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初めての感謝

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ベルラード王太子殿下の手を取り部屋を出た。

結局マリーに言われたような相思相愛の演技などできるはずもなかった。
やっぱり最初から私には無理だと思っていたけれど‥‥

ただ濁して時間を引き延ばして、二週間をやり過ごしたい‥その一心になってしまっていた。

あのまま上手く濁せれば、一番良かったのではないかしら‥‥

それなのにマリーも王太子殿下も畳み掛けるように仲の良さをアピールしようとする。
婚約者候補の令嬢達の反応は当たり前だ。
突然現れた女に今までの努力を無駄にされるなど受け入れられないだろう。
申し訳ない気持ちになる。

王妃宮を出てベルラード王太子殿下のエスコートで歩きながら、私は本当に自由になれるのか不安になってきた。

「あの、王太子殿下‥」

「ベルラードと呼んでくれ」

「いえ、このままで」

「ベルラードと呼んでくれ」

「いえ‥」

「ベルラードと呼んでほしい」

一歩も譲らない姿勢は最初の話し合いと同じだ。
面倒くさいので、これからはベルラードと呼ぶことに決めた‥‥

「ベルラード」

「何だ?ルリア?」

嬉しそうだわ‥

「あの、私が初めに申し上げたのは二週間後の夜会までです。それは守ってくださるのですよね?
それから妃になるつもりはございません。あくまで婚約者のふりというだけです。それがお約束したことのはずです」

「ふり?そんな話ではなかった。そなたは俺の妃となるのだ。末永く頼むと言ったはずだ。」

「話が違います。妃になれば、令嬢達やこの国に議論を巻き起こすことになります。それはしたくないのです。
我が国でもきっと‥私のせいで混乱が起きているはずです。
それなのに、隣国まで私のせいで混乱させたくはないのです。
‥‥わかって下さい」

後ろを振り返ると、側近のヘイルズと侍従のアロンは困った顔をしている。

最初の話し合いでもっとはっきりとさせておくべきだったのかしら‥‥
私とベルラードの認識が食い違っているようだわ。
やはり皇妃に似ているから王宮に留めておく気だったのね。
念書でも書いておくべきだったわ‥‥

「国は混乱などしない。ルリアは何も心配しなくていいと言っているだろう。俺に任せておけ。皆の命もきちんと守る」

「私の認識はあくまで夜会の同伴までですから」

「それよりルリア!今日そなたに見せたいものがあるのだ!急ごう」

話を逸らしたわね‥
もう一度よく話し合うべきかしら‥
それとも夜会が終わったら、そのまま出て行く方がいいかしら‥

ベルラードは私の手を掴むと急いで馬車に乗り込んだ。 

「何ですか?一体」

「そなたの喜ぶ顔が見たいのだ!」

「今すぐに解放してくれたら一番の笑顔をお見せしますわ」

「はははっ。それは残念だ。一番の笑顔は見られないようだ」

悪態をついた私に何故かベルラードは楽しそうだ。
本当におかしな人‥‥

馬車の中には、私とベルラード、ヘイルズ、アロンの四人で座り、一時間近く馬車に揺られた。
一体何処へ連れて行くつもりなのかしら‥
誰も教えてくれない。

「ヘイルズ?何処へ行くのか教えてちょうだい!」

「いえ、私の口からは申せません」

「アロン?あなたなら教えてくれるわよね?」

「いえ、私は何も知りません」

「もう‥‥」

私は二人とも親しく話せる仲になっていた。
王太子宮にいる皆が親切な為、私は使用人達ともだいぶ打ち解けたやり取りができるようになっていた。

マリーの助言は
『ねーさまの味方をたくさん作っておく方が後々自由になりやすいですわ!だから王太子宮にいる皆と仲良くしておいて下さいませ』
というものだった。

私は親しくなりすぎると出て行きづらくなると考えていたのだが、マリーはその逆だと言い張っていた。

『親しくなっておいた方が、お兄様よりもねーさまの味方をして逃してくれるかもしれないわ』
と言うのである。

マリーはしっかりしてる子だから、きっとマリーの言う通りにしておいた方が出て行きやすくなるのだろう‥‥

信じていいのよね?
騙されてないわよね?

「ルリア、目を瞑っていて!もう少しで着きそうだ」

ベルラードは私にそっと目隠しのハンカチを当てた。

「何があると言うのですか?」

いつになく楽しそうに見えるベルラードに半ば呆れながらも大人しくハンカチを目に当てたまま待っていると、

「さぁ、着いたぞ!まだ駄目だ!見ないでくれ」

「見てません!」

これでは何も見えなくて馬車からも降りられない。

「ルリア、私が抱いて降ろすから、そのまま目を瞑っていてくれよ!」

「え⁈」

言うと同時に少し手を引かれ、馬車から抱えられるように降ろされた。
と、思ったら足が地面に着かない。

「少しこのまま歩くから、俺の首に手を回し、しっかり抱きついていてくれ」

「は⁈」

歩き出してしまう。
仕方ないので目を瞑ったまま、危ないのでしっかりとしがみついた。
何だか幼い頃に戻ったようだ。
父に抱かれたことを思い出して、その頃のような安心感がある。

男の人ってこんなに逞しいものなのね‥‥
何だか頬が熱いわ‥

「さぁ、ルリア!目を開けてくれ!」

目を開けるとベルラードの瞳がある。

「どうした?顔が赤いぞ!熱でもあるのか?」

「いえ‥‥違います!早く下ろして下さい!」

慌てて下りるが心臓が痛いほどにドクンドクンと音を立てている。
もう‥‥無神経なのよ‥

正面を見ると‥‥

一面に広がる紫のラベンダー畑があった‥

「わぁ!‥‥綺麗‥」

その美しさは言葉にできない程だった。
風に揺れる紫の絨毯。
なんて‥‥綺麗なの‥‥

「喜んでもらえるかな?」

心配そうに顔色をうかがうベルラードに、私はまたドクンッと心臓が大きく跳ねる。

「あの‥‥すごく綺麗」

「ああ良かった!!」

ホッとしたように胸を撫で下ろしている。

わざわざ私のために探してくれたのだろうか。

「あの‥‥ありがとう」

「いや、いいんだ。そなたが喜んでくれるなら」

「この前話したこと、覚えていたのね?」

「ああ。ルリアが懐かしそうに話していたから、もう一度見たいのではないかと思って」

「‥‥優しいところもあるのですね‥」

「いつもだろう?」

「いえ、いつもは傲慢ですけれど」

あはははっ

また嬉しそうだ‥‥

この人は悪態をつかれるのが好きなのかしら?
変態ね。

でも‥‥
今日は感謝しておこう。

こんなに素敵な景色を見せてくれたのだから‥‥































































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