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第3話 ずっとあなたとしたかった
#46 忍び寄る魔手④
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新学期2日目ということもあり、授業はなかった。
お互い自己紹介したり、委員を決めたり、そんなことで午前中の時間は過ぎていった。
率先してクラス委員に立候補し、満場一致で当選したのは、葛城美和である。
美和はまだ頭に包帯を巻いたままだったけど、それは見慣れてくるとなんだかエキゾチックな異国の衣装の一部のようで、彼女の魅力のひとつに思えてくるから不思議だった。
その理知的でさわやかな弁舌には誰もが好感を抱いたようで、その後のHRが美和の主導で進行しても、誰も文句を言う者はいなかった。
担任の那智が教室に居たのは、美和がクラス委員に決まるまでの間に過ぎなかった。
美和が委員に選ばれると、彼女に細かい指示だけ与えて、職員室に戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、杏里は更に思考をめぐらせた。
美和のスマホを盗んで私を公園に呼び出したのが那智先生だとしたら、目的はいったい何なのだろう?
まさか、あんな小言を言うためだけとは思えない。
もしあの時、おまわりさんが通りかからなかったら…。
そこまで考えて、意味もなくぞっとなった。
ー今夜、犯すー
あのメモの内容を、思い出したのである。
宇津木涼の言葉が正しいとすると、きのう、もうひとりの誰かが、杏里を犯そうとしていたことになるのだ。
現に、きのう宇津木はずっとマンションに居て、杏里の帰宅を待ち伏せていたのだから、彼が杏里のポケットにあのメモを入れるのは不可能だ。
だとしたら…。
「まさかね」
机の上に頬杖を突き、シャーペンを指で高速回転させながら杏里はつぶやいた。
「いくらなんでも、それはないよね。先生、女なんだしさ」
と、そのつぶやきをかき消すように、チャイムが鳴り始めた。
これできょう一日は終わりである。
でも、と杏里は思う。
私の本当の一日は、これから始まるのだ…。
「待ってようか」
心配そうに声をかけてきた美和に、
「ううん。大丈夫。いつまでかかるかわかんないから、先に帰ってて」
杏里は、何でもないように笑って答えた。
「せっかく杏里と一緒に、部活見て回ろうと思ってたのに…」
美和は残念そうである。
「焦ることはないよ。部活は二週間以内に決めればいいんでしょ」
「それはそうだけど…」
未練げな美和の背中を押して教室を出ると、杏里は足早に職員室に向かった。
「失礼しまーす」
入り口でパンティが見えるほど深くお辞儀をすると、針のような無数の視線が返ってきた。
体育館の壇上でストリップを演じた、きのうのきょうである。
相手が杏里だと認識するや否や、教師たち全員に欲情のスイッチが入ったようだった。
校長をはじめとする全職員が、まるで視線だけで犯そうとするかのように、無遠慮に杏里の全身をねめ回す。
が、それも、職員室内に那智の声が響き渡るまでのことだった。
「こっちに来なさい。笹原さん」
悪戯を見つかった子どものように、そそくさと手元の書類に目を戻す教師たち。
声のしたほうに行くと、那智が奥の別室のドアの前で、腕組みしてこっちを睨んでいた。
警察の尋問部屋みたい。
部屋の中に通された杏里の第一印象は、それだった。
教師と生徒の面談室なのだろうか。
窓のない狭い部屋である。
真ん中に低い長テーブルと二組のソファ。
それ以外には、何もない。
「相変わらず、ひどい格好ね」
ブレザーの間から飛び出したはち切れそうな胸、股下すれすれのマイクロミニ。
杏里はきょうも、きのうと同様、思いっきり挑発的なスタイルである。
「ったく、いやらしいったら、ありゃしない! そのスカート丈、校則違反だってこと、わかってるでしょ!」
杏里を立たせたまま、那智がなじり始めた。
こめかみに青筋を浮き上がらせ、唾を飛ばして怒鳴りつけてくる。
「知りません。生徒手帳なんて、読んでませんから。それに、私にはこの格好が一番似合うんです。自分に一番似合う恰好で学校に来るのが、そんなに悪いことなんですか?」
悪びれもせず、杏里は言い返した。
あんたなんて、人のスマホ盗んで、何か悪だくみしてたくせに。
その思いがあるだけに、いくら大声で怒鳴られても、相手の弱みを握っているようで、さほど怖くない。
「いやらしい服で男の眼を引くのが、そんなに楽しいの? あなたみたいなのがいるから、男たちはカン違いして、いつまでたってもセクハラや痴漢をやめようとしないのよ! いい? あなたはすべての女性の敵なの。馬鹿な男どもに与する汚らわしい娼婦なの!」
口角泡飛ばす熟女の剣幕に、杏里はただただ呆気にとられるだけだった。
この人、何か、男性にうらみでもあるのだろうか。
ふと、そう思った。
最近、離婚したばかりとか。
痴漢に遭ったとか。
「お言葉ですが、先生」
うんざりして、杏里は那智の長広舌を遮った。
「私には、男も女も関係ないんです。ただ、この素敵な躰を、みんなに称賛の眼で見てほしいだけ。あ、なんなら、ここで脱いでもいいんですよ?」
お互い自己紹介したり、委員を決めたり、そんなことで午前中の時間は過ぎていった。
率先してクラス委員に立候補し、満場一致で当選したのは、葛城美和である。
美和はまだ頭に包帯を巻いたままだったけど、それは見慣れてくるとなんだかエキゾチックな異国の衣装の一部のようで、彼女の魅力のひとつに思えてくるから不思議だった。
その理知的でさわやかな弁舌には誰もが好感を抱いたようで、その後のHRが美和の主導で進行しても、誰も文句を言う者はいなかった。
担任の那智が教室に居たのは、美和がクラス委員に決まるまでの間に過ぎなかった。
美和が委員に選ばれると、彼女に細かい指示だけ与えて、職員室に戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、杏里は更に思考をめぐらせた。
美和のスマホを盗んで私を公園に呼び出したのが那智先生だとしたら、目的はいったい何なのだろう?
まさか、あんな小言を言うためだけとは思えない。
もしあの時、おまわりさんが通りかからなかったら…。
そこまで考えて、意味もなくぞっとなった。
ー今夜、犯すー
あのメモの内容を、思い出したのである。
宇津木涼の言葉が正しいとすると、きのう、もうひとりの誰かが、杏里を犯そうとしていたことになるのだ。
現に、きのう宇津木はずっとマンションに居て、杏里の帰宅を待ち伏せていたのだから、彼が杏里のポケットにあのメモを入れるのは不可能だ。
だとしたら…。
「まさかね」
机の上に頬杖を突き、シャーペンを指で高速回転させながら杏里はつぶやいた。
「いくらなんでも、それはないよね。先生、女なんだしさ」
と、そのつぶやきをかき消すように、チャイムが鳴り始めた。
これできょう一日は終わりである。
でも、と杏里は思う。
私の本当の一日は、これから始まるのだ…。
「待ってようか」
心配そうに声をかけてきた美和に、
「ううん。大丈夫。いつまでかかるかわかんないから、先に帰ってて」
杏里は、何でもないように笑って答えた。
「せっかく杏里と一緒に、部活見て回ろうと思ってたのに…」
美和は残念そうである。
「焦ることはないよ。部活は二週間以内に決めればいいんでしょ」
「それはそうだけど…」
未練げな美和の背中を押して教室を出ると、杏里は足早に職員室に向かった。
「失礼しまーす」
入り口でパンティが見えるほど深くお辞儀をすると、針のような無数の視線が返ってきた。
体育館の壇上でストリップを演じた、きのうのきょうである。
相手が杏里だと認識するや否や、教師たち全員に欲情のスイッチが入ったようだった。
校長をはじめとする全職員が、まるで視線だけで犯そうとするかのように、無遠慮に杏里の全身をねめ回す。
が、それも、職員室内に那智の声が響き渡るまでのことだった。
「こっちに来なさい。笹原さん」
悪戯を見つかった子どものように、そそくさと手元の書類に目を戻す教師たち。
声のしたほうに行くと、那智が奥の別室のドアの前で、腕組みしてこっちを睨んでいた。
警察の尋問部屋みたい。
部屋の中に通された杏里の第一印象は、それだった。
教師と生徒の面談室なのだろうか。
窓のない狭い部屋である。
真ん中に低い長テーブルと二組のソファ。
それ以外には、何もない。
「相変わらず、ひどい格好ね」
ブレザーの間から飛び出したはち切れそうな胸、股下すれすれのマイクロミニ。
杏里はきょうも、きのうと同様、思いっきり挑発的なスタイルである。
「ったく、いやらしいったら、ありゃしない! そのスカート丈、校則違反だってこと、わかってるでしょ!」
杏里を立たせたまま、那智がなじり始めた。
こめかみに青筋を浮き上がらせ、唾を飛ばして怒鳴りつけてくる。
「知りません。生徒手帳なんて、読んでませんから。それに、私にはこの格好が一番似合うんです。自分に一番似合う恰好で学校に来るのが、そんなに悪いことなんですか?」
悪びれもせず、杏里は言い返した。
あんたなんて、人のスマホ盗んで、何か悪だくみしてたくせに。
その思いがあるだけに、いくら大声で怒鳴られても、相手の弱みを握っているようで、さほど怖くない。
「いやらしい服で男の眼を引くのが、そんなに楽しいの? あなたみたいなのがいるから、男たちはカン違いして、いつまでたってもセクハラや痴漢をやめようとしないのよ! いい? あなたはすべての女性の敵なの。馬鹿な男どもに与する汚らわしい娼婦なの!」
口角泡飛ばす熟女の剣幕に、杏里はただただ呆気にとられるだけだった。
この人、何か、男性にうらみでもあるのだろうか。
ふと、そう思った。
最近、離婚したばかりとか。
痴漢に遭ったとか。
「お言葉ですが、先生」
うんざりして、杏里は那智の長広舌を遮った。
「私には、男も女も関係ないんです。ただ、この素敵な躰を、みんなに称賛の眼で見てほしいだけ。あ、なんなら、ここで脱いでもいいんですよ?」
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