【完結】勘違いの多い二人

風子

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勘違い解消

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自分から婚約を解消しないかと言い出したくせに、そのことが辛すぎて眠れなかった。

もう「リナちゃん」とあの優しい声で呼んではもらえないだろう‥‥
目の前でお茶を飲む姿も二度と見られないだろう‥‥

そう思うだけで胸が苦しくて、結局一睡もできずに朝を迎えた。

外は少し明るくなってきた。
まだ家の皆は寝ている時間だが、一人で外へ出た。
早朝の散歩などという清々しいものではない。
ただ姉と同じ家に居たくなかった。
顔も見たくなかったからだ。
姉が悪いわけではない。
わかっているけど、美人な姉が羨ましかった。
私もあんな美人ならルイス様に釣り合うことができただろうに‥‥

もう二人の楽しそうな姿を見るのは嫌‥‥
父にお願いして一人で田舎の領地へ行こう。
私は田舎が好きだし、畑仕事だって嫌いじゃないし、それにもう‥ルイス様の顔を見なくてもいいし‥‥

涙が溢れ出す。
一人トボトボ歩く。
あてもなく、ただ涙を拭いながら歩いた。
我が家の近くには広場があり、昼間は噴水が綺麗でよく人が集まってはベンチで話し込んでいる。
花好きの人達が育てた綺麗な花壇もあって、休憩するにはとても良い場所だ。
噴水の水は止まっているが、たまった水に朝日が差してキラキラと光っている。
ベンチにでも少し腰掛けて心を落ち着かせよう‥‥
そう思ってベンチの側まで行くと、一人項垂れて座っている。

こんなに朝早く‥って‥あれ⁈

「リナ‥‥ちゃん?‥‥」

「‥‥え⁈」

顔を上げた男性はまさかのルイス様だった。

「ルイス様⁈」

驚いて立ち上がったルイス様は、こちらに歩いて来た。

「どうされたのですか?こんな所にこんな時間にたった一人で!!」

「その言葉をそっくりそのまま返すよ」

「‥‥」

私達は向かい合った。
朝日に照らされ、私の拭った涙も見えたようだ。

「泣いていた?」

「‥‥」

「どうして?」

「‥‥」

「俺も泣いていたんだ。格好悪いだろう?」

「どうしてですか?」

「好きな人に振られたからだよ」

「姉ですか?」

「は?」

「姉には他の人がいたんですか?」

「いや‥リナちゃんに振られたのだけど」

「え⁈」

「君が婚約を解消しようと言ったじゃないか!」

「はい‥‥それはルイス様が姉を好きだから」

「は⁈いつ俺がそんな事を言った?俺はリナちゃんに婚約を申し込んだはずだよ」

「ええ‥‥私を利用して姉と親しくなりたかったんですよね?」

「は⁈リナちゃんこそ、俺のことが嫌いだったのだろう?」

「え⁈そんなわけないです!」

「いつも話しかけても一言しか返してくれなくて、俺と話したくなかったんだろう?」

「いいえ、いつもルイス様と姉が楽しそうだから邪魔してはいけないと思って‥‥」

「は?」

私達は長い間、相手が話すたびに驚いて
「は?」だの「え?」だのお互いの勘違いを話し合った。

「俺はリナちゃんに一目惚れをしたんだ。だから婚約を申し込んだ。信じて欲しい。
リナちゃんに婚約を解消してほしいと言われて、あまりにもショックで立ち直れなくて‥‥気がつくとリナちゃんの家の近くまで来てしまっていた。俺は諦めが悪い男なんだ‥‥」

「私はルイス様には姉の方が釣り合うと思って‥身を引くつもりだったのに、婚約解消を言ったことが辛くて‥眠れなくて。もうルイス様と一緒に居られないのかと思ったら涙が止まらなくて」

「リナちゃん、ごめん。俺がリナちゃんを好きすぎて何も話せなかったから悪かったんだ!」

「いえ、私こそルイス様を好きすぎて何も言えなかったから悪かったんです」

そう言い終えた途端、ギュッとルイス様に抱きしめられた。

「リナちゃん、好きな食べ物は?」

「アップルパイとチョコケーキです」

「一緒に食べに行こう」

「はい」

「どこか出掛けたい所は?」

「一緒にボートに乗りたいです」

「わかった。一緒に乗ろう」

「はい」

「リナちゃんの望みは何でも叶えてあげるから、もう婚約解消は言わないでくれる?」

「はい、もちろんです」

二人の勘違いはこれで解消されたみたいです。





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