブノーマルな感覚なのである。
その意味では、杏里はまさにセフレとして適任だった。
那智は、ひと目でその資質を見抜いたのかもしれなかった。
ふたりが入ったのは、マヤ文明の遺跡みたいな形をした、奇妙な建物だった。
地下駐車場は半分ほどが車で埋まっていて、このホテルの人気の高さをそれとなく暗示しているようである。
車を降り、那智に手を引かれて奥へと歩く。
受付かと思ったら、そこは大きな自動販売機みたいな箱の前で、さまざまな部屋の画像がパネルになって並んでいた。
空き状況を確かめながら、那智が中央のひと際大きなパネㇽを指でタッチした。
パネルの明かりが消え、スロットから音もなくカードキーが吐き出される。
「こっちだ」
キーを抜き、那智が杏里の肩に手をかけた。
突き当りのエレベーターで3階に上がると、目の前に厚い木製の扉が現れた。
那智がキーボックスにカードをかざすと、中でカチッとロックのはずれる音がした。
1歩足を踏み入れて、杏里は息を呑んだ。
20畳はありそうな広い洋間である。
手前にスポーツジムにあるような器具。
真ん中にキングサイズのふかふかのベッド。
その向こうの壁は透明になっていて、風呂場の中が丸見えだ。
左右の壁と天井には一面に鏡が貼られ、まるで万華鏡の中に迷いこんだみたいな気分である。
人の出入りを感知して明かりがつく仕組みになっているらしく、部屋の中はすでに暗いオレンジ色の照明に照らされている。
へーえ、意外に素敵じゃない。
見るものすべてが物珍しく、杏里はきょろきょろ周囲を見回した。
それにしても、と思う。
ベッドや鏡はわかるけど、この鉄棒みたいなものはなんだろう?
ずいぶん背が高いし、なんだか手錠みたいなものが、いくつもいくつもぶら下がってるんだけど…。
その手錠のひとつに手を伸ばした時、那智が言った。
「さあ、先にシャワーを浴びてこい。ここでじっくり見ていてやるから」
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