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第2話 レズふたり旅
#85 嵐の山荘⑮
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山荘に辿り着いた頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。
丈高い生垣を入ると、ひなびた2階建ての建物が目の前に現れた。
ふるさと館で見た曲がり家ほどではないにせよ、ずいぶんとまた年季の入った民宿である。
でも、その分、窓から漏れる黄色い明かりは暖かそうで、杏里の胸にそこはかとなく郷愁を抱かせた。
「おやおや、みなさんおそろいで」
三和木に立って清が声をかけると、和服姿の老婆がふたり、ちょこまかと姿を現した。
「梅さん竹さん、新しいお客さんも連れてきたよ。ほら、こちら、杏里ちゃんとみいちゃん」
「はいはい、紗彩さまからうかがっておりますよ。まあまあ、可愛い娘さんたちだこと。こんな田舎にようこそ」
このおばあさんたち、双子なんだ。
杏里は目を丸くした。
着ているものも顔立ちもそっくり。
これじゃ、区別がつかないよ。
「1階はお風呂と食堂。客室は2階なんだ。男3人でひと部屋、麗奈ちゃんがひと部屋使ってる。君たちはふたり一緒がいいのかな」
「はい。私たち、レズカップルですから」
杏里が言うと、
「杏里さま!」
みいが肘でつついてきた。
「はは、もう役になり切ってるんだね。いい心がけだ」
清が笑うと、
「役? 本当にそうかしら?」
意味ありげに麗奈が茶々を入れてきた。
「さっきはずいぶん、いい雰囲気だったじゃない」
さすが、大人の女は鋭いわね。
杏里はひそかに舌を巻いた。
1階は仕切りのない広い部屋になっていて、中央に囲炉裏が切ってある。
どうやらそこが、食堂ということらしい。
奥にのれんが見えているのが、お風呂ということか。
「お湯はかけ流しの本物の温泉ですから、24時間入れますよ。お夕食の前に、汗を流されたらいかがです?」
老婆のひとりがにこやかに説明してくれるけど、それが梅さんなのか竹さんなのか、もうわからない。
「ありがとうございます。お部屋で着替えたら、また来ます」
一礼すると、杏里はみいの手を取って、清たちに続き、2階への階段を上った。
「奥が空いてるから、ふたりの部屋はそこだね。隣は麗奈ちゃんだから、夜這いの心配はないよ」
清が笑顔で説明する。
「わかんないわよ。あたし、バイセクシャルだし」
にたりとほほ笑む麗奈。
「わ、そうなんですか」
ひとしきり笑い合った後、部屋に入った。
畳敷きの8畳ほどの和室である。
正面がベランダで、右手が押し入れ。
トイレと洗面所は、入口の脇にある。
調度類といえば、ちゃぶ台がひとつと座椅子が2脚。
和室だけれども、なぜか壁際にはセミダブルのベッドが置かれている。
それ以外は、テレビもラジオもない。
「疲れたね」
座椅子に背を持たせかけ、無造作に脚を投げ出すと。杏里は言った。
「杏里さまが、変な映画の撮影、OKするからですよ」
甲斐甲斐しくふたり分の湯飲みにお茶を淹れながら、みいが答えた。
みいはまだメイド服姿である。
頭につけたピンクの大きなリボン。
折れそうなほど細い首にはまった赤い首輪。
コルセットで腰をしぼった短い上着と、超ミニのフレアスカートが、よく似合っている。
「だって、面白そうだったんだもん。それに、クライマックスがみいとのラブシーンだっていうし」
「んもう、杏里さまってば、ほんとにエッチなんだから」
「あ、ちょっと練習してみる? さっきの続き。もち、ベッドシーンでもいいよ」
「いやです。それに、杏里さま、河童に色々されて、悦んでたくせに。みいにはわかるんですよ、そういうの」
みいがとがめるような視線を杏里に向けた。
「あら? みいったら、もしかして、妬いてる?」
顔をのぞき込むと、赤くなった。
きゃはっ。
やっぱ、妬いてるんだわ。この子。
んもう、ほんと、可愛いんだから!
