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大きくなる不安
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王宮の図書室には貴重な書物が沢山あり、私は自由に出入りすることを許されていた。
これは私にとってとても幸せなことで、一日中この中で過ごしても良いくらいに思えていた。
「ほら、イザベラ。これだ」
他国から取り寄せた厚い医学書は、とても難しそうで、だからこそ私はまた集中できそうだ‥‥
ははははっ
「イザベラは本当に素直だな。その嬉しそうな顔は誰にも見せたくないな」
「だから、そうやってからかうのはやめてちょうだい!ただの本好きな変わり者でしょ」
ははははっ
ハーラルはいつも私を喜ばせようとしてくれる。
私を大切に思ってくれていることは、言葉でも態度でも感じている。
けれど、私はやっぱり可愛げのないことしか言えなかった‥
だって私の父親はあんな人で‥‥何度も浮気を繰り返しては母を苦しめていた。
そんな人を幼い頃から見てきた私にとって、ハーラルの優しさがいつまで続くのか不安に思ってしまうのだ。
私よりも頭の良い人がいたなら、そちらに興味を持つだろう‥
嘘つきでも演技でもなく、本当に可愛い愛想の良い子がいたなら、その人を守ってあげたくなるだろう‥
心のどこかで、このアイスブルーの瞳がいつかは別の人を映すのではないかと‥‥思うのだ。
「どうした?イザベラ?」
「‥‥何でもないわ‥本‥ありがとう」
ハーラルは心配そうに覗き込む。
時々急に不安になって泣きそうになってしまう‥
「すみません、イザベラ様?」
声を掛けられ、俯いていた顔を上げる。
そこには眼鏡をかけた図書室の管理をしているロイドさんがいた。
彼は私より五つ年上で、まだ若いのに本の知識が豊富でいつも驚かされるばかりだ。
「ロイドさん?何か?」
「先日、イザベラ様が探しておられた本を見つけましたが、どういたしましょうか?私なりに似たような種類も選んでみましたが、見られますか?」
「え?本当?探してくれたの?」
「はい。もちろんです」
「嬉しいわ。ありがとう!ハーラル、ちょっとごめんなさい。少し席を外しますね」
私はロイドさんが用意してくれた本を見せてもらうことにした。
何冊か本を選びハーラルの所に戻ると、
「彼は顔色が悪いな‥‥」
と言い出した。
「そう?別にいつもと変わらないけれど」
「いつも‥‥ね。俺から見ると熱がありそうに見えるな」
「え?熱?元気そうだけど‥」
「もしかしたら、もう流行り病に罹っているかもしれないな」
「そんな!」
「今日はもうここを出よう」
ハーラルはまた私の手を引き部屋を出た。
すると部屋の外には、一人の中年男性がちょうど部屋に入ろうとするところだった。
「殿下!今お迎えに参るところでした」
「サミュエル、どうした?」
その男性は私がハーラルと手を繋いでいる姿を見ると、ハハハッと少し笑って
「陛下がお話があると」
「そうか!わかった」
ハーラルは私の髪をすっと撫でると、側近のデヴィットを見て
「イザベラを送り届けてくれ。イザベラ、今日は用ができた。また明日会おう」
そう言い残すと去って行った。
私はデヴィットと共に馬車に向かうことになった。
「何か、ご心配事でもおありですか?」
「え?何故?」
「いえ。何だかそう見えてしまいました」
「‥‥」
絢爛豪華な宮殿。
この空間に居る自分がとても不釣合いに思える。
王太子妃などと‥‥不相応ではないだろうか‥‥
「環境が大きく変わられ、不安になられていますか?」
「ええ、そうね。とても不安だわ‥」
「少し中庭を歩きますか?」
「?‥‥ええ」
デヴィットの後ろを歩いて回廊から外へ出る。
中庭は今、何かを建造しているのか工事作業中のようで幕で取り囲まれていて、中の様子は見えない。
「何か大掛かりな工事ですね」
「はい。とても大事な作業でしたが、今はもう終わっております」
「⁈終わっているのですか?」
「ええ、まぁ。近いうちにお披露目できるかと思います」
「そうですか‥‥」
綺麗に敷き詰められた石畳を歩きながら、どれもが私には場違いな気がしていた。
「殿下はイザベラ様をとても大切に考えておられます。何も心配いらないと思いますよ」
「‥‥はい」
デヴィットはニコニコと「悩むことはないですよ」と、軽く言ってくれるが、日に日に不安や重圧を感じるようになってきていた。
