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最悪の出会い

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人混みに戻ってすぐの所で人の輪ができていた。
あっという間に追いつくと輪の中へ入った。
六歳くらいの女の子がうずくまって泣いている。

この子‥‥

肌は美しい褐色の肌だ。
この国ではなく、この肌はおそらくラヌー国。
周りの人達はおろおろと何も出来ないでいる。

「大丈夫かい?」

ヨハンさんが声を掛けるが、女の子は首を振ってまた泣き出した。
私が駆け寄ると、ヨハンさんは驚いている。

「ルリアちゃん!どうして⁈付いて来たの?」

「ええ、それより‥‥」

私はラヌー国の教育も受けている。
通じるかしら?

『大丈夫?困っていることがあるなら私に話してくれない?』

ラヌー語で話しかけると女の子がピタリと泣くのを止め顔を上げた。

『お姉さん、ラヌー国知ってるの?』

『ええ、もちろん。素敵な国だもの。一体あなたはどうして泣いているの?何があったの?』

『お父様とここへ来たのだけど、はぐれてしまって、誰に聞いても言葉が分からなくて‥』

そう言って涙をポロッと流した。
ラヌー国特有のカラフルな糸で織り上げた衣装はとても綺麗だ。

『そうだったの。わかったわ。一緒にお父様を捜してあげるから、もう大丈夫よ』

『本当?』

『ええ、本当よ。私と一緒なら泣かないでいられる?』

『うん!』

女の子は立ち上がると私に抱きついた。
よほど心細かったのだろう。
今の私にはこの女の子の気持ちが痛いほどよく分かる。
まるで私自身を見ているようだった。
女の子の手を握ると、人の輪をそっと抜け出した。
何故か周りの人達が拍手をしだして、私は恥ずかしくなってしまった。

「ルリアちゃん、この子の言葉が分かるの?」

また琥珀色の瞳が大きくなっている。

ラヌー国は小さい。
そのうえ閉鎖的な国の為、外交は今まであまりしてこなかった国だ。
その為、教育者も少なく学べるのは我が国でも高位貴族か王族のみ。
複雑な言語の為、習得にも時間がかかる。
私も出来るのは会話だけ。
読み書きは非常に難しい。

「ええ、会話だけなら」

「‥‥」

ヨハンさんは何も言わなかった。
その沈黙が気になったが、まずはこの子の父親を捜さなくては‥‥
人混みをゆっくり歩きながら通る人を見るが、なかなか見つからない。

「よいしょ!っと」

ヨハンさんが女の子を持ち上げると自分の肩に乗せた。

「これで見えるかな?」

女の子が落ちないように支えながら歩いてくれる。
ヨハンさんて‥‥本当に優しい方ね。

『上からお父様は見える?』

『あっ!いた!お父様ーー』

女の子が大声で叫ぶと、遠くから手を振りながらこちらへ向かって来る人がいる。
女の子は目の前に来た男性に飛びついた。

『何処へ行ってしまったのかと捜していたんだ!心配したんだぞ!勝手に動いては駄目だと言っただろう!』

父親は口調はきついが女の子をしっかりと抱きしめている。

『このお姉さん達が助けてくれたの。ラヌー語話せるんだよ』

『え⁈話せますか⁈』

『ええ、少しでしたら』

『ああ、本当にありがとうございました。この子はじっとしていられない子で、すぐに勝手な行動をしてしまうんです。この人混みですから、なかなか見つけられなくて困っていたんです。ありがとうございました』

そう言って胸に手を当てて頭を下げた。

『いいえ、見つかって良かったです。心細かったでしょうから、たくさん抱きしめてあげて下さい。それと、私よりも彼のお陰で早く見つけられたと思います』

とヨハンさんを見ると、父親はヨハンさんに握手を求めた。

『あなたのお陰です。ありがとうございました』

ヨハンさんはにっこりと笑った。

「何て言ってるの?」

ボソッと私に言うので笑ってしまった。

「あなたのお陰だとお礼を言ってますよ」

「ああ、どういたしまして」

にっこり笑い合っているが何だかおかしかった。

和やかな雰囲気になったところで、父親の後ろから一人の男性が前に出て来た。

「そなたは何者だ?ラヌー語を話せる者がここにいるとは驚いた。何処の家の者だ?」

急に心臓がドクンっと大きく音を立てる。
‥‥何?‥‥誰?

背が高く漆黒の髪をした男性は、睨むように真っ直ぐ見つめる。
その瞳は髪と同じで黒かった。
容姿は美しく整った顔立ちをしている。
服装は白いシャツに黒いズボンのシンプルな身なりだが、高位貴族に違いない。
恐ろしくてショールをぐっと深く被った。

「彼女は私の友人です。今日は観光に来ただけですのでこれで失礼します」

ヨハンさんは私の肩を抱くと「さぁ伯父さんの所に戻ろう」

と声を掛け微笑んだ。

「ええ、戻りましょう」

私達の周りにも人の輪がいつの間にかできていて、皆が何事かとどんどん集まって来ている。

「おい、待て!話がある。共に来い」

何とも偉そうに呼び止めると、

「あの二人を王太子宮へ連れてこい!」

と何人かに命令している。

ちょっと何⁈‥‥どういうこと‥‥王太子宮⁈

「私達が何をしたと言うんですか?人を助けただけなのに、なぜ王太子宮へ行かねばならないのですか?」

「これはこれは、モーガン侯爵家のヨハン様でしたか」

「え⁈」

物腰の柔らかい眼鏡の男性は、ヨハンさんの前に来ると親しげに話しかける。

ヨハンさんが侯爵家?
商会って言っていたのに、商人ではなかったの?
一体何がどうなっているの‥‥

身を隠す為に来た隣国で、王太子宮に連れて行かれるなんて、もうこれは‥‥終わったわね‥‥

そう思った途端、体の力が抜け私は意識を失った。

「ルリアちゃん!ルリアちゃん!しっかりして」

「おい!何をやってる!早く運べ!」

「あなた達のせいでしょう!私の大切な客人を怖がらせて、人助けをしてくれたのに何て可哀想なことをするんですか!」

「何だと?俺のせいだと言うのか?」

「あんなに睨んだら誰だって気を失うでしょう!」

「睨んでない!」

「ヨハン様、殿下は元々このお顔です」

「それが睨んでるって言うんです!」

「ヨハン様、とにかくその女性を早く運びましょう!」

「ああ、私が抱いて行くよ。それと向こうに私の伯父がいるので知らせて下さい。彼女を連れて来たのは伯父なので」

「分かりました。では早く馬車へ」


伯父が連れて来たこのルリアという女性は、きっと訳ありだ。
これだけ美人で教養もある。
何かあるに違いない‥‥

クソッ
せっかく楽しんでいたというのに台無しだ。
目が覚めたら早く連れて帰ろう‥‥
ルリアちゃん‥‥
婚約者とかいないかな?‥
















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