杏里はうれしくなる。
「違います、みいは、あの人には気をつけたほうがいいって、言いたいだけです。あの河童の中の人、かなりのプレイボーイみたいですから」
分と頬を膨ら眼せて、可愛らしくみいが抗議する。
「河童の中の人って、源太さん?」
「はい」
「みいこそ、あの篠田って人、気をつけなよ。あの人、みいばかり撮ってたし、トイレで盗撮されるかもだよ」
「まさか。杏里さまと違って、みいにはそんな魅力、ないですから」
「大ありなんだって。特にロリコンのオタクには」
「みいは、ロリコン向きなんですか? そんなあ」
などと言い合っている時だった。
襖を叩く軽いノックの音がして、麗奈のよく通る声が響いてきた。
「ねえ、おふたりさん。一緒にお風呂、入らない?」
丈高い生垣を入ると、ひなびた2階建ての建物が目の前に現れた。
ふるさと館で見た曲がり家ほどではないにせよ、ずいぶんとまた年季の入った民宿である。
でも、その分、窓から漏れる黄色い明かりは暖かそうで、杏里の胸にそこはかとなく郷愁を抱かせた。
「おやおや、みなさんおそろいで」
三和木に立って清が声をかけると、和服姿の老婆がふたり、ちょこまかと姿を現した。
「梅さん竹さん、新しいお客さんも連れてきたよ。ほら、こちら、杏里ちゃんとみいちゃん」
「はいはい、紗彩さまからうかがっておりますよ。まあまあ、可愛い娘さんたちだこと。こんな田舎にようこそ」
このおばあさんたち、双子なんだ。
杏里は目を丸くした。
着ているものも顔立ちもそっくり。
これじゃ、区別がつかないよ。
「1階はお風呂と食堂。客室は2階なんだ。男3人でひと部屋、麗奈ちゃんがひと部屋使ってる。君たちはふたり一緒がいいのかな」
「はい。私たち、レズカップルですから」
杏里が言うと、
「杏里さま!」
みいが肘でつついてきた。
「はは、もう役になり切ってるんだね。いい心がけだ」
清が笑うと、
「役? 本当にそうかしら?」
意味ありげに麗奈が茶々を入れてきた。
「さっきはずいぶん、いい雰囲気だったじゃない」
さすが、大人の女は鋭いわね。
杏里はひそかに舌を巻いた。
1階は仕切りのない広い部屋になっていて、中央に囲炉裏が切ってある。
どうやらそこが、食堂ということらしい。
奥にのれんが見えているのが、お風呂ということか。
「お湯はかけ流しの本物の温泉ですから、24時間入れますよ。お夕食の前に、汗を流されたらいかがです?」
老婆のひとりがにこやかに説明してくれるけど、それが梅さんなのか竹さんなのか、もうわからない。
「ありがとうございます。お部屋で着替えたら、また来ます」
一礼すると、杏里はみいの手を取って、清たちに続き、2階への階段を上った。
「奥が空いてるから、ふたりの部屋はそこだね。隣は麗奈ちゃんだから、夜這いの心配はないよ」
清が笑顔で説明する。
「わかんないわよ。あたし、バイセクシャルだし」
にたりとほほ笑む麗奈。
「わ、そうなんですか」
ひとしきり笑い合った後、部屋に入った。
畳敷きの8畳ほどの和室である。
正面がベランダで、右手が押し入れ。
トイレと洗面所は、入口の脇にある。
調度類といえば、ちゃぶ台がひとつと座椅子が2脚。
和室だけれども、なぜか壁際にはセミダブルのベッドが置かれている。
それ以外は、テレビもラジオもない。
「疲れたね」
座椅子に背を持たせかけ、無造作に脚を投げ出すと。杏里は言った。
「杏里さまが、変な映画の撮影、OKするからですよ」
甲斐甲斐しくふたり分の湯飲みにお茶を淹れながら、みいが答えた。
みいはまだメイド服姿である。
頭につけたピンクの大きなリボン。
折れそうなほど細い首にはまった赤い首輪。
コルセットで腰をしぼった短い上着と、超ミニのフレアスカートが、よく似合っている。
「だって、面白そうだったんだもん。それに、クライマックスがみいとのラブシーンだっていうし」
「んもう、杏里さまってば、ほんとにエッチなんだから」
「あ、ちょっと練習してみる? さっきの続き。もち、ベッドシーンでもいいよ」
「いやです。それに、杏里さま、河童に色々されて、悦んでたくせに。みいにはわかるんですよ、そういうの」
みいがとがめるような視線を杏里に向けた。
「あら? みいったら、もしかして、妬いてる?」
顔をのぞき込むと、赤くなった。
きゃはっ。
やっぱ、妬いてるんだわ。この子。
んもう、ほんと、可愛いんだから!
杏里はうれしくなる。
「違います、みいは、あの人には気をつけたほうがいいって、言いたいだけです。あの河童の中の人、かなりのプレイボーイみたいですから」
分と頬を膨ら眼せて、可愛らしくみいが抗議する。
「河童の中の人って、源太さん?」
「はい」
「みいこそ、あの篠田って人、気をつけなよ。あの人、みいばかり撮ってたし、トイレで盗撮されるかもだよ」
「まさか。杏里さまと違って、みいにはそんな魅力、ないですから」
「大ありなんだって。特にロリコンのオタクには」
「みいは、ロリコン向きなんですか? そんなあ」
などと言い合っている時だった。
襖を叩く軽いノックの音がして、麗奈のよく通る声が響いてきた。
「ねえ、おふたりさん。一緒にお風呂、入らない?」
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