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花街の花
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普段の朝が戻ってきた。今までとは、少し違う普段の朝だ。
日課の鍛錬にノルファが加わり、楽しく幸せな気持ちで1日が始まる。これから毎日、この朝が日常になるのだ。
「なに、なに~?朝から一緒にご出勤ですか~?」
魔導師団の扉を開けると、ニヤニヤしながらトゥルーカが駆け寄ってきた。
いつも通り、抱きつこうとしてきたので、避けようとするとスッと横から腕が伸びてきた。
「「え……」」
トゥルーカと同時に声が出ていた。隣にいたノルファの手が、トゥルーカの頭をガッシリと掴んでいたからだ。
「…俺のマルスに抱きつこうとするとは、いい度胸だな」
「うおおおおっ!やばいっ、やばいですって!第二副団長!頭が~っ!」
慌てふためくトゥルーカの頭に興味はないが、放っておいたら潰されてしまいそうだ。
「ノルファ、離してあげてください。これは、トゥルーカなりのスキンシップだと思いますから」
「だからと言って、俺の目の前でマルスが、男に抱きつかれるのは許されない」
「いやいや、弟に挨拶のハグをするだけですって~。第二副団長、心が狭いですよ~」
「…そうだな、俺は自分が思うより心が狭いらしい。今すぐ潰してしまいそうだ」
ミシッと音が鳴った気がした。
「うぎゃああ、死ぬ~っ!!助けて、マルス!!」
「ふふっ」
二人の何気ないやり取りが、嬉しくてマルスは思わず笑ってしまった。そして、マルスが笑ったことにより、魔導師団に騒めきが起こった。
「え?マルスが笑った!?」
「マルスも笑うのか?」
「何?マルスが笑ったって?俺も見たい」
みんなの注目を集めてしまったマルスは、ついでとばかりに自分の想いを告げた。
「俺は、仲間であり、家族でもある魔導師団が大好きです」
すると周りにいた魔導師達が、次から次へと集まってきてマルスに抱きついてきた。部屋の奥にいた人達も騒ぎを聞きつけ、群がってくる。
「アレはいいんですか~?」
「マルスの家族なら、許すしかないだろう」
「…第二副団長、これからも魔導師団の大切なマルスをよろしくお願いします」
「ああ…」
やっと頭を離されたトゥルーカが、ニヤニヤしながら第二副団長の脇を小突いた。
「泣かせたら、魔導師団総出で相手になりますからね~」
「肝に銘じよう…ベルベサリット団長を相手にしたくないしな」
ノルファは腕組みをしながら、ギュウギュウに抱きつかれながらも嬉しそうなマルスの姿をしばらく眺め続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二人は再び、花街へと来ていた。不定期に行われる骨董市を見に来たのだ。
「まさか、ノルファが骨董に興味があるとは…」
「たまに掘り出し物の剣が出回るんだ。刃こぼれしない長剣を探している」
「刃こぼれしない短剣があったら、俺も欲しいです」
行き交う人々とすれ違いながら、二人は街中を歩いて行く。手は離れないように、絡み合うように繋がれている。
「そういえば、ノルファに会えなかった時に騎士団の訓練場へ行きました…あの、壁際で親しそうに話していた方は誰ですか?」
「親しそうに?」
「名前で呼んでました」
「…ああ、セフィー隊長か。俺の補佐をしてくれている」
「そうですか…」
親しそうに話していた二人を思い出し、声が小さくなってしまった。
「マルス」
呼ばれて見上げるとノルファが口づけをしてきた。離れる際にベロリと唇を舐められ、黒い瞳と視線が絡んだ。
「理性を保つ方法が、だんだん分からなくなってきたな…」
「はい?」
いつのまにか、人気のない場所に来ており、背中に壁が当たった。ノルファが腰を引き寄せ、肩に頭を乗せてきたのでマルスは頭を撫でてやった。
「…以前、リオーラ様にやった赤い花は返してもらった」
「そうですか」
「俺がもらってもいいだろうか?」
「はい。なんならちゃんとした赤い花を買って、お渡ししますけど?」
突然、ノルファが顔をあげ、ズボンから小さな箱を取り出した。
「これをお前に…」
箱を渡され、中を確認するように促された。箱を開けるとキラキラと光る一輪の赤い花が収まっていた。
「…ガラスの赤い花?なんか、光ってますけど」
「俺の魔力と繋げてあるからだ。それは、俺が死ぬまで光り続ける…そうなるように魔法を掛けてもらった」
ノルファの言葉を聞いて、マルスは思わず、小さい箱を落としそうになった。
(このガラスの花だって、決して安くない。それなのに、さらに魔力を繋げる魔法を掛けてもらった?かなりの高等技術だぞ!?これだけで家が買えるんじゃないのか!?)
