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#72 接触⑥

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「合言葉?」

 私は首をかしげた。

「”あめゆき”」

 リリスが言った。

「合言葉は、”あめゆき”です」

「あめゆき…」

 その時、なにかが私の意識の隅にひっかかった。

 ん?

 なんだろう?

 この言葉、最近どこかで聞くか、読んだような気がするのだけれど…?

「とにかく、だまされたと思って、そう言ってごらんなさい。きっとうまくいくはずです」

 しかたない。

 ほかになんのアイデアも思いつかないので、私はもう一度、受付の老人の所へ向かうことにした。

 まだ何か?

 不機嫌そうに、睨まれた。

「”あめゆき”」

 蚊の鳴くような声で、私は言った。

 と、変化が起こった。

 老人の眉が、両側にかすかに吊り上がったのだ。

「こちらに」

 老人が身体を横にずらし、隙間をつくった。

 受付の中に入れということのようだ。

「あなたのおたずねの人物は、こちらにおいでです」

 慇懃なしぐさで頭を下げ、私を招き入れるように、老人が言った。



 
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