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私は裏切り者で邪魔者
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船着場に着くと、荷物を船に積み込みながら彼は何やら船員と話をしている。
私のことを頼んでくれているようだ。
しばらくして私の元へ来た。
「あの、船に乗せてくれるそうですが、乗りますか?」
「ええ、ありがとう。乗せてもらいたいわ。あなた、お名前は?」
「トムっていいます」
「私はルリア。本当にありがとうトム。助かったわ。これから先、誰があなたの所に来ても決して私と関わったとは言っては駄目よ。あなたの命の為なの。私との関わりは無かったことにしてちょうだい」
「はい‥わかりました。お気をつけて‥」
「ええ、どうもありがとう。この恩は忘れません。どうかトム、お元気で」
私はワンピースの裾を摘み、感謝を込めてカーテシーをした。
人を巻き込んでしまったのだもの。
悩んでいる場合じゃない。
踏み出さなきゃ‥‥
剣術でも踏み込みが甘いと命取りになる。
勢いも大切にしなきゃ‥‥
今度こそ覚悟を決め船に乗り込んだ。
空が朝焼けで美しくなる頃、船はダルトタナードに向け出航した。
「この商船の責任者のフェルネスと申します」
「ルリアと申します。急なお願いで申し訳ありません。」
ショールを取ると目を大きくした。
「いいえ、ヴィルドルフ国王陛下からは大変良くして頂きました。このように外国に輸出できる仕組みを整え、造船に力を注いで下さった陛下にご恩があります。商人の私で役に立つことがあれば何でもお手伝いさせて下さい。王女様」
「ありがとう。感謝します。それと、王女ではなく、ルリアとお呼び下さい」
恰幅の良い男性は笑顔で私に頭を下げた。
彼は私がヴィルドルフの娘であることが分かったようだ。
「このように国を出る事を不審に思われるでしょう。違法であることは承知しています。ですが、私は覚悟の上でこの船に乗りました。自分の意志です。あなたにご迷惑がかからないよう、どうか私と関わった事は誰が来ても話さないで下さい」
「分かりました。その覚悟には話せない理由がおありでしょう。私が無事にダルトタナードの安全な所にお連れするとお約束します」
「ありがとう、フェルネスさん」
彼は優しく笑い、胸に手を当てると深く頭を下げた。
「ダルトタナードへの到着は四日後の昼前になると思います。それまでゆっくり過ごして下さい。まずは一緒に朝食はいかがですか?」
「まぁ!とっても嬉しいわ!実はお腹が空いていたんです」
私がお腹に手を当てるとフェルネスさんは声を出して笑った。
「はははっ良かった!船の上での食事は美味しいですよ」
緊張が解けて私もつられて笑った。
これからどんな人生になるのだろう。
王宮が少しずつ遠ざかっていく。
先王の娘でありながら他国に寝返った裏切り者‥‥
そういうことになるのかしら。
王妃ライナの言ったように、王族でありながらカールフラン公爵との結婚から逃げた私は、国の為に生きることができなかったというべきなのだろうか。
結婚が嫌だという単純な理由で国を出るのだから、裏切り者には違いない。
きっと、皆呆れるはずだ。
民が知ればどうなるのだろうか。
結婚には穏やかな生活の理想を持っていた。
少なくともカイトとは穏やかな生活になっただろう。
父と母が生きていれば、きっと今日も平和な一日だったのに‥‥
身の不運を嘆いても仕方ないけれど、遠ざかる白く美しい宮殿が胸を締め付ける。
許されるのなら、いつか戻ってきたいと思ってしまう。
私はあの美しい宮殿が大好きだから。
特に父が母の為に建てた離宮は、いつも沢山の花で飾り付けられていて綺麗だった。
花好きの母が父と二人で花の手入れをしている姿は、とても幸せそうだった。
もしあの時、カイトがメルディナの手を払い、私の手を取って絶対に一緒になろうと言ってくれていたら、私も彼について行く覚悟ができたかもしれない‥‥
けれどやっぱり‥‥メルディナの手は払わなかった。
カイトもメルディナを好きだったのかもしれない‥‥
思えば婚約が決まった幼い頃から、いつもメルディナは私とカイトの側に来ていた。
婚約者がいるのに近付き過ぎるのはいけない事だと常識を教えれば、私が嫌がらせをすると泣き真似をしてはカイトに甘えていた。
「一緒にお茶を飲むくらい構わないよ」
優しいカイトはメルディナを邪険にしなかった。
どんな時も受け入れてあげていた。
それを見ているのは複雑な気持ちだったけれど、強くカイトを責めなかったのは、私のカイトに対する思いが愛というよりも、やはり友人のままだったというべきかもしれない。
カイトも私の婚約者に決まったものの、メルディナを好きになってしまったのだわ。
だからいつも受け入れ、嘘の泣き真似を慰めていた。
きっとそうだったのよ‥‥
私が気付くのが遅かったのね‥‥
ならば二人が結婚することを祝福してあげなきゃいけないわ。
邪魔者は、私だったということだもの‥‥
