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第2話 レズふたり旅

#77 嵐の山荘⑦

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 岩陰で杏里とみいが着替えを終えると、6人は近くの無料駐車場に向かった。

 アフロ清の愛車は黒のワンボックスカーで、座席が3列もあった。

 さすがFラン私大に通いながら、映画を撮っているだけのことはある。

 きっとおうちはお金持ちなんだろう。

 最後列にみいと一緒に腰かけながら、杏里はそんなことを思った。

 助手席にカメラマンの篠田、真ん中の列に源太と麗奈が乗り込むと、清が運転席に座り、車をスタートさせた。

「ここからなら、まず伝承園に寄り、そこから駅のほうに戻って、『とおの物語の館』コースかな」

「俺たちみんな、住んでるのは仙台なんだけど、遠野には去年も合宿で来たんでね、多少の土地勘はあるんだよ」

 清の台詞に続き、シートにふんぞり返って源太が言うと、

「わあ、いいな。私、『遠野物語』読んで以来、遠野のファンなんですよ。遠野って、ジブリの映画にもその影響がみられますよね」

 さっそくみいが身を乗り出して、そんなことを口にした。

「へえ、よく知ってるわね。確かに、『千と千尋』なんかはそうかもね」

 源太の隣で、大胆に足を組んだ麗奈が相づちを打つ。

 会話についていけず、杏里はちょっと取り残された気分になった。

 みいったら、何よ。

 なんでペットのくせに、そんな難しい本読んでるわけ?

 一応、現役の中学生は私のほうなんだけどな。

 そこまで考えたところで、でも、と思い直す。

 やっぱり、みいをペット扱いするのは間違っているのだろう。
 
 あの紗彩のことだ。

 どこに出しても恥ずかしくないよう、みいにはそこそこの教養を授けているに違いない。

 もっとも、今のみいは忘れてしまっているものの、エッチな技もけっこう仕込まれてたみたいだったけど。

「これから行く『伝承園』には、『オシラ堂』ってのがあってね、ここにはオシラサマって神様が1000体も祀られてるんだ。みいちゃんなら、きっと気に入ると思うな」

「オシラサマなら知ってます。蚕の神様ですよね」

「だね。ほかにもいろいろ説はあるけど。家の神、農業の神、馬の神、豊穣の神とか」

 ハンドルを握るアフロ清が嬉しそうに話に乗ってくる。

「あたし的には、オシラサマといえば、半村良の伝奇SFに出てきた予知能力のある地母神、ってイメージなんだけどな。オシラ堂のもいいけれど、どっちかというとあれは絵馬に近いよね」

 脚本担当にふさわしく、麗奈がまた杏里の知らない作家の名前を出す。

「半村良といえば、『産霊山秘録』か。いや、さすが麗奈ちゃんはしぶいね。でも、それもありだと思う。オシラサマが予知するって話は、どこかで聞いたことがあるもの」

 河童淵から伝承園はびっくりするほど近く、わずか1分ほどで着いてしまった。

 本来なら、徒歩でも行ける距離である。

 駐車場でぞろぞろ車を降りた。

 と、ふと思い出したように、麗奈が後から降りてきた源太を振り返った。

「あ、ところで源太、煙草持ってる?」

「ちぇ、またかよ。麗奈はいつもそうだ」

 顔をしかめながらも、ジーンズの尻ポケットから源太が煙草のパッケージをつかみ出す。

「固いこと言わないの。中は禁煙だから、ここで一服させてよね。あ、みんなは先に行っててくれる?」

 超ミニのボディコンワンピースでダイナマイトボディを包んだ麗奈は、煙草をくわえてもサマになる。

「じゃ、俺も」
 
 源太の言葉に、杏里たちはふたりを置いて先に園内に入ることにした。

 特に会話を交わすわけでもなく、思い思いに車にもたれて煙草をふかす源太と麗奈。

 何か、ひっかかる。

 みいと手をつないで歩きながら、杏里はさっきから感じている違和感の正体を探ろうとした。

 別に大したことじゃない気がするんだけど、この人たち、何かひっかかるんだよねえ。

 そんな思いに囚われていると、ふいにみいの手に力がこもった。

「わあ、素敵ですう! 杏里さま、見てください!」





 

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