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第2話 レズふたり旅

#118 ビッチ探偵杏里⑯

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 はたから見たら、こんな珍妙な光景もなかっただろう。

 10畳ほどの和室に集まった全員が、全裸なのである。

 3人の容疑者も全裸なら、探偵とその相棒も全裸。

 古今東西のどんなミステリ小説にも出てこなかった、珍場面である。

「なんだい? その、犯人の性向って? まさかセックスの性交じゃないよね?」

 太短いフランクフルトそっくりの肉棒をおっ立てた、アフロ清がたずねた。

「違います。ほんと、あなたたちは、そろいもそろっていやらしいんだから!」

 そう言う杏里も、今は惜しげもなく爆乳をさらけ出し、乳首をツンツンさせたまま、3人を睥睨している。

「まず、ヒントです。みなさん、源太さんの死体を見た時、まず何が目に入りましたか?」

「何がって、やっぱりあれかな。源太のやつ、毛深かったから」

「陰毛だよね。マングローブ林並みに生い茂ってたよ」

「…」

 容疑者たちが、口々に言う。

 もっとも、3人目の篠田は、勃起ペニスを弄りながら、無言でみいの裸身をねめ回しているだけだけれど。

「そうです。毛です。他には?」

 爆乳を押し上げるように腕を組み、杏里は言った。

「下半身裸だから、どうしてもそっちに目が行くよね。となると、チンポか」

 麗奈が冷ややかに答えた。

「すっかり縮んじゃってたから、あれはペニスとか男根なんてものじゃなかったね。ただのチンポだよ」

「ひでえなあ」

 清が苦笑いする。

 そこに、杏里の声が飛んだ。

「そうです。まさに、その通り。それこそが、ダイイングメッセージの示すもの」

「毛とチンポ? 何ですか? それ?」

 みいが胸と股間を手で隠しながら、訊いてきた。

 その格好、みいったら、まるで『ビーナスの誕生』だよ。

 ともあれ、そろそろである。

 あまりもったいをつけると、後の反動がこわい。

「男性器には、さまざまな呼び方があります。特に幼児語では、チンポ、チンポコ、チンボという具合に」

 杏里は立て板に水の勢いだ。

 勉強は苦手だが、下ネタには強いからである。

「これには地域性がありまして、フォッサマグナを境に、東日本では『チンポ』、西日本では『チンボ』が多いようです。つまり、語尾が東は『ポ』と半濁音になり、西では『ボ』と濁音になるというわけです」

「杏里ちゃん、松本清張ですか、それ。ちょっと、どことなく『砂の器』っぽくって、かっこいいね」

 清が茶々を入れてきた。

「そして、源太さんですが、私、気づいたんです。彼のイントネーションに、どことなく名古屋弁のアクセントが時折混じってたことに」

「まあ、源太は、中学校までは名古屋だって言ってたからね。仙台に来たのは高校からだよ。で、それが何か?」

 と、これは麗奈。

「わかりませんか? つまり、源太さんが男性器を表現するなら、『チンポ』ではなく、『チンボ』だったはず。さあ、それを、『毛』とつないでみると…?」

「わかりました!」

 瞳をきらめかせて元気よく挙手したのは、みいである。

「はい、じゃ、みいちゃん。どうぞ」

 指名すると、みいが叫んだ。

「『毛』プラス『チンボ』で、”けちんぼ”です!」

「けちんぼ…?」

 清があんぐりと口を開けた。

 とたんに、しーんと静まり返る部屋の中。

 窓の外で鳴くカジカの声が、急に耳についてきた。

「どうしたんですか? すごい名推理だったでしょ?」

 突き刺さってくる冷たい視線に耐え切れず、杏里は訊いた。

 そうして、頭の隅でちらっと、やっぱり言わなければよかったかな、と後悔した。


 


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