上 下
8 / 20

カルロ•ハーラル•エドレッド1

しおりを挟む
王位第一継承者であるカルロ•ハーラル•エドレッド。
俺は次期国王である為、身の安全が最優先されてきた。
そのせいで、幼い頃から人前で顔を晒すことは禁じられてきた。
俺の顔が知れれば命を狙う者も現れる。
権力争いに利用される場合もある。
その為、この国の王子の顔は誰もが知らないままだった。

幼い頃から厳しい教育を受け、王宮ではそれぞれの専門分野の家庭教師がついて学んできた。
学園に通う歳になっても同級生と関わることは禁止されていた。
万が一にも王子だとバレたら、権力欲しさに近づいて来る者達がいるからだ。
子供は何も思わなくても、その後ろには親がいる。
父親も何度も命を狙われ危ない思いをしてきたらしい。
だからこそ、俺の環境には神経質になっていた。

遊び相手に困っていたわけではない。
父の側近や護衛の息子が俺の側近や侍従となり、話し相手で遊び相手だった。

学園には王族が使用する為に、南の棟が用意されている。
他の生徒に会うことなく授業を受け卒業資格は取れる。
試験は同じものを受けていた。
俺はもちろん、学年一位だ。

だが毎回俺の点数にあと一点二点と追いつきそうな者がいた。
初めは気にならなかったが、三位を大きく引き離して一位と二位は拮抗している。

名前はイザベラ•ボルヴァンド。
女性だった。
もちろん会ったことも無い。
だが気になって調べさせた。

堅苦しく気難しいタイプの女性だろう‥
そう思っていた。
けれど、品の良い美人で教師からの評判も良いと報告を受けた。
色白で髪は腰まで長い黒髪で、目は珍しいアンバーだと。

でも、まぁ‥会うことはないだろう‥
そう思っていた。

ある日、試験を終えた後、女性教師に聞いてみた。

「いつも二位を取る女性はどのような人ですか?」

「ああ、イザベラ•ボルヴァンドね。イザベラさんはとても優秀な生徒です。あの理解力と知識量、先見の明も含めて当主に相応しい素質をお持ちです。女性にしておくのは勿体ないと言ったら怒られるでしょうか」

そう言って笑った。
この教師がそこまで褒めるならよほど優秀なのだろう。
気を抜けば一位を取られるかもしれない。

「でも最近はお母様を亡くされて、お可哀想です」

「母親が?」

「長い間、ご病気だったようです」

そんな辛い環境であったのか‥‥
少し心配になった。
今回のテストでは順位が下がるかもしれないな‥‥

と、思ったが彼女はまたもや二位だった。
しかも一点差だ。
神経が図太いのか、本物の天才か‥‥
会ってみたいが教室に行くわけにはいかない。

それから暫くして、俺の側近が噂話を耳にした。

「今世間ではボルヴァンド侯爵が男爵家の未亡人と再婚した話で持ちきりです」

ボルヴァンド?‥‥イザベラ•ボルヴァンドの父親か?
ついこの前、母親を亡くしたと聞いたばかりだが‥‥

「おい!彼女の様子が知りたい。皆に調べさせろ」

「え?調べるのですか?‥まさか惚れてしまわれたとか?」

「会ったこともない」

「では何故?」

「気になる。母親を亡くして気落ちしているだろうに、すぐに父親が再婚したとなれば、年頃の女性なら傷ついているだろう」

「‥‥会わずとも惚れることがあるのですね‥‥」

「そうではない。ただ気になるだけだ」

「‥‥」

学園内に人を送り、様子を調べさせた。
再婚相手の娘のアリサは、イザベラにいじめられていると言い、学園でよく涙を流していることを知った。 

本当にその様な女性だったのか?

暫くして彼女がクラスで授業を受けていないようだと報告を受けた。

一体何処にいるのだろう‥‥

時々皆の授業中に学園内を見回ってみた。
中庭の奥には王族の者が人目につかないように休憩できるガゼボが造られている。
一般の生徒は奥には行かない様に指導がされている為、ここで人に会うことはない。

たまたまそのガゼボを覗いてみると、一人の女性が本を読んでいた。
長い黒髪の女性だった。
この人がイザベラか?

「サボってるのか?」

声を掛けると、ビクッと体を揺らし驚いてこちらを見た。
大きく見開かれた瞳はアンバーの瞳で綺麗だった。
聞いていた通り色白で美人だ。
聞いて想像していたよりもはるかに美人だ。

この女性が人をいじめる?
とてもそうは見えない‥‥

俺は反対側のベンチにゴロンと寝転んだ。
彼女はとても驚いていたが、また黙って本を読み続けた。
俺も黙って寝てるだけ。
時々彼女を見ると、長いまつげがパチパチと動き、真剣に読む姿も美しかった。

聞かれるのが怖くて先に自分から言った。

「俺は男爵家の三男だから気楽なものだよ」

すると彼女は安心したようにふっと笑った。
同じ建物内の人間ではないことが分かってホッとしたようだ。

「私は侯爵家の娘だけど、親には期待されてないからいいのよ」

「そうか」

彼女が誰よりも優秀なことは知っていたが何も言わなかった。
それから俺のベンチ通いが始まった。
彼女を見てることに幸せを感じるようになっていた。
時々交わす言葉で彼女の性格が分かってきた。
気は強そうだが、正直で真面目で繊細だ。
クラスに居られないのなら、再婚相手の娘の方がよほどしたたかで彼女を陥れているのだろう。

彼女が可哀想だ。
こんなに優秀なのに授業も受けられないとは由々しき問題だ‥‥



























































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

【完結】わがまま婚約者を断捨離したいと思います〜馬鹿な子ほど可愛いとは申しますが、我慢の限界です!〜

As-me.com
恋愛
本編、番外編共に完結しました! 公爵令嬢セレーネはついにブチ切れた。 何度も何度もくだらない理由で婚約破棄を訴えてくる婚約者である第三王子。それは、本当にそんな理由がまかり通ると思っているのか?というくらいくだらない内容だった。 第三王子は王家と公爵家の政略結婚がそんなくだらない理由で簡単に破棄できるわけがないと言っているのに、理解出来ないのか毎回婚約の破棄と撤回を繰り返すのだ。 それでも第三王子は素直(バカ)な子だし、わがままに育てられたから仕方がない。王家と公爵家の間に亀裂を入れるわけにはいかないと、我慢してきたのだが……。 しかし今度の理由を聞き、セレーネは迎えてしまったのだ。 そう、我慢の限界を。 ※こちらは「【完結】婚約者を断捨離しよう!~バカな子ほど可愛いとは言いますけれど、我慢の限界です~」を書き直しているものです。内容はほぼ同じですが、色々と手直しをしています。ときどき修正していきます。

捨てたのは、そちら

夏笆(なつは)
恋愛
 トルッツィ伯爵家の跡取り娘であるアダルジーザには、前世、前々世の記憶がある。  そして、その二回とも婚約者であったイラーリオ・サリーニ伯爵令息に、婚約を解消されていた。   理由は、イラーリオが、トルッツィ家よりも格上の家に婿入りを望まれたから。 「だったら、今回は最初から婚約しなければいいのよ!」  そう思い、イラーリオとの顔合わせに臨んだアダルジーザは、先手を取られ叫ばれる。 「トルッツィ伯爵令嬢。どうせ最後に捨てるのなら、最初から婚約などしないでいただきたい!」 「は?何を言っているの?サリーニ伯爵令息。捨てるのは、貴方の方じゃない!」  さて、この顔合わせ、どうなる?

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

【完結】転生した令嬢は今度こそ幸せを掴みます!

まるねこ
恋愛
光属性魔法が使える伯爵令嬢リディスは公爵子息のフィアンと婚約していたが、フィアンの不貞に心を痛めて自害してしまう。 気がつけば14年後。  どうやら王宮で開かれたお茶会で魔力暴走に巻き込まれて半月も目覚め無かったらしい。目覚めと共にリア・ノーツ侯爵令嬢として生まれ変わった事を知る。今世こそ幸せ掴みます! なろう小説やカクヨムにも投稿中。 Copyright©︎2021-まるねこ

処理中です...