これも運命ね。
国を出て穏やかに暮らすわ。
お父様、お母様、最後の我が儘を許してね‥‥
私のことを頼んでくれているようだ。
しばらくして私の元へ来た。
「あの、船に乗せてくれるそうですが、乗りますか?」
「ええ、ありがとう。乗せてもらいたいわ。あなた、お名前は?」
「トムっていいます」
「私はルリア。本当にありがとうトム。助かったわ。これから先、誰があなたの所に来ても決して私と関わったとは言っては駄目よ。あなたの命の為なの。私との関わりは無かったことにしてちょうだい」
「はい‥わかりました。お気をつけて‥」
「ええ、どうもありがとう。この恩は忘れません。どうかトム、お元気で」
私はワンピースの裾を摘み、感謝を込めてカーテシーをした。
人を巻き込んでしまったのだもの。
悩んでいる場合じゃない。
踏み出さなきゃ‥‥
剣術でも踏み込みが甘いと命取りになる。
勢いも大切にしなきゃ‥‥
今度こそ覚悟を決め船に乗り込んだ。
空が朝焼けで美しくなる頃、船はダルトタナードに向け出航した。
「この商船の責任者のフェルネスと申します」
「ルリアと申します。急なお願いで申し訳ありません。」
ショールを取ると目を大きくした。
「いいえ、ヴィルドルフ国王陛下からは大変良くして頂きました。このように外国に輸出できる仕組みを整え、造船に力を注いで下さった陛下にご恩があります。商人の私で役に立つことがあれば何でもお手伝いさせて下さい。王女様」
「ありがとう。感謝します。それと、王女ではなく、ルリアとお呼び下さい」
恰幅の良い男性は笑顔で私に頭を下げた。
彼は私がヴィルドルフの娘であることが分かったようだ。
「このように国を出る事を不審に思われるでしょう。違法であることは承知しています。ですが、私は覚悟の上でこの船に乗りました。自分の意志です。あなたにご迷惑がかからないよう、どうか私と関わった事は誰が来ても話さないで下さい」
「分かりました。その覚悟には話せない理由がおありでしょう。私が無事にダルトタナードの安全な所にお連れするとお約束します」
「ありがとう、フェルネスさん」
彼は優しく笑い、胸に手を当てると深く頭を下げた。
「ダルトタナードへの到着は四日後の昼前になると思います。それまでゆっくり過ごして下さい。まずは一緒に朝食はいかがですか?」
「まぁ!とっても嬉しいわ!実はお腹が空いていたんです」
私がお腹に手を当てるとフェルネスさんは声を出して笑った。
「はははっ良かった!船の上での食事は美味しいですよ」
緊張が解けて私もつられて笑った。
これからどんな人生になるのだろう。
王宮が少しずつ遠ざかっていく。
先王の娘でありながら他国に寝返った裏切り者‥‥
そういうことになるのかしら。
王妃ライナの言ったように、王族でありながらカールフラン公爵との結婚から逃げた私は、国の為に生きることができなかったというべきなのだろうか。
結婚が嫌だという単純な理由で国を出るのだから、裏切り者には違いない。
きっと、皆呆れるはずだ。
民が知ればどうなるのだろうか。
結婚には穏やかな生活の理想を持っていた。
少なくともカイトとは穏やかな生活になっただろう。
父と母が生きていれば、きっと今日も平和な一日だったのに‥‥
身の不運を嘆いても仕方ないけれど、遠ざかる白く美しい宮殿が胸を締め付ける。
許されるのなら、いつか戻ってきたいと思ってしまう。
私はあの美しい宮殿が大好きだから。
特に父が母の為に建てた離宮は、いつも沢山の花で飾り付けられていて綺麗だった。
花好きの母が父と二人で花の手入れをしている姿は、とても幸せそうだった。
もしあの時、カイトがメルディナの手を払い、私の手を取って絶対に一緒になろうと言ってくれていたら、私も彼について行く覚悟ができたかもしれない‥‥
けれどやっぱり‥‥メルディナの手は払わなかった。
カイトもメルディナを好きだったのかもしれない‥‥
思えば婚約が決まった幼い頃から、いつもメルディナは私とカイトの側に来ていた。
婚約者がいるのに近付き過ぎるのはいけない事だと常識を教えれば、私が嫌がらせをすると泣き真似をしてはカイトに甘えていた。
「一緒にお茶を飲むくらい構わないよ」
優しいカイトはメルディナを邪険にしなかった。
どんな時も受け入れてあげていた。
それを見ているのは複雑な気持ちだったけれど、強くカイトを責めなかったのは、私のカイトに対する思いが愛というよりも、やはり友人のままだったというべきかもしれない。
カイトも私の婚約者に決まったものの、メルディナを好きになってしまったのだわ。
だからいつも受け入れ、嘘の泣き真似を慰めていた。
きっとそうだったのよ‥‥
私が気付くのが遅かったのね‥‥
ならば二人が結婚することを祝福してあげなきゃいけないわ。
邪魔者は、私だったということだもの‥‥
これも運命ね。
国を出て穏やかに暮らすわ。
お父様、お母様、最後の我が儘を許してね‥‥
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