「馬車の所へ参りましょう。私も流行り病に罹ると困りますからね」
「⁈‥ええ‥」
そんなに深刻な状況なのかしら‥‥。
これは私にとってとても幸せなことで、一日中この中で過ごしても良いくらいに思えていた。
「ほら、イザベラ。これだ」
他国から取り寄せた厚い医学書は、とても難しそうで、だからこそ私はまた集中できそうだ‥‥
ははははっ
「イザベラは本当に素直だな。その嬉しそうな顔は誰にも見せたくないな」
「だから、そうやってからかうのはやめてちょうだい!ただの本好きな変わり者でしょ」
ははははっ
ハーラルはいつも私を喜ばせようとしてくれる。
私を大切に思ってくれていることは、言葉でも態度でも感じている。
けれど、私はやっぱり可愛げのないことしか言えなかった‥
だって私の父親はあんな人で‥‥何度も浮気を繰り返しては母を苦しめていた。
そんな人を幼い頃から見てきた私にとって、ハーラルの優しさがいつまで続くのか不安に思ってしまうのだ。
私よりも頭の良い人がいたなら、そちらに興味を持つだろう‥
嘘つきでも演技でもなく、本当に可愛い愛想の良い子がいたなら、その人を守ってあげたくなるだろう‥
心のどこかで、このアイスブルーの瞳がいつかは別の人を映すのではないかと‥‥思うのだ。
「どうした?イザベラ?」
「‥‥何でもないわ‥本‥ありがとう」
ハーラルは心配そうに覗き込む。
時々急に不安になって泣きそうになってしまう‥
「すみません、イザベラ様?」
声を掛けられ、俯いていた顔を上げる。
そこには眼鏡をかけた図書室の管理をしているロイドさんがいた。
彼は私より五つ年上で、まだ若いのに本の知識が豊富でいつも驚かされるばかりだ。
「ロイドさん?何か?」
「先日、イザベラ様が探しておられた本を見つけましたが、どういたしましょうか?私なりに似たような種類も選んでみましたが、見られますか?」
「え?本当?探してくれたの?」
「はい。もちろんです」
「嬉しいわ。ありがとう!ハーラル、ちょっとごめんなさい。少し席を外しますね」
私はロイドさんが用意してくれた本を見せてもらうことにした。
何冊か本を選びハーラルの所に戻ると、
「彼は顔色が悪いな‥‥」
と言い出した。
「そう?別にいつもと変わらないけれど」
「いつも‥‥ね。俺から見ると熱がありそうに見えるな」
「え?熱?元気そうだけど‥」
「もしかしたら、もう流行り病に罹っているかもしれないな」
「そんな!」
「今日はもうここを出よう」
ハーラルはまた私の手を引き部屋を出た。
すると部屋の外には、一人の中年男性がちょうど部屋に入ろうとするところだった。
「殿下!今お迎えに参るところでした」
「サミュエル、どうした?」
その男性は私がハーラルと手を繋いでいる姿を見ると、ハハハッと少し笑って
「陛下がお話があると」
「そうか!わかった」
ハーラルは私の髪をすっと撫でると、側近のデヴィットを見て
「イザベラを送り届けてくれ。イザベラ、今日は用ができた。また明日会おう」
そう言い残すと去って行った。
私はデヴィットと共に馬車に向かうことになった。
「何か、ご心配事でもおありですか?」
「え?何故?」
「いえ。何だかそう見えてしまいました」
「‥‥」
絢爛豪華な宮殿。
この空間に居る自分がとても不釣合いに思える。
王太子妃などと‥‥不相応ではないだろうか‥‥
「環境が大きく変わられ、不安になられていますか?」
「ええ、そうね。とても不安だわ‥」
「少し中庭を歩きますか?」
「?‥‥ええ」
デヴィットの後ろを歩いて回廊から外へ出る。
中庭は今、何かを建造しているのか工事作業中のようで幕で取り囲まれていて、中の様子は見えない。
「何か大掛かりな工事ですね」
「はい。とても大事な作業でしたが、今はもう終わっております」
「⁈終わっているのですか?」
「ええ、まぁ。近いうちにお披露目できるかと思います」
「そうですか‥‥」
綺麗に敷き詰められた石畳を歩きながら、どれもが私には場違いな気がしていた。
「殿下はイザベラ様をとても大切に考えておられます。何も心配いらないと思いますよ」
「‥‥はい」
デヴィットはニコニコと「悩むことはないですよ」と、軽く言ってくれるが、日に日に不安や重圧を感じるようになってきていた。
「馬車の所へ参りましょう。私も流行り病に罹ると困りますからね」
「⁈‥ええ‥」
そんなに深刻な状況なのかしら‥‥。
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