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第3話 ずっとあなたとしたかった
#42 一件落着
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みいの通報で警察がやってきて、宇津木涼は現行犯逮捕された。
紗彩が姿を見せたのは、近くの病院で検査を受け、警察の事情聴取から解放された直後のことである。
杏里は病院からマンションの自分の部屋に戻っていた。
検査といっても、鼻孔から催眠剤の痕跡が見つかっただけで、他は外傷も何もなかったのだ。
マンションの前に乗りつけてきた運転手付きのリムジンに警官たちは一様に色めき立ったものだが、後部座席から高価な和服に身を包んだ紗彩が現れると、とたんに静かになってしまったものだった。
「ごめんなさいね。ハナコさんのこと。ちっとも気づいてあげられなくって」
管理人室でふたりと向き合うと、済まなさそうな顔で紗彩は言った。
「年末にお会いした時には特におかしな点はなかったし、お孫さんが一緒に住んでくれることになったからって喜んでいらしたから、すっかり安心してたんだけど…。でもまさか、あの涼君が偽物だったなんて」
こめかみにかかるおくれ毛をしなやかな指でかき上げて、やるせないため息をつく紗彩。
杏里はそんな紗彩の横顔を穴があくほど見つめている。
紗彩は身震いが来そうなほど色っぽい。
本物の美人というのは、こういう人のことをいうのだろう。
そう、改めて思う。
しかも、彼女の場合、持っているのは美貌だけではない。
バックにあるとてつもない財力は別としても、頭の切れも相当なものだ。
いたずら心も旺盛で、昨年の夏のみちのくの旅では、さまざまな仕掛けに驚かされたものである。
「それで、どうするんですか? このマンション、管理人さんがいなくなっちゃいますけど…」
ひとしきり目の前の和風美女に見とれた後、やっと我に返って杏里はたずねた。
それが一番気になっている点だったのだ。
紗彩の一存で、ハナコばあさんは病院で検査を受けた後、施設に入所することになっている。
息子夫婦と連絡を取り合った結果、その方向で話がまとまったのだという。
涼は逮捕されてしまったから、そうなるとここはもうもぬけのからだ。
「そうね。でも、そのことなら心配いらないわ」
杏里のほうに顔を向け、紗彩がやさしげに微笑んだ。
「このマンションは私が買い取ります。新しい管理人さんを雇って、セキュリティも今よりずっと強化しようと思ってます。だから、杏里ちゃんも、まだここに住む気があるのなら、安心して」
「ありがとうございます」
杏里はぺこりと頭を下げた。
嫌なことが色々あった部屋だけど、立地も内装も結構気に入っているのだ。
インテリアも自分で全部考えたし、第一、また引っ越しするなんて、想像しただけでうんざりだ。
それに、紗彩が本格的にマンション経営を請け負ってくれるなら、こんなに心強いことはない。
「そう、よかった。こちらこそ、ありがとうを言いたいところよ。ハナコさんはね、私の母の古い知り合いなの。そのハナコさんのマンションを、見ず知らずの人に売り払うなんてできないし、ましてや取り壊しなんてもってのほかだもの」
「大丈夫です。私、ここ、すごく気に入ってますから。それに、みいもちょくちょく遊びに来てくれるって言ってるし」
杏里は隣のみいの手を取ってぎゅっと握りしめると、もう一度深々と頭を下げた。
事後処理が残っているという紗彩と別れ、自室に戻ると、杏里はみいを強く抱きしめた。
「ほんと、ありがとう! また助けてもらっちゃったね!」
くすぐったがるみいの顔に、キスの雨を降らす。
「でも…」
そう、みいが切り出したのは、長い口づけをお互い存分に堪能した後のことだった。