「あ、あの、怖いのでいらないです」
「受け取らなかったら…三日は足腰たたなくなると思え」
「……もっと軽い気持ちで貰えるモノ下さいよ」
「それは特別だ」
腰に回されていた手にグッと力が入り、先ほどよりもノルファと距離が近くなった。黒い瞳が情熱的で美しい…
「永遠に身も心も全てをマルスに捧げる。だから、お前をくれるか?マルス=トルマトン」
(だからガラスの赤い花なのか… )
枯れない永遠の赤い花。
花街で赤い花を渡す意味。
マルスはノルファの首に手を回し、答えの代わりに口づけを返した。
【完】
日課の鍛錬にノルファが加わり、楽しく幸せな気持ちで1日が始まる。これから毎日、この朝が日常になるのだ。
「なに、なに~?朝から一緒にご出勤ですか~?」
魔導師団の扉を開けると、ニヤニヤしながらトゥルーカが駆け寄ってきた。
いつも通り、抱きつこうとしてきたので、避けようとするとスッと横から腕が伸びてきた。
「「え……」」
トゥルーカと同時に声が出ていた。隣にいたノルファの手が、トゥルーカの頭をガッシリと掴んでいたからだ。
「…俺のマルスに抱きつこうとするとは、いい度胸だな」
「うおおおおっ!やばいっ、やばいですって!第二副団長!頭が~っ!」
慌てふためくトゥルーカの頭に興味はないが、放っておいたら潰されてしまいそうだ。
「ノルファ、離してあげてください。これは、トゥルーカなりのスキンシップだと思いますから」
「だからと言って、俺の目の前でマルスが、男に抱きつかれるのは許されない」
「いやいや、弟に挨拶のハグをするだけですって~。第二副団長、心が狭いですよ~」
「…そうだな、俺は自分が思うより心が狭いらしい。今すぐ潰してしまいそうだ」
ミシッと音が鳴った気がした。
「うぎゃああ、死ぬ~っ!!助けて、マルス!!」
「ふふっ」
二人の何気ないやり取りが、嬉しくてマルスは思わず笑ってしまった。そして、マルスが笑ったことにより、魔導師団に騒めきが起こった。
「え?マルスが笑った!?」
「マルスも笑うのか?」
「何?マルスが笑ったって?俺も見たい」
みんなの注目を集めてしまったマルスは、ついでとばかりに自分の想いを告げた。
「俺は、仲間であり、家族でもある魔導師団が大好きです」
すると周りにいた魔導師達が、次から次へと集まってきてマルスに抱きついてきた。部屋の奥にいた人達も騒ぎを聞きつけ、群がってくる。
「アレはいいんですか~?」
「マルスの家族なら、許すしかないだろう」
「…第二副団長、これからも魔導師団の大切なマルスをよろしくお願いします」
「ああ…」
やっと頭を離されたトゥルーカが、ニヤニヤしながら第二副団長の脇を小突いた。
「泣かせたら、魔導師団総出で相手になりますからね~」
「肝に銘じよう…ベルベサリット団長を相手にしたくないしな」
ノルファは腕組みをしながら、ギュウギュウに抱きつかれながらも嬉しそうなマルスの姿をしばらく眺め続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二人は再び、花街へと来ていた。不定期に行われる骨董市を見に来たのだ。
「まさか、ノルファが骨董に興味があるとは…」
「たまに掘り出し物の剣が出回るんだ。刃こぼれしない長剣を探している」
「刃こぼれしない短剣があったら、俺も欲しいです」
行き交う人々とすれ違いながら、二人は街中を歩いて行く。手は離れないように、絡み合うように繋がれている。
「そういえば、ノルファに会えなかった時に騎士団の訓練場へ行きました…あの、壁際で親しそうに話していた方は誰ですか?」
「親しそうに?」
「名前で呼んでました」
「…ああ、セフィー隊長か。俺の補佐をしてくれている」
「そうですか…」
親しそうに話していた二人を思い出し、声が小さくなってしまった。
「マルス」
呼ばれて見上げるとノルファが口づけをしてきた。離れる際にベロリと唇を舐められ、黒い瞳と視線が絡んだ。
「理性を保つ方法が、だんだん分からなくなってきたな…」
「はい?」
いつのまにか、人気のない場所に来ており、背中に壁が当たった。ノルファが腰を引き寄せ、肩に頭を乗せてきたのでマルスは頭を撫でてやった。
「…以前、リオーラ様にやった赤い花は返してもらった」
「そうですか」
「俺がもらってもいいだろうか?」
「はい。なんならちゃんとした赤い花を買って、お渡ししますけど?」
突然、ノルファが顔をあげ、ズボンから小さな箱を取り出した。
「これをお前に…」
箱を渡され、中を確認するように促された。箱を開けるとキラキラと光る一輪の赤い花が収まっていた。
「…ガラスの赤い花?なんか、光ってますけど」
「俺の魔力と繋げてあるからだ。それは、俺が死ぬまで光り続ける…そうなるように魔法を掛けてもらった」
ノルファの言葉を聞いて、マルスは思わず、小さい箱を落としそうになった。
(このガラスの花だって、決して安くない。それなのに、さらに魔力を繋げる魔法を掛けてもらった?かなりの高等技術だぞ!?これだけで家が買えるんじゃないのか!?)
「あ、あの、怖いのでいらないです」
「受け取らなかったら…三日は足腰たたなくなると思え」
「……もっと軽い気持ちで貰えるモノ下さいよ」
「それは特別だ」
腰に回されていた手にグッと力が入り、先ほどよりもノルファと距離が近くなった。黒い瞳が情熱的で美しい…
「永遠に身も心も全てをマルスに捧げる。だから、お前をくれるか?マルス=トルマトン」
(だからガラスの赤い花なのか… )
枯れない永遠の赤い花。
花街で赤い花を渡す意味。
マルスはノルファの首に手を回し、答えの代わりに口づけを返した。
【完】
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