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募る愛しさ

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港に向かう馬車の中、マリーに会えなかったことが心残りになっていた。

「王宮のどこにもマリーがいなくて御礼を言えなかったわ‥‥」

「あー、朝早く出掛けたと聞いている」

「そう‥‥せめてお別れを言いたかったのに残念だわ。マリーにはとてもお世話になって迷惑ばかりかけたんだもの‥‥」

「仕方ないさ」

「手紙を書くわ」

「ああ、そうしてやってくれ」

マリーはきっと、あなたって人は‥って怒っただろうな。
それでも怒られても呆れられても顔が見たかったな‥‥

「そうだ、ベルラード。悪いけど、ヨハンさんの所に寄ってもらえない?
ティナさんにも挨拶したいの」

「ああ、構わない。ティナの店に寄ろう」

ヨハンさんには誰よりも迷惑をかけてしまった。
この国に着いた時から、私のせいで色々巻き込んでしまったもの。
最後にもう一度謝りたい。

カランカランッ

「いらっしゃ‥‥あら⁈
ルリア様!殿下!」

「ティナさん‥‥実は急遽国に戻ることになってしまったの。
今までお世話になったのに何もお返しできないまま行くことを許してください」

両手をギュッと握って謝った。

「何を仰います!私など何の役にも立っておりませんわ。
その、国に戻ってもまた帰って来てくださるのでしょう?」

「‥‥それは‥‥約束できなくて」

「え?そうなのですか?‥‥でも」

「⁈何か?」

「いえ、私は戻って来てくださると信じておりますから」

「‥‥ありがとう‥。それで、ヨハンさんはどちらに?」

「ヨハンですか?実は夜明け前に王女様が来られて一緒に兄の船で‥‥」

「え?」
「何?マリーが?」

「ええ‥‥その、兄の船で一緒にアルンフォルトへ行くと言って」

「⁈フェルネスさんの船で?」

「はい‥‥」

ティナさんも少し困ったように頷いた。

マリーがアルンフォルトへ?
しかもヨハンさんを連れて?
何故かしら‥‥どうしてアルンフォルトへ行く必要が?

「はぁ‥‥マリーのことだ。影からの情報でルリアが帰ることを知っていたのだろう。
好奇心旺盛な奴だから、ルリアがどうなるか自分の目で見たかったのだろう」

「だったらそう言ってくれれば‥‥一緒に行けばいいのに‥‥」

「あいつのことだ。何か考えがあるのだろう。
まったく困った妹だ‥‥」

ベルラードは呆れたように呟いた。

わざわざ国を出てアルンフォルトに行くなんて、陛下は許してくださったのかしら?

ベルラードも行くというのに、ダルトタナードの王子と王女が隣国に行くなんて大変な事になってしまったわ。
最後まで私のせいで国に迷惑をかけてしまうのね‥‥

「そうそう!ちょうど良いわ!」

思い付いたようにティナさんは私の手を引くと、試着のできるカーテン奥に連れて行った。

「出来上がったばかりのものがあるので、ぜひ着てください」

何人かの女性にあっという間に着替えさせられてしまった。

「このワンピース、とっても素敵ですね」

薄紫色のワンピースは、ウエストに細い黒いリボンがあり、結び目には黒いバラが、裾には黒いレースが品良くぐるりと付けられている。
首には黒バラの付いたチョーカーがセットになっている。
まるで私とベルラードがひとつになったようなワンピースだ。

「黒と紫の相性はとても良いんです。
濃い紫なら妖艶に、薄い紫なら品が良くて最強ですわ」

ちょっと頬が熱くなる。
まるでベルラードとお似合いだと言われているようで、恥ずかしいけど内心とても嬉しい。
カーテンから出てベルラードの前に立つと、

「何だ‥‥可愛すぎるだろう」

上から下までざっと目をやるとそう言って、またギュウゥッと抱きしめた。

人前でもお構いなしだ。

「べ、ベルラード!」

背をトントンと叩くと

「可愛すぎて、やはり離れたくない。
また抱いて眠りたい」

「ちょっと!!」

周りの皆の方が真っ赤になっている。
私も夜のことを思い出して全身が火照るようだ。

「やめてよ!」

慌てる私に、

「夜のせいで体がキツイのか?」

「ちょっと!!」

真顔で言うのは余計に恥ずかしい。
周りの女性達は手で顔を隠している。
ヘイルズに目をやれば、ひどくベルラードを睨んでいる。
王太子のこんな姿を民に見せるのはよくないから、きっと怒っているのね。

「もう、ベルラード!行きましょう!」

何度も背を叩くが放してくれない。
余計にギュウギュウと抱きしめてくる。

「もう‥‥」

困ってしまうが‥‥でもそんな甘えてくるベルラードも愛しく思った。
私だって離れたくないのよ‥‥本当に。
しがみつくベルラードの髪をそっと撫でる。
さらさらとして、その髪一本一本も愛しく思えた。

「ベルラード‥‥行きましょう‥‥」

呟くように言えば、仕方なさそうにゆっくりと離れた。
こんなに感情を露わにするようになったベルラード‥‥
私と離れて国に戻ったらどうなるのかしら‥‥
ベルラード本人がいくら拒んでも、妃選びは再び行われるだろう。

だとしたら‥‥メアリー様とのこと‥‥

「どうした?思ったことは何でも言ってくれ」

「ベルラード、気になってるから聞きたいの。メアリー様とフォルター公爵はどうなったの?カリンはいつ戻れるの?」

「どうした?急に」

「私が関わったことだから最後まで知りたいわ」

「分かった‥では船に乗ってからゆっくり話そう」

私はティナさんに別れを告げ、船に乗り込んだ。
















































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