「本当にこれで終わったんでしょうか? みい、彼の最後のひと言が、どうにも気になってならないんですけど…。そうです。メモのことです。彼の仕業じゃないとすると、あのレイプ予告のメモは、誰が書いて、誰が入れたんでしょう?」
紗彩が姿を見せたのは、近くの病院で検査を受け、警察の事情聴取から解放された直後のことである。
杏里は病院からマンションの自分の部屋に戻っていた。
検査といっても、鼻孔から催眠剤の痕跡が見つかっただけで、他は外傷も何もなかったのだ。
マンションの前に乗りつけてきた運転手付きのリムジンに警官たちは一様に色めき立ったものだが、後部座席から高価な和服に身を包んだ紗彩が現れると、とたんに静かになってしまったものだった。
「ごめんなさいね。ハナコさんのこと。ちっとも気づいてあげられなくって」
管理人室でふたりと向き合うと、済まなさそうな顔で紗彩は言った。
「年末にお会いした時には特におかしな点はなかったし、お孫さんが一緒に住んでくれることになったからって喜んでいらしたから、すっかり安心してたんだけど…。でもまさか、あの涼君が偽物だったなんて」
こめかみにかかるおくれ毛をしなやかな指でかき上げて、やるせないため息をつく紗彩。
杏里はそんな紗彩の横顔を穴があくほど見つめている。
紗彩は身震いが来そうなほど色っぽい。
本物の美人というのは、こういう人のことをいうのだろう。
そう、改めて思う。
しかも、彼女の場合、持っているのは美貌だけではない。
バックにあるとてつもない財力は別としても、頭の切れも相当なものだ。
いたずら心も旺盛で、昨年の夏のみちのくの旅では、さまざまな仕掛けに驚かされたものである。
「それで、どうするんですか? このマンション、管理人さんがいなくなっちゃいますけど…」
ひとしきり目の前の和風美女に見とれた後、やっと我に返って杏里はたずねた。
それが一番気になっている点だったのだ。
紗彩の一存で、ハナコばあさんは病院で検査を受けた後、施設に入所することになっている。
息子夫婦と連絡を取り合った結果、その方向で話がまとまったのだという。
涼は逮捕されてしまったから、そうなるとここはもうもぬけのからだ。
「そうね。でも、そのことなら心配いらないわ」
杏里のほうに顔を向け、紗彩がやさしげに微笑んだ。
「このマンションは私が買い取ります。新しい管理人さんを雇って、セキュリティも今よりずっと強化しようと思ってます。だから、杏里ちゃんも、まだここに住む気があるのなら、安心して」
「ありがとうございます」
杏里はぺこりと頭を下げた。
嫌なことが色々あった部屋だけど、立地も内装も結構気に入っているのだ。
インテリアも自分で全部考えたし、第一、また引っ越しするなんて、想像しただけでうんざりだ。
それに、紗彩が本格的にマンション経営を請け負ってくれるなら、こんなに心強いことはない。
「そう、よかった。こちらこそ、ありがとうを言いたいところよ。ハナコさんはね、私の母の古い知り合いなの。そのハナコさんのマンションを、見ず知らずの人に売り払うなんてできないし、ましてや取り壊しなんてもってのほかだもの」
「大丈夫です。私、ここ、すごく気に入ってますから。それに、みいもちょくちょく遊びに来てくれるって言ってるし」
杏里は隣のみいの手を取ってぎゅっと握りしめると、もう一度深々と頭を下げた。
事後処理が残っているという紗彩と別れ、自室に戻ると、杏里はみいを強く抱きしめた。
「ほんと、ありがとう! また助けてもらっちゃったね!」
くすぐったがるみいの顔に、キスの雨を降らす。
「でも…」
そう、みいが切り出したのは、長い口づけをお互い存分に堪能した後のことだった。
「本当にこれで終わったんでしょうか? みい、彼の最後のひと言が、どうにも気になってならないんですけど…。そうです。メモのことです。彼の仕業じゃないとすると、あのレイプ予告のメモは、誰が書いて、誰が入れたんでしょう?」
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