上 下
74 / 89

戴冠の間4

しおりを挟む
誰の目から見てもエリックのその姿は動揺していた。

「陛下!その者は貧しい身の上ゆえ、きっと金を渡され嘘の証言をしているのです。
金に目が眩んだ人間の言うことなど、何の信憑性もございません」

「そうです陛下!
金で民に嘘の証言をさせるなど、王族としてあるまじき卑しい行い。聞くに堪えませんわ」

ライナの援護が墓穴を掘っていることに気づかないらしい。
本人達が必死になるほど、周りから見れば不自然に見える。
このまま放っておいても皆の不信感は広がりそうだけど、私はお人好しではないから手を緩めるつもりはない。

「陛下、そちらのエリック騎士団長は双子であり、その叔父もまた双子であるそうです。そしてその子も双子であると。
私からしましたら、とても珍しい家系のように思えます。
王家の血が濃いように、彼の家系もまた血が濃いように思えますが、」

「待って下さい!!
ルリア様は勝手な憶測で皆を惑わせております。
私はマルクス王子とメルディナ王女とは全く関係のない身です。
陛下!何故このように大勢の前で、何の関係もない私が吊るし上げられるような発言を許すのですか!」

「エリック、お前の発言を許していないのにお前こそ勝手に何のつもりだ」

エリックを睨み付けた陛下は同様に縛るように合図を出したが、私はあえてそれを止めた。

「陛下、お待ち下さい。口を塞がずに私は話し合いを望みます。
どちらが真実を言っているのか話し合わねば分かりません」

私の一言に陛下は頷いた。
口を塞がれないことにほっとしたのか、より一層大きい声を上げたエリックは、

「ルリア様、この様な茶番はもうおやめください!
ルリア様がご両親を亡くされてお辛いことは承知しております。
ですがあれは不幸な事故、ただの不運な事故なのです。
受け入れられず、その様な妄想をされたのでしょう?
人はあまりに辛いことがあると、精神を病むものです。
ルリア様は精神の病に冒され、現実にはあり得ない空想の世界におられるのです。
お可哀想に」

エリックは急に私を憐れむような態度に変えた。
会場が一瞬、あぁぁ‥というような空気に変わる。
まるで私が突拍子もないことを言い出したのは精神病を患った頭のおかしな人間だからというように。

なるほど‥‥

この男もライナと王家を狙うだけのことはある。
ジオンは優しい兄のような存在だと言っていたけれど、長い間バンホワイト家に仕え、そしてライナと共にいることで彼は完全に欲深い善の心を失った人間になってしまったようね。

両親を殺しておきながら、娘の私を精神病だと思わせる演技をはじめるとは。

ますますやる気が出てきたわ。

「まぁ!私の親の命を奪った方にその様な気遣いができるとは思いませんでしたわ」

「やはりルリア様は頭がもう正常ではないようですね。
陛下、ルリア様をもう休ませて差し上げて下さい。
あまりにお気の毒です。
護衛を付け部屋までお連れします」

「私の命まで奪うつもりとは大胆ね。
言っておくけど、あなたの率いる偽騎士達に私の命は奪えないわよ。
私の師はオリバーケイル。この国一番の剣豪だったのよ。あなた達は足元にも及ばないわ」

「その様な被害妄想はやはり精神を病んでおられる症状です。
ルリア様は現実を受け入れられないことで、まともな思考ができないご様子。
一度医師に診てもらい療養された方がよいかと思われます。
皆もルリア様を心配しております」

会場に居る皆を巻き込むように後ろを振り返りながら何度か頷いて、同意を得ているかのようにもっともらしく意見する。

エリックという男はライナの態度とは対照的に人の情に訴えるような姑息な真似をする。
ジオンを見れば悔しそうに拳を握り締め、ギュッと目を瞑った。
ジオンは真っ直ぐな男なのだと思う。
正直に話したことを、信じていたエリックから否定され、挙げ句の果てには金目当てだと言われてやりきれないだろう。

「大丈夫よ、ジオン」

もう一度背をさすり、「真実を語る者は負けないわ」そう声を掛けると、チラリと後ろを振り返った。
少し私も心細くなったのかもしれない。
皆の顔は強張っている。
けれど一人だけニヤニヤと楽しそうな表情を浮かべる者がいる。
‥‥マリーだ。
彼女だけは、まるでこの状況を楽しんでいるかのように緊張感のかけらも感じない。
どういうこと?
今私は精神病者にされそうになってるのですけど‥‥
場の空気は一気にエリックに傾いたようなのに、マリーは楽しんでる?

‥‥恐ろしいわ‥‥やはり只者ではない。
‥‥この王女だけは敵に回してはいけないわね‥‥

でもおかげで私もまた腹が据わる。
マリーにみっともない姿など見せていられない。

「私の頭が狂っているのか、あなた達が嘘をついているのか、それはここに居る全ての者にまずは判断してもらえばいいのではないですか?
陛下、私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、許そう」

「ルリア様‥‥どういう意味でしょう‥‥」

顔色を変える。

「私が何の用意もなくこの様な話を持ち出すと思っているのなら、それこそあなたの頭がおかしいのではなくて?」

「‥‥」

「扉を開けなさい!!」

私の声に白騎士達が動く。

皆がまたざわついた‥‥
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】

仲村 嘉高
恋愛
魔法と剣の世界に転生した私。 「嘘、私、王子の婚約者?」 しかも何かゲームの世界??? 私の『宝物』と同じ世界??? 平民のヒロインに甘い事を囁いて、公爵令嬢との婚約を破棄する王子? なにその非常識な設定の世界。ゲームじゃないのよ? それが認められる国、大丈夫なの? この王子様、何を言っても聞く耳持ちゃしません。 こんなクソ王子、ざまぁして良いですよね? 性格も、口も、決して良いとは言えない社会人女性が乙女ゲームの世界に転生した。 乙女ゲーム?なにそれ美味しいの?そんな人が…… ご都合主義です。 転生もの、初挑戦した作品です。 温かい目で見守っていただければ幸いです。 本編97話・乙女ゲーム部15話 ※R15は、ざまぁの為の保険です。 ※他サイトでも公開してます。 ※なろうに移行した作品ですが、R18指定され、非公開措置とされました(笑)  それに伴い、作品を引き下げる事にしたので、こちらに移行します。  昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。 ※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?

柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。  婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。  そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――  ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

【完結】あの子の代わり

野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、 婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。 ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。 18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、 キャリーヌにいないからという理由だったが、 今回は両親も断ることが出来なかった。 この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

幼なじみの親が離婚したことや元婚約者がこぞって勘違いしていようとも、私にはそんなことより譲れないものが1つだけあったりします

珠宮さくら
恋愛
最近、色々とあったシュリティ・バッタチャルジーは何事もなかったように話しかけてくる幼なじみとその兄に面倒をかけられながら、一番手にしたかったもののために奮闘し続けた。 シュリティがほしかったものを幼なじみがもっていて、ずっと羨ましくて仕方がなかったことに気づいている者はわずかしかいなかった。

処